軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1383 ジュニアの冒険:接待攻勢

パンデモニウム商会、新商会長シャゼス。

代替わりしていたのか。

まずそのことに衝撃が走った。

まあ前会長……になるのか? シャクスさんもそこそこお年を召しておられたし引退するのもやむない。

それに僕もかれこれ十年近く疎遠になっているから気づけないのも無理はないが……。

「圧倒されているか? フワッハハハハハ! まあオレも商会長となって早や一年、そろそろ風格も威厳も備わってきたからなあ。キミらのような一般人が緊張するのも無理はない。だが安心しろ、オレは気さくだから誰に対しても分け隔てなく接してやるからな!」

なんとも豪快で大物感が漂っているが、なんとも僕には違和感が伴った。

強引さで言えば前会長のシャクスさんも中々だったが、彼の場合は商談において必要な場合にけっして引き下がらず、むしろそれ以外の場面では帳尻を合わせようとばかりに控えめな態度で、相手を立てるぐらいであった。

それに比べれば今目の前にいるシャゼスさんなる人は、同じ強引でもその強引さの発揮しどころが雑というか……。

「……んで、ジュリアくんだったかな?」

ジュニアです。

「ああ、そうか変な名前だなあ。まあ、変な名前程印象に残って覚えやすいものだからいいんじゃないか?」

ああ?

お前、父さんかが付けてくれた我が名に文句でもあるのか?

しかも覚えやすい名前と言っておきながら自分はまったく覚えてないじゃないか?

「部下どもがお前を高く買っていてな。お前と縁を結んでおくと、あとあといいことになると。だからオレみずからもてなしてやることにしたのだ。どうだ感動だろう? 田舎に帰ったら自慢するがいいぞ?」

うーん、なんだろう。

こちらとしてはシャクスさんじゃなかった時点で『帰っていいだろうか』と思うぐらいなのに。

ここで腰を上げられない僕は、まだまだ押しの強さが足りないんだろうか。

「前置きが長くなってしまったな。さあ、始めようではないか、まずは一献!」

と言って相手は、酒瓶をもってこちらへ向けてくる。

まさか……お酌ということか。

「ホレどうした? パンデモニウム商会長みずからの酌だぞ? 一生の誉れになるだろうて」

「いやあの……未成年なんで……」

父から幾度となく言われているので。

『お酒は二十歳になってから!』と。

この世界に飲酒に関する法律は特にないが、それでもアルコールがもたらす体への影響を考えてに十歳以下の飲酒は厳禁。

これは農場国の正式な法律にもなりそうだった。

「なんだつまらんことを言いおって。人間関係を深めるために酒ほど役立つものはないぞ。ささ、細かいことは置いといてまず一杯……」

いいえ。

いずれ農場国を背負って立つのならなおさら、その決まりを率先的に破るわけにはいきませんので。

「ああ、オレの酒が飲めんというのか?」

重ねて固辞するとシャゼスさんの顔色が変わった。

しかし、その瞬間傍らからより年配そうな人が出てきて何かゴニョゴニョと耳打ちする。

それですぐにハッと冷静に戻った。

「……そうだな、商会長たるもの小さいことで目くじらを立てていてはいかんな。ま、こんな味の違いもわからんような田舎者に飲まれずに高級酒も救われるか」

なんか言葉尻にトゲがあるな。

「だったらホレ! このご馳走はどうだ! 贅の限りを尽くし、世界各地から一流の素材を集めて作らせた三ツ星料理だぞ!」

このテーブルにズラリと並んだ料理か。

たしかに豪勢ではあるんだが……全部どこかで見たことあるな。

どこかと言うか、農場でなんだが。

うん、農場で父さんが開発した料理だ。父さんがこっちの世界で生み出し流行したメニューは大抵高級料理に分類される。

本人は『誰にでも分け隔てなく楽しめる大衆料理になってほしい』と言い続けているんだがな。

試しに目の前にあるオムライスを一掬いして口に運ぶ……。

……うむ。

父さんの作ったのに比べるとタマゴのふんわり感が及ばずというか……。

こうして外で食して改めて実感する。

ウチの父さん料理上手だったんだな。

いや!

せっかく気持ちを込めて作ってくれた料理にダメ出しなんて失礼だ!

