軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

144 拓ける夢

ミシンをプレゼントしてから、バティの縫製生活はいよいよ大きな波に乗ってきた。

それまで住人の作業着製作に追われていたのを、機械化によって作業時間を大幅短縮。

空いた時間を趣味全開の創作に注ぎ込めるようになって、農場が急激に華やかになる。

さらに服の主原料となる布や糸、その素となるカイコたちの吐く絹糸が、ここに来て俄かに多様性を増してきた。

元々白なのが当たり前の絹糸が、何故か赤や青や黄色や緑や青や青や青……、とバラエティ豊かになったのだ。

「……何故、青ばかりで偏りがあるんだろうか?」

さらに別バージョンの絹糸もあって、こちらはゴムみたく伸縮性がある。

これを使えば化学繊維でしか無理だったパンストみたいなのも作れると大歓喜。

カイコたちは何の気まぐれで進化したのか知らないが、気楽に暮らせて羨ましいヤツらだなあ、と思った。

* * *

「……ふむ」

今日は魔王妃のアスタレスさんが遊びに来られていた。

バティの被服室に入って、彼女の新作を品定め中。

「いかがでしょうか? マタニティドレス三作、ご懐妊のお祝いに私からお捧げしたく存じます」

魔王さんと結婚して時が経ち、夫婦がやるべきことをやってれば当然お腹も大きくなる。

魔王妃アスタレスさんは見事お世継ぎを懐妊し、そのお腹は今や明確な主張をしていた。

「ここに来て、さらなる進歩を遂げたようだなバティ。これらの衣服、機能性と独創性が極まっていることが私の目から見ても明白だ」

「恐縮です。妊娠中の特殊な体型を収めるものとして、より機能面を重視し、母体を絞めつけ過ぎぬようゆとりを持ちつつ通気性、保温性を可能な限り高めました。何より、胎内のお世継ぎ様を保護するという目的のために、当地原産の金剛絹は最大の効果を発揮し、たとえ殲滅魔法を受けてもお腹には傷一つできますまい」

商品説明が必要以上に凄い。

「見事だ、魔都にてアトリエをかまえる巨匠デザイナーでも、ここまでの仕事ができる者はそうおらん」

「重ねてもったいないお言葉でございます……!」

バティはかつて魔王軍に所属する軍人で、四天王時代のアスタレスさんの副官をしていた。

ウチの農場にバティが残ったのもアスタレスさんの計らい。上司部下の関係でなくなった今でもその絆は深く強い。

「ちっ、面白くねーな。同じ魔王妃なのにアスタレスにばっかり媚びやがって……!」

というのは第二魔王妃の座についたグラシャラさん。

こちらも元魔王四天王。

「おいバティ! アタシにも妊娠期間用の服作れよ! アタシもついにお世継ぎ懐妊だからな! 三ヶ月だぞ三ヶ月!!」

「神が降りてこないからNO」

「なにいいいいいッッ!?」

いっぱしの芸術家気取りな発言。

「私はアスタレス様から直接お世話になってるんですよ。今衣装を拵えてるのも、少しずつの恩返しのつもりですし、そのアスタレス様と軍属時代からのライバル関係であるアナタになんで作ってやらなきゃならんのですか?」

「アタシも魔王妃だぞおおおッッ!!」

落ち着いてくださいグラシャラさん。

興奮のあまりスッポーンって生まれたら、こちらでは対処しきれません。

「………………」

一方アスタレスさんは、バティの力作たちを眺めながら沈思の様子を見せ。

「……バティ、これは相談なのだが」

「はい?」

「お前の作品を魔都で売り出してみないか?」

と提案してきた。

「はいッッッッッッ!?」

それにバティは驚愕困惑。

「お前の作品たちは、既に有名デザイナーと同域にあるというさっきの言葉はウソではない。魔都の社交界にも充分通用するシロモノだと個人的に思っている」

「悔しいけどアタシも同意見だなあ……!」

グラシャラさんまで、バティ作マタニティドレスを羨ましげに見つめる。

「お前の作品が公の場でどのような評価を受けるか、試してみないか? 魔王城に出入りする御用商人に仲介を頼み、買い手を探してもらおう。お前がここを動く必要はない。ここの存在も明らかにはならんだろう」

「えーーっと……、その申し出は大変嬉しいんですが……!? でも……!?」

チラッと俺の方を見るバティ。

彼女は義理を通す子だからなあ……。

「俺はかまわないよ」

第一、農場の住人たちに作業着日常着も大体行き渡り、バティも手透きになってきた。

ここで外注に頼らないとバティの制作意欲は溢れ出して大変なことになるだろう。

「アスタレス様! お願いいたします!!」

「うむ、魔都で店を開くことが元来お前の夢だったからな。やはり売り出してみてこそ成就となろう」

すっかり魔王妃の貫禄を身に付けたアスタレスさんの見事すぎる心遣いだった。

四天王副官から紆余曲折。

思ってもみないようなビックリ展開で子どもの頃の夢を叶えるに至ったバティ。

俺の農場も、その道程に一役買ったと言えるなら光栄な気分だった。

「…………いいなあ」

「ヒィッ!? ベレナッッ!?」

バティの相棒、魔族娘コンビのもう一方ベレナが知らないうちにすぐ隣に立っていて超ビビる。

最近彼女は音もなく移動する術を身に付けた。

「私がアイデンティティを模索して四苦八苦している間、バティはどんどん先に行ってしまう……! 同じアスタレス様の副官からスタートしたというのに……!」

またベレナのいつもの発作が始まった。

毎度のことなので皆今さら驚いたりしない。

「あの、アスタレス様、ご懐妊おめでとうございます。私からのお祝い、石ころと雑草、こんなものしか差し上げられない無惨な私ですが……!」

「お、おう……!? ベレナ、お前はその方向性でしっかりキャラ立ってると思うぞ?」

アスタレスさんがついにそこに言及してしまった!

俺も薄々感づいていたけど、あえて触れないようにしていたのに!

「うわ~ん! 無職が定着しちゃった~ッ!!」

案の定、ベレナは走り去っていった。

「……別に無職でもないと思うんだけどな。彼女には要所要所で助けてもらっているし」

「定職にも就いてないって感じですけどね」

「おいバティ」

キミがそうやって正面パンチするから、益々追い込まれるんじゃないか彼女!?

ベレナのために個性模索会議しようと前々から思っていたけど、これじゃあ逆に個性を与えることで個性を奪ってしまうジレンマに陥りそうじゃないか!

……ベレナはもうしばらく定職なしで様子を見るか。

そんな期間がしばらく続いた。

* * *

バティが魔都で売り出す用の衣服を制作し、アスタレスさんに委託して数日が経った。

「売れた」

とアスタレスさんみずから連絡しに来た。

「歴代最高額で落札された」

「ええええええええええええええええええええッッ!?」

今、魔都に、バティモード旋風が吹き荒れようとしている。