軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1465 ジュニアの冒険:若さとは

まず三回戦第一試合。

「農場神拳、天農奔烈!」

「ほぎゃぴぃいいいいいいいッ!」

名もなき対戦相手に勝利し、さらに勝ち進む僕ジュニア。

しかし僕ずっと第一試合だな、しょうがないけれど。

そんな中、僕的にもっとも注目する試合が始まろうとしていた。

前人魚王ナーガスvsイエローテイル。

秘密組織ウェーゴの刺客は、先代人魚王を突破できるか。

僕も観戦者として駆けつけたが、既にリングに入っているイエローテイルくんはこの世の終わったような顔色だった。

これはもう戦う前から敗色濃厚。

そうなるのも仕方ない。相手は人魚国史上初の十年連続優勝殿堂入り。無敵と謳われ人魚の伝説となった筋肉ダルマ、ナーガスおじいちゃんなのだから。

気勢で押し負けるのも仕方のないことだった。

「ぬぐぅ……だがしかし! 戦う前から諦めるなんてエヌ様に顔向けできない! 農場六聖拳の一人として、エヌ様に恥じる戦いだけはできないぞ!」

「その意気だイエローテイル!」「当たって砕けろー!」

依然としてウェーゴの応援席からは温かい声援が飛ぶ。

「イエローテイル無理すんなー。相手はナーガスじいちゃんなんだから捻り潰されたって恥じゃねえー」

「エヌ様ッ!? アナタからそのように言われては……たとえ全身が粉砕しようとも勝たねばと思いますぞ!!」

うわぁ、逆に闘志が燃え滾っておる。

「もっす」

対するナーガスおじいちゃんは泰然自若だ。

まさに強者の貫録。

一回戦、二回戦も相手を瞬殺で勝ち上がり、絶対王者の威厳をこれでもかと見せつけている。

もう年齢的に衰えていいと思うんだけどなあ。

まだ全盛期更新してない?

とにかく人魚族全員が『思い出の中でジッとしててよ……』と思うおじいちゃんだった。

……ん?

そんなおじいちゃんの視線が、ずっとこっちに注がれているような?

向こうでは依然、イエローテイルくんを励ますウェーゴの情熱コールが鳴りやまない。

……まさか?

「……………………おじいちゃん、がんばれー」

ボソリと言ってみたら効果てきめん。

「もっすぅううううううッッ!! もすもすもすもすもすもすもすもすもすもすもすもすもすもすもすッッ!!」

ヒィッ!? めっちゃ反応しておられる!?

もしやおじいちゃん、対戦相手が応援されてるのを見て羨ましかったの!?

やめなさいよ、でぇベテランがルーキーを羨ましがるのッ!?

「ああッ、エヌ様! ジュニアのヤツ相手側を応援していますわ!」

「とことんオレたちの敵に回ろうってわけだな! ふてぇヤツめ!」

くそッ、僕にまで矛先が回ってくる。

もういいからさっさとこの試合終わらせてくれ! そうしない限り僕の心に平穏が訪れない!

そうして戦いのゴングが鳴る(比喩)。

伝説を築き上げた老王と無名の新人。

本当ならば消化を待たれるばかりのつまらない試合のはずだった。

「もっす」

ナーガスおじいちゃんの振り下ろした矛が、イエローテイルくんを直撃。

それと同時に凄まじい衝撃波が海流となって四方八方に散った。

「うえぇええええええええええええッッ!?」

「ぐごぉおおおおおおおおッ!?」

観客席にまで衝撃が襲い来る。

「観客席のシャボンを保護しろ! 耐衝撃にモードを切れ!」

「二重幕展開! 観客の安全を最優先!」

運営側も大わらわだ。

そこまでの衝撃、中心にいるイエローテイルくんは一溜まりもないかと思えたが……。

「ぐ……、お……!」

なんとギリギリのところで凌いでいた。

盾代わりにかざした彼の銛はへし折れて原形をとどめず、もう武器として完全使用不可能になっていたが、それを犠牲としてイエローテイルくん自身はなんとか香道不能をまぬがれている。

これは充分に凄いことだ。伝説の人魚王を前にしていることを考えれば。

「よく凌いだぞイエローテイル!」

「巻き返せる巻き返せる!」

「立ってさえいれば反撃できる!」

再びウェーゴ側の温かい声援が飛ぶ。

その声が戦士に力を与える。

「うおおおお……! 負けるものか……!」

正直今の一撃でイエローテイルくん自身も無傷で済んでいないだろうに。

衝撃は折れた銛を伝わり、肉を揺らし骨を軋ませる。

その振動で全身ガタガタであろうに。

しかも唯一の武器である銛が、瞬殺回避と引き換えに全壊してしまっているんだ。

これでどうやって反撃を?

