軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1438 ジュニアの冒険:伝説の卒業生

「はい1,2,3! 1,2,3!……もっと姿勢を正して、背筋をまっすぐ!」

もはやただの歩行レッスン会場と化している。

志願する人魚乙女たちに、二本足でのスマートな歩き方をレッスンしてあげる僕。

母さんからビシバシ鍛えられた経験がこんなところで活きてくるとは。

あの時の厳しさを、今度は自分が与える側になるとは。

「そこのキミ、猫背になっているぞ! 疲労した時こそ姿勢を正す意識を持つんだ! 万全の状態なら誰だってできる!」

と指導に熱が入りだした頃……。

「……何をやっているのですか?」

おわッ、カープ学園長!?

何故ここに!?

「そりゃあ届け出もない、それでいて大騒ぎな集まりがあったら確認しにくるでしょう。校内の治安を預かる者として当然ですよ」

寸分のブレもない剛速球の正論きた。

そうだね、気づけば大事になってきたね。

「それで、これは何の騒ぎですか? 喧しくならないよう密かに見学したいというジュニア様の希望を受け入れたというのに、これでは本末転倒と言う外ありませんよ?」

まことにカープ学園長の言う通りだった。

筋を通すためにもここまでになった経緯を説明する。

「……陸人化した際の美しい歩行フォームの訓練ですか。なるほど、たしかに人魚族にとって慣れない形態でいながら上品な振る舞いを求めるのは性急かもしれません。国際化が進む昨今、そうした授業も必要となる。盲点でした」

カープ学園長にしては珍しく素直に受け入れますな?

「失礼な、私は改善の余地ある部分はきっちり検討しますよ。学園長として歴史ある学園と、数百人の生徒を預かっているのです。独りよがりなどできようはずがありません」

意外な、この人こんなにまともだったのか……!?

「失礼なことを考えていますね……? 時に、生徒たちの尾びれが脚が変わっているということは、陸人化薬が使われたのですね。一体どこから用意したのでしょう?」

カープ学園長が指摘した途端、ドミノクラウンさんが頭に本(八冊)を載せたままビクリと震えた。

それでも本は落とさない。

「アレはまだまだ市場に出回っていない薬なんですがね。それが出所不明で学園内で使用されたのなら学園長としては問いたださないといけないのですが……」

ドミノクラウンさんの視線が熱閃となって突き刺さる。

彼女作の陸人化薬だと知れると面倒なことになる……ってところか。たしかに印象だけでも二~三の法律に触れてそうだもんな……。

仕方ない、ここは弟の友だちを庇いだてしますか。

「あ~、僕が母さんに頼んで……! こんなこともあろうかと持ち歩いていたんですよ」

「プラティ様の……まあ、あの御方謹製なら間違いはないでしょう。ですが悪用されることもある薬なので取り扱いにはくれぐれも注意してくださいね」

はい、もちろんです!

取り扱いには充分にお気を付け……てるよね? 大丈夫だよね弟の腹心?

僕ももう庇いだてしちゃったんだから大丈夫じゃないと困るよ!?

「まあ、いいでしょう。ですが校内でここまで派手に振る舞いのですから、もう身分を隠した視察というのはおしまいにするのですか?」

と尋ねてくるカープ学園長。

そこはまだ口外お控えなすって!

用務員という偽装身分で正体を隠し、マーメイドウィッチアカデミアに溶け込もうとしている初期設定をすっかり忘れていたけれども!

僕はまだ名もなき用務員として無風の日々を過ごしたいのです!

「自分で風を起こしていながら今更……」

カープ学園長から心底呆れられた顔をされるとなんだろう……無性に傷つくんですが。

「やはり……あの御方はただ者ではなかったのね!」

お嬢様代表のシュリンプさんが、頭上に本(五冊)を載せたまま迫ってくる。

「陸人が用務員などを務めている時点でおかしいと思われていたのよ。生徒間でも噂になっていましたのよ、謎のプリンスが校内うろついているって!」

「まあ、そうなるでしょうねえ。私も気が進まなかったのです、学内に疑惑と混乱を持ち込むだけになりますから」

カープ学園長、そこまで言わなくても!

まるで僕が愚かな行動をとったようじゃないですか!

「この方はジュニア様と言って、農場国の主・聖者様のご長男であらせられます」

紹介した!?

僕からの抗議をガンスルーして単刀直入に紹介してしまわれた!?

「だってもう面倒ですし。この度ジュニア様は、マーメイドウィッチアカデミアを見学するために訪問してくださいました。皆さんの自然な学習風景を見たい……という要望に応え、特別な処置で“用務員”という仮初の役職を背負っていただいたのです」

きゃあああーーッ、と黄色い歓声が飛ぶ。

そんなに歓声の上がる状況だったか、今の?

