軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1401 ジュニアの冒険:新しい革袋には新しい酒を

「あぁん? マリー姉上てめぇ、ウチのジュニアに随分舐めた口きくないい度胸だなテメー? 昔々おれ様に超ビビらされたの忘れたか?」

「アナタこそ無礼な物言い、皇帝竜たるアードヘッグに対して許されざることよ。私は皇妃竜として新たな秩序を徹底しているにすぎない。いまだ野性が抜けきらないアナタには難しかったかしら?」

バチバチバチバチバチバチバチバチ……ッ!

二人の間で目に見えぬ火花散る。

僕もアードヘッグさんも必死になってなだめすかすのだった。

「待て待て待て待て待て……! マリーよ、気遣ってくれるのは嬉しいが……!」

「ここでケンカしたら、また父さんに怒られるよ! どうどうどうどう……!」

お互いに苦労が大きかった。

ひとまず。

「お招きいただいてありがとうございますアードヘッグさん」

「こちらこそ招待に応じていただいて感謝する。ジュニアくんの来訪、心より喜ばしい」

アードヘッグさんの応答はとても丁寧で、心からの歓迎を感じる。

人間社会においても遜色ないように思える。ドラゴンとしては極めて珍しい。

「アードヘッグはニンゲン社会のことをよく勉強しているのよ。だから礼儀作法とか本物よりもよっぽどできるの。素晴らしいでしょう?」

妃であるブラッディマリーさんが誇らしげに言った。

いや、なんでアナタが本人より誇らしげ?

「素直に褒め称えていいのよ?」

「マリーよ、それくらいで……! おれには、この新しい竜の国をどう導いていくか考えていかなければならなかったからな。そのために、ニンゲンたちの築き上げた社会はこの上なく参考になった」

そうか……。

アードヘッグさんは、新しく在り方の変わったドラゴンを導いていく最初の皇帝竜だ。

それゆえに、新しいドラゴンの社会制度をゼロから築き上げていかなくてはならない。

いかにも大変なことが想像に難くない作業だ。

「そうなのよ! アードヘッグは全ドラゴンの未来のために夜も寝ないでニンゲンのことについて学んでいるのよ! こんな勤勉なドラゴンは今までいなかったわ!」

「ドラゴンは強くて暴虐が美徳だからな。真面目だからって誰も褒めねえのだ」

「なんですとぉおおおおお……!?」

またブラッディマリーさんとヴィールがバチバチする!?

やめて、言葉の端々で対立するのやめて!!

「おれとて、この方法が間違いなく正しいかとは言い切れない。しかしニンゲンは、我らドラゴンより遥かに成熟した社会性を持ち、それでここまで上手くやってきている。その真似をすれば我らも上手くやっていけると信じて進むのみだ」

「ホント真面目だなテメーは。ドラゴンとは思えない真面目さだが、そんなお前がこの時代にガイザードラゴンになったのはいいことなのかな?」

ドラゴン新時代に対応するため、アードヘッグさんは勉強した。

ある時はノーライフキングの先生に教えを乞うたり、またある時は魔王さんやリテセウスおにいさんのコネで人間社会に交じり実地で経験を積んだりした。

その果てに多くのことを学び取り、社労士や日商簿記税理士宅建士行政書士船舶免許など様々な資格も取ったという。

ん?

「今日、ジュニアくんに来てもらったのは他でもない。おれなりに試行錯誤してここまで出来上がった竜の国が、ニンゲン目線から見てどの程度まで完成されているか、品評が欲しいのだ」

えええッ!?

僕に批評しろと、この国を?

そんなの恐れ多い……!

僕のような若僧よりも、それこそウチの父さんの経験豊富なオジサンからコメント貰った方がいいのでは?

「聖者殿には既に何度もお願いしているが、『自分では容易に判断を下せない』と言って固辞するのだ」

「ご主人様は、可能な限り責任から逃げ続けるタイプなのだー」

「それならば聖者殿の後継者であり、かつ若くして瑞々しい感性を持っているジュニアくんの意見を聞こうと思ってな」

父さんが回避してきた責任が僕に向かって直撃!?

親の因果が子に迫る!?

「我らドラゴンはかつて、神への監視者であり誅罰者であった。それ以外の役割を持っていなかった。そのために原初の使命から外れてはならないと、クローンによって後継者を創り出してきた。そんな時代も過去だ」

今ではドラゴンも他の生物同様に父母の間で育まれるようになった。

コピーからコピーへと受け継がれる単一体ではなく、社会性を伴った複合体になるのだ。

在り方は嫌でも変わる。

「変わり方を間違えればドラゴンという種族は大きな混乱に陥り、その被害は他種族まで及ぶかもしれん。そうならないためにも可能な限り速やかに、ドラゴン族の新しい社会性を形成していかねば」