結局、敗北がほんの少し伸びたに過ぎなかったか。

そうとしか思えない絶望的状況だったが。

「まだだイエローテイル!!」

観客席からノリトが立ち上がる。

「槍が壊れたら、新しい槍を使えばいいじゃない! イエローテイル新しい槍だ!」

といって綺麗な投げ槍のフォームで、闘場へ投げ込むノリト。

「わぁああああッ!? 客席保護シャボンが壊れる!」

「物を投げ込むのはおやめくださいお客様!」

しかしどういう仕組みか、シャボンを壊すことなく貫通して、ニュー槍(銛?)がイエローテイルくんの手に届く。

ナイスコントロール、我が弟ながら。

「これは……!?」

「オレが新たに開発した推進力付き突進ランスだ! 実験機だけどな! だが素手よりはマシなはずだぜ!」

「エヌ様……、ありがとうございます。この助力で必ず勝利を掴み取って見せる!!」

イエローテイルくんの決意表明と共に、水中を電光が駆け抜けていく。

「もっすぅ!?」

反射的に回避するナーガスおじいちゃん。

しかし迅雷はUターンし、再びおじいちゃん目掛けて襲い掛かる。

「ももっすぅ!」

またもかわすおじいちゃん。

得体の知れないものは触れるべからずと歴戦の勘が働いているようだ。

そして肝心の、海中を駆け巡る迅雷の正体は……。

イエローテイルくん本人だった。

ノリトから投げ込まれた槍を握った瞬間、彼自身が稲妻へと変わった。

あまりに速すぎて。

そういえばノリトのヤツ、『推進力付き』とか言ってなかった!?

そんな耳を疑うことを!?

「その通り! あのランスにはそれ自体に駆動系と動力源を組み込んであるんだ! それらによるスクリュー推進によって、およそ時速三〇〇kmでの水中移動を可能にする! しかもランス自身は所持者の保護のため変形し、所持者と一心同体『オレ自身がランスになることだ』形態となるのだ!」

お前またビックリドッキリ機能を!?

「いや制作中にオヤジが寄ってきて『これ変形する方がカッコよくない?』って囁くもんだから……!」

奇しくもノリトと父さんの合作だった!?

いわば娘婿と孫から刺される形となるナーガスおじいちゃん、その命運やいかに!?

「もっすぅうううううううッッ!!」

なんと、迫りくるジェットランスを……正面から受け止めた。

何度か回避しつつ正体を見極めたか、みずからの矛を捨て、両手でランスを掴む。

その間も推進力は容赦なく駆動する。もし握った手で止められなかったらナーガスおじいちゃんは胴を串刺しだ!?

どちらも命を張ったぶつかり合い……勝つのはどっちだ!?

「もももももっすぅッッ!!」

「ぐわぁあああああああッッ!?」

ナーガスおじいちゃんがランスをへし折った!?

何という力技!?

イエローテイルくんは衝撃を受けて跳ね返される。その無残な姿は彼の敗北を如実に物語っていた。

「試合終了! 勝者ナーガス様!」

「イエローテイルぅ!」

ボロボロの仲間へ向けてノリトが飛び出す。

観客席を越え、海中を泳ぐ。他のウェーゴのメンバーも続く。

「うわぁああああッ!? シャボンを通過しないで下さぁあああい!」

しかし秘密組織のヤカラどもは係員の注意もどこ吹く風。

ノリトが振りまいた魔法薬から、すぐさま新しいシャボンが急速に膨らみ、ウェーゴのメンバー丸ごと包み込みながら内部に新鮮な空気を供給する。

ボロボロのイエローテイルくんを抱え上げるノリト。

「すまんイエローテイル。オレの設計が甘かったばかりに……ジジイの筋肉を読み誤った……!」

「いいえ、オレの筋肉が足りなかったのです。そのせいでエヌ様の発明品に砂をつけてしまいました」

「それはオレの不足よ……!」

皆でイエローテイルくんをいたわるウェーゴの仲間たち。

その姿に他の観客席からも称賛の拍手が上がった。

「もっすぅ……!」

気まずげなナーガスおじいちゃん。

そして僕の隣に、いつの間にかアロワナおじさんまでいて……。

「あの人材、在野に放っておくには惜しいな。……ヘンドラー」

「はい、早急に軍もしくは騎士団へ組み込むよう手配しておきます」

当人たちの知らないところで様々なことが動いていた。