「では、この方って本当にただの用務員じゃなくて……」

「特別なご身分の御方!? そんなお話みたいな展開あるの!?」

いや、そんな人を貧乏旗本の三男坊みたいに!?

そんな特殊な設定ありませんよ?

僕はただ単にみんなの自然な振る舞いが見たくて、邪魔な身分をナイナイしていただけですよ?

「本当ですかねえ? ただ単に重役扱いが嫌で避けていただけじゃないですかねえ? そういうところ本当アナタの御父上にそっくりですよ。さらに言えば、そうやって目立ちたがらないくせに自分から一騒動起こすところもそっくりすぎる」

ヒィッ!?

的確な人物評価、恐縮です!

そういうヒトを見る目があるのはさすが教師!?

「加えてプラティ様のトラブルメーカー癖も継承しているようですからなおさら騒動が激しくなる。上手いこと因子が掛け合わさりましたね。アナタが将来何かとんでもないことをやりださないか、今から心配でもあり楽しみでもありますよ」

そんな、ヒトを教え導く立場の人から予測されるの怖すぎる。

できるだけ大人しく、波風立たない人生を過ごすことを目標に生きていきますよ。

「え……? 待ってください、今なんと?」

僕とカープ学園長の言い合いに、急に割って入るシュリンプさん。

なんでしょう? 何か気になることでもありますか?

「今、プラティ様の名が出てきたように聞こえましたが?」

あッ。

「聞こえてしまったなら仕方ありません、別に隠し立てすることでもありませんしね」

ちょっと得意げな顔になるカープ学園長。

まさか、ここまでの流れ誘導じゃあるまいなアナタの!?

「このジュニア様のお父上に当たる聖者様は、かつて戦争する陸の種族を調停し、平和へと導いた御方。その傍らには人魚族の姫が寄り添い、共に平和への道を切り拓いていきました。……その人魚族の姫君こそ……」

溜めるな、溜めるな。

「伝説の天才プラティ王女です」

「と……ということは?」

「そう、このジュニア様はプラティ様のご子息となります」

「「「「「「えぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッ!?!?!?!?」」」」」」

今日イチの驚愕の声が上がった。

そんなに衝撃的ですかね、ウチの母さん?

「プラティ様の息子!? この御方が!?」

「数々の伝説を残し、マーメイドウィッチアカデミア卒業生の中でもっとも優れていると評判の、プラティ様!」

「そのプラティ様がお腹を痛めて生んだ御方! それは聡明なはずですわ!」

とお嬢様方大盛り上がり。

特に親玉のシュリンプさんはうるうる目を潤ませて……。

「私、プラティ様のような完璧なレディを目指してマーメイドウィッチアカデミアに入学しましたのよ。プラティ様が卒業したマーメイドウィッチアカデミアで学べば、きっとあの御方に近づけると思って……!」

ウチの母さん、多感な人魚乙女からの憧れの的だった。

「そこでプラティ様のご子息に出会えるなんて、まさに運命宿命ディスティニーですわ! 是非とも、是非ともお母様のお話など詳しくお聞かせください!」

と迫ってくるシュリンプさんとお嬢様集団! 他の子も母さんのネームバリューにメロメロっているのか!?

こんな時は……助けてドミノクラウンさん!

ここでは彼女こそ頼みの綱であるという経験則ができた!

「アンタのお母さんてプラティ様だったの!?」

彼女もダメだ!

っていうか知らなかったの!? ノリトから聞いていないの!?

「エヌ様は家族のことなんてほぼ話さないから……、っていうかエヌ様のお実家で会ったオバサン……アレがプラティ様!? 全人魚娘の憧れのマーメイドウィッチアカデミア卒業生があんな近くに!?」

たしかに反抗期真っ盛りのノリトが、両親の話題なんて何があっても避けそうじゃないか!

「ということは、エヌ様もプラティ様の子ども! 私ったら知らないうちになんて素敵な人に従っていたの!?」

ドミノクラウンさんですら母さんへの憧れの前ではアホの子になってしまうらしい。

思った以上に大人物であった我が母。

しかし……そんな母に関する情報で先ほどから聞き捨てならないフレーズが、聞こえてきた。

「……マーメイドウィッチアカデミア卒業生?」

「何か問題でも?」

ヒィッ!?

気づいたらカープ学園長がすぐ後ろに立っていた!?

ま、まさかアナタ、もう既にウチの母さんが卒業生であるというデマゴーグを巷間に流布している!?

「デマではありません。皆が真実だと認めればそれが真実なのですよ。だからアナタに再三お願いしているのではありませんか。是非とも真実の補強に協力を!」

真実は補強しなくても真実なんだよ!!

くそ、せっかく見直していたのにやっぱりヤバい人だった。

ここで学ぶ女生徒さんたちは大丈夫なんだろうか?