「そう思ってアードヘッグは、ガイザードラゴンとしての力を最大限発揮して、隔絶された別次元に竜の国を創り上げたのよ! 素晴らしいでしょう!」

アードヘッグさんへの賛美が徹底しているブラッディマリーさんだった。

でも実際のところ、他のドラゴン族の皆さんはどうしておられるんですか。

「大半のドラゴンは、地上からこの竜の国に居を移している」

「なんと言っても居心地がいいからね。新世界の創造主たる新皇帝アードヘッグが、竜の民どものために心を砕いて築き上げたんだもの!」

「だが、こちらへ移住せず、相変わらず地上のダンジョンに住み続けるドラゴンも多い。アレキサンダー兄上やテュポン殿もその一人だな」

「あとそこの生意気ヴィールもね」

再びガン飛ばし合うブラッディマリーさんとヴィール。

「強制はしていないから是非もない。皆それぞれが最善の選択をしてくれればいいと思うだけだが、これからニンゲンのようにつがいを持ち、家庭を作ろうとするドラゴンなら同種同士で助け合える環境が必要だろう。そう思って竜の国を創り上げた」

「素敵だわアードヘッグ! 子育て支援に手厚い国は繁栄するわ!!」

もはや夫のすることを肯定しかしない皇妃竜。

それはそれでいいんだろうが……。

「それでどうだジュニア? お前から見て、この竜の国……アリか? ナシか?」

なんでそんな究極の二択なの!?

可もなく不可もなくな玉虫色の回答じゃダメなの!?

「いや~、もうちょっとよく見せてもらってから答えを出したいかなーって」

「それもそうだな! 答えを急かして申し訳なかった……!」

これこそ父さん直伝、回答の引き延ばしだ!

父さん見ていますか?

アナタの得意技を、僕もここまで使いこなせるようになりました!

「では、我が国をより詳しく見ていただこうジュニアくんに。観光に来たつもりで気楽に見ていってくれたまえ」

『たたたたた、大変だぁーッ!!』

すぐまたトラブルの足音が。

僕らのいる龍帝城light・謁見の間へ駆け込んでくる小さなドラゴン。

「父上ではないですか、どうしたのです?」

あれは先代ガイザードラゴンのアル・ゴールさん。

旧き時代の皇帝竜として暴虐を行っていたが、アードヘッグさんとの新旧世代闘争に敗れて散った。

その割に今日も元気に後継者の城に居座っている。

「また退屈だからと城内で鬼ごっこしているのですか? 騒々しいからやめてくれといつも申していますのに……!」

『うるせえ、ヒトから注意されて改めるようじゃドラゴンじゃねえ! 傍若無人、奔放不羈こそドラゴンの本懐!……いやいや、それどころじゃねえ!』

だいぶ聞き逃しがたい主張がポロリと出たものの、それすら横に置いておきたくなるほどヤバい状況が出ているのか。

その慌てようは。

『とにかくヤバさ生活なんだよ。おれなどよりよっぽど傍若無人、不羈奔放なドラゴンが暴れ回ってるんだよ! アードヘッグお前、親の責任でキッチリアイツを止めろ!』

『うぎゃぱぁああああああッ! ですわッ!?』

さらにもう一体のドラゴンが転がり込んできた。

ほとんど入射と言わんばかりの勢いだった。

『うわぁあああああーッ!? シードゥルーッ!!』

『ダメですぅ、私じゃ抑えきれません……!』

一体何が起こっているというのか。

そこへさらに……嵐の本体が押し寄せてきた。

『お父様! お母様!!』

乱入するドラゴン。

これまで見てきたドラゴン同様、巨体でいかめしさ満載の見た目だが、どこか振る舞いというか雰囲気に幼さを感じる。

「ボウアッ、どうしたのだ!?」

「お父様やシードゥルに遊んでもらいなさいと言っていたわよね!?」

乱入ドラゴンに困惑する竜皇夫妻。

『おじーちゃんたちじゃつまんないもん! わたし、お父様やお母様と遊びたい!……あれ? 何でニンゲンなんかの姿をしているの?』

「それは、ニンゲンの客人を迎えるためにだな……!」

僕自身は、この目まぐるしい状況に戸惑うばかりでだが、当人たちの会話からある程度は察せた。

「ニンゲンと会話するために、ニンゲンと同じ姿をとる。お父様はこれをドラゴンの礼儀と定めようとしているのよボウア」

『ニンゲンんんん……?』

ドラゴンの視線がこっちを向く。

バッチリ目が合った。

『何でニンゲンみたいな下等生物が、お父様とお話ししているの?』

「ボウアッ!?」

歓迎されていないことが一瞬でわかった。

『お父様は皇帝竜……一番偉いドラゴンなんでしょう? それなのに下等生物のニンゲンが、話をしようなんておこがましいわ! このグラウグリンツェルドラゴンのボウアが、お仕置きしてあげるんだから!』

皇帝竜アードヘッグさんと皇妃竜ブラッディマリーさんとの間に生まれたいわばドラゴンお姫様のボウアちゃん。

僕との遭遇の瞬間だった。