「うん? なんだその不満足そうな顔は? やはり田舎者の舌にこの高尚な味は理解できなかったかな? まったく接待し甲斐のない相手よ」

と相手側はつまらなそうだ。

「こうなったら奥の手を出すしかないなぁ。どんなに鈍感で教養がなくても、コレに靡かぬ男はおるまい」

そう言って手元にあったベルみたいなものを持ち上げると、軽く振ってカラカラ鳴らす。

するとそれに呼応して……。

「失礼いたしまぁーす♥♥」

なんだッ!?

個室のドアが開いて複数の人間が雪崩れ込んできた。

その複数人というのがまた特徴的。

何が特徴的かというと、いずれもが若い女性だったからだ。

しかも全員美人。

さらには服装もあでやかでカラフルかつ、色んな部位にエグい切り込みが入っている!

「ワッハッハ驚いただろう! 魔都で一二を争うコンパニオンたちじゃ。さあ女ども、この田舎者に都会の味を教えてやるがいい!」

僕の両側にお姉さんが座ってきて……!

挟まれる!? 押し潰される!?

「もーシャゼス様ったら、こんなウブそうな子をどこで捕まえてきたのー?」

「かわいー食べちゃいたい♥♥」

「こんな若さで魔都ナンバーワンのホステスの接待なんて知ったら大変よー?」

「そうしたら私が囲っちゃおうかなー? ねえ何処から来たのー? 魔都は初めてー?」

うおおおおおおおおおおッ!?

これがッ、これが接待!?

迫り来るお色気と肉感に意識が押し流されそうになってしまう!?

都会は、都会は恐ろしいところだああああああッ!?

これ以上は耐え切れない。

このままでは肉と色気の津波に押し流されて沈んでしまうか、あるいは建物を破壊してでも飛び出して逃げるかの二つに一つ。

さすれば多少の被害に目を瞑っても僕は生き残る道を選ぶ!

そう思って個室の天井にビームを放とうとしたその寸前……。

「バカ息子がぁああああああああッッ!!」

大声と共にドアを開け放ち、突入してくる疾風。

「どぼろぐえほげぇええええええええええッッ!!」

そして一秒の隔たりもなく蹴り飛ばされる現会長。

勢いよく床をゴロゴロ転がった末、壁に激突。

グワドンと轟音が成って部屋全体が揺れた。

何と凄まじい勢いのドロップキックだろう。

見ているこっちが惚れ惚れするほどだ。

そんなチャンピオン級ドロップキックをかました当人は誰か?

それは……。

「シャクスさんッ!?」

思わず声が出てしまった。

だってシャクスさんなんだもの!

パンデモニウム商会を魔国一へと押し上げた稀代の名商。

機を見るに敏を体現するかのような迅速にして正確な判断力、時流に乗るしたたかさも兼ね備える。

僕たちの待ち望んだパンデモニウム商会長シャクスさんだ!

やっぱりシャクスさんは実在したんだ!

イェエエエエエエエッッ!!

「ジュニア様……我が息子が本当に失礼をいたしまして……、申し訳ありません!!」

あ、ハイ。

僕のことをご存じなんて、本当にシャクスさんなんですね。

そんなジャンピング土下座をかますなんて、その思い切りのよさもシャクスさんそのもの……。

「商会の者から急ぎの連絡があって、大急ぎで駆け付けたのですが……。このような雑で押しつけがましい接待をしくさるとは。シャゼス! お前はいつまでたってももてなしの一つもできないのか!?」

「お、オヤジィ……!?」

壁際でピクピク痙攣していたシャゼスさんが、ダメージから立ち直ったのかヨロヨロと身を起こす。

「な、なんだよオヤジはもう引退してるんだからしゃしゃり出てくるんじゃねえよ。せっかくパンデモニウム商会発展の立役者として有終の美を飾ったっていうのに、老害になる気か?」

「便利な言葉で誤魔化そうとするな! お前が次々トラブルを起こすから、吾輩が出るしかなくなるんじゃないか! 老体に鞭打ってな!」

どうやら、彼らが親子ということは真実らしい。

ということは代替わりも真実?

一体パンデモニウム商会に何が起こったのか?

波乱の気配が漂ってきた。