軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

141 機械化の波

ミシンの中にはボビンという部品があるらしい。

機械で自動的に縫うために必要不可欠らしいのだが、俺はそのボビンの存在すら知らずにミシン作りに挑戦していた……!

自身の愚かさを反省し、ヘパイストス神がくれた設計図を基に作業へととりかかる。

大工担当のオークや、手先の器用なエルフにも手伝ってもらい、ミシンは完成へと近づく。

機械部品というと歯車とかミリ単位の正確さが要求されて難しそうだが、俺には『至高の担い手』がある。

この能力を使えば、歯車を完全な真円にするとか、まったく歪みなく真っ直ぐなシャフトを作るとか普通に可能。

原料鉱物を削るのは強度的に難しいかと不安視されたが、俺の持っている聖剣を使えば難なくだった。

地上最強の鉱物と言われるマナメタルも、聖剣の前ではエンピツみたいに簡単に削れていく。

さすがは冥神ハデスが打倒人族のために生み出した七聖剣の一振り!

邪聖剣ドライシュバルツ久々の大活躍!

凄いぞ聖剣!

よく斬れるぞ聖剣!!

この剣を所持していて本当によかったと初めて思った。

* * *

そして完成。

「マナメタル製、足踏みミシン!」

学校机程度の大きさの机にミシンが据え付けられていて、下部の足踏みペダルと連動してミシンの針が動く仕組みだ。

人力なので電気がなくても大丈夫!

「……で、これは何なのです?」

「言われるままに手伝ったのはいいけど、何ができたのか想像すらできないわ」

手伝いのオークやエルフたちは、まだこれが理解できていないらしい。

まあいい。

動くところを実際に見せて驚かせることができるわけだからな!!

早速バティにプレゼントしてあげよう!

彼女がこもる被服室へゴーだ!

* * *

そして被服室を訪ねると、バティが幽鬼のような顔をしていた。

「ああぁ?」

今や二百人近くに達した我が農場の衣服生産を一気に引き受けるバティである。

そりゃあ疲れ果ててやさぐれもしよう。

しかし! だからこそこのミシンが救世主となりうる!

「さあバティよ! 農場主からの気遣いだ! このミシンを余すところなく使いこなしてくれたまえ!!」

「え? 何ですコレ? すみませんけど私、オモチャで遊んでる暇ないんですが?」

バティのリアクションが想像以上に辛辣。

疲れのせいだ。きっとそうだ。

「オモチャじゃないよ……! これはキミの仕事を楽にする素敵な道具だよ……!」

「楽に? どうやって?」

「ほら、ここに針が付いてるじゃないか。この針が、下のペダルを踏むと上下に動く」

「ほう?」

「この動きに合わせて、素早く正確に縫っていくという機械だよ」

ここから出ている糸を引いて……。

ここに通して、ここ潜って、……あれ違う?

そして針先の穴に糸を通し……、通らない!?

もう一回挑戦……、くっそ、細かい!

『至高の担い手』を発動だ!

よし通った!

「何をやってるんですか聖者様……!?」

「準備完了だ! さあ使ってみてくれたまえ!!」

まだ疑念たっぷりのバティは、俺のハイテンションに押し流される形でミシンの前に座る。

適当な布地をセットして、足元のペダルを踏む。その力がベルトやギアを伝って、針にまで届く。

「うわ、独特の手応え……!?」

ダダダダダダ……、と独特の音をたてて布地がミシンの下を潜り、縫い付けられた糸の筋は……。

「…………!?」

その道のプロと言っていいバティの目がカッと見開かれたのを、俺は見逃さなかった。

自分の労力が報われたのを確信した。

「こ……! こんな綺麗で整った縫い目が……!? 等間隔じゃないですか完璧に! しかもこの速さで……!? 手縫いだったら、ここまでの長さを縫うのにどれだけかかるものか……!?」

うんうん!

文明の力に驚嘆したまえ! さすれば俺も頑張った甲斐があるので!!

「今まで何年もかけて培ってきた縫い物の技が、こんなにもアッサリ……! 無意味になってしまうなんて……! これは悪魔よ、悪魔の道具だわ!!」

あれ!?

「魔族を堕落させる悪魔の道具め! こんなものがあったら誰も縫い物の技を磨かないのよ! こんな正確無比で整った縫い目には、人の手の温かさは宿らないわ!!」

そんな手作り派の誰もが言いそうなことを……!?

「くそーッ! こんなものこうしてやるうううーーーッ!!」

取り乱したバティのとった行動は……!

作成中のオークボたちの作業着を、ミシンでガシガシ縫い始めた。

ミシンで!

「私はッ! もっとデザインの凝った創作性のある服を作りたいのよッ! こんな同じデザインの作業服を何着も何着も繰り返し作るなんて全然クリエイティブじゃないのよッ!!」

と、鬱憤をぶつけるかのようにミシンの針を布地の上に走らせる。

……あ、もう一着できた。

「こんな繰り返し作業がたくさんあるせいで、好きなデザインの服が作れないんだから! こうしてやる! こうしてやるッッ!! 量産品の服なんて、ぬくもりのない機械の縫い目でちょうどいいのよ!!」

とか言ってるうちに、さらにもう一着できた。

どうやらバティは『本気を込めて作らない服なら機械でズルして作ってもOK』という論法で、自身の職人気質に折り合いをつけたらしい。

俺やモンスター軍団などは、別に服は着れればなんでもいいから、それでも問題はない。

作業が効率化してバティの負担が減るならそれでいいことだ。

空いた時間で好きな服を作ってくれたらなおいいしな。

「こうしてやるううううッ!! ああッ! でも本当にこの道具で縫うと滅茶苦茶速く仕上がる……! 縫い目も綺麗だし、ほつれてほどけるとか絶対なさそうだし……! 仕上がりが美しい!!」

あ。

これ職人のプライドが抗しきれなくなるのも、そう遠くないかも。

本気作りの服にもミシンを使うのに、どれくらいかかるかな?

「ミシンなんかに!! 絶対負けたりしない!!」