作品タイトル不明
1381 ジュニアの冒険:ヴィジランテ
倉庫に突入した僕たちは、力の限り大暴れした。
「農場神拳! 不正取締拳!!」
僕が拳を振るうごとに、不正取引の犯人たちが吹き飛ばされていく。
「こちらも負けるか! 農場聖拳、大人修正拳!!」
ノリトの強さも目を見張るものがあった。
僕と変わりない勢いで、密輸犯さんたちが舞い散っていく。
アイツはどういう理屈であんな超パワーを出せているんだ?
僕のように『究極の担い手』を継承していないで、それと同等のパワーを発揮できているとは?
「兄貴妬んで、薬飲んで、寝る! 男の鍛錬はそれだけで充分だ!!」
充分なのか?
まあ、弟がそう言うなら、いいんだろう。
カチコミされて大混乱な密輸犯さんたちもブチのめされていくうちに冷静さを取り戻し……。
「くっそうッ、魔王軍のガサ入れか!? しかしこっちとて警戒していないわけじゃないぞ! 旦那、旦那ぁ!?」
「オレの出番か?」
「こういう時のために雇っておいた用心棒だ! 頼みますぜ! オレらのシマ荒らしたことを後悔させてやってくれ!」
「報酬分は働きほげごうるぎゃぁああああああああああッッ!?」
しまった。
勢いあまってノリトとダブルライダーキックで倒してしまった。
これじゃ兄弟息がピッタリみたいでなんか嫌だ。
「これじゃ兄貴と息ピッタリみたいじゃねえか! なんか嫌ッ!」
なんだとぅ!?
他にも、現場に突入して犯罪を検挙しようとするグレイシルバさんのお仲間がいるみたいで……。
「なんですかあの若いの二人? アイツらだけで圧倒してるんですが?」
「マスターが連れてきた助っ人だとよ。仕事が楽になっていいじゃねえか。こっちは証拠品の確保に専念するぞ。表に出てるのだけじゃねえだろうからな」
「まさか……ここに積んである木箱全部……!?」
作業はサクサクと進んでいる模様。
しかし人間を相手にしている以上イレギュラーは起きえる。
「くそ、オレだけは、オレだけは……!」
どさくさに紛れて、密輸犯さんの一人がズルズルと抜け出そうとしていた。
何やら着ているものは高級そうだし、年配だし……いかにも組織のボスって感じだ。
「オレさえ逃げれば……オレさえ生き残れば組織は潰れない……絶対に……全員死んでも……!」
「だからこそ」
ボスの眼前に、ナイフが降って地面に刺さる。
「ヒェッ!?」
鼻先スレスレで、もう少しずれていればボスの顔は縦に裂けていただろう。
それぐらい精密な投擲。
それを行ったのは当然、渋さ全開のグレイシルバさんだった。
「お前をムザムザ逃すわけがないだろう密輸組織の首領ザンボス。魔国の裏社会に根を張ってきた裏組織も、頭さえ潰せば息の根は止まる。そのための準備は入念に整えたんだ。オレの部下たちの頑張りを無駄にさせないでくれ」
「ち、ちくしょう……!?」
「まだ悪あがきするんなら、確実に逃げられないように両手両足を地面に縫い付けなきゃならなくなるが……どうする」
グレイシルバさんのナイフが冷徹に狙いさだめる。
その殺気が伝わってきたのだろう。実際の戦場を潜り抜けてきた男の脅しは、はねのければ確実に実力行使へと至る。
「ぐぅ……くふううう……!?」
「よし縛り上げろ。拘束してからも気を抜くなよ、悪党は往生際が悪い」
グレイシルバさんの指示で、数人がボスを取り囲んで手錠をかける。
他の密輸犯さんたちもとっくに拘束済みで、場の制圧はとっくに終わっていた。
「よし、これで一段落だな。あとは魔王軍が来るのを待って引き渡しするだけか」
「あの……グレイシルバさん、これは一体……?」
ただ僕とノリトだけは状況を飲み込めずに困惑するばかり。
一体何が起こって、どう収まったのか?
わからないまま暴れるばかりだった。
それでも全力で暴れるのが僕もノリトも思い切りよすぎだけれど。
「ある程度は見ての通りさ。コイツらは密輸犯罪者、しかも大規模な組織ぐるみだ。今夜は大きな取引があって、この海運倉庫を場所に選んだ」
それを……どうしてグレイシルバさんが検挙するんです?
いや、検挙すること自体はいいんですが。
犯罪が行われるのを知っていて見逃す選択肢はないんですが……。
「こういうところが、長いこと続いてきた社会体制の面倒さというかな」
グレイシルバさんは苦笑した。
「色んな部署があって、そのすべての顔を立てなきゃならんとなって物事が複雑になっちまう。それこそ際限なくな。この埠頭は大元魔国が管理しているが、運営は独自の公団が行っている上に、倉庫一つ一つは商会やギルドの持ち物だ」
聞くだけでひたすらややこしくて面倒なんだろうな、というのが伝わってくる。
「それら全部を正当な手続きで操作許可取っていたら、時間がいくらあっても足りん間に合わん。手続き済ますうちに取引が終わっちまうし、そもそも察知して逃げられるだろう。コイツらはお上の色んなところに枝を張ってるしな」
枝……スパイのことか。
「悩ましいことさ。社会を成り立たせるためにしきたりを守るのに、そのせいで社会を蝕むシロアリどもを自由にさせちまう。……そこで、オレたちみたいなヤツが役に立つというわけだ」
「隠密ってヤツか」
ノリトが言った。
「表向き存在しないことになっている秘密部隊。だからこそ法やしきたりに縛られずに自由にやることができる。グレイシルバさんはそういうクチか」
「半分正解ってところだな」
ノリトの推察に愉快げに応えるグレイシルバさん。
「オレは、お上とは一切関係がない。あくまでフリーな立場だ。だからこそしがらみもないし書類上にも存在しない。別に謀って闇に潜んでいるわけじゃないんだ」
「フリーの世直し組織ってこと?」
「そうやって言葉にされると恥ずかしいがな」
グレイシルバさんは照れくさそうだ。
「こっちで生活を始めた頃は、喫茶店の仕事を覚えるので精一杯だったが、慣れていくごとに手持無沙汰になってきてな。それと同時に、この街の濁った裏の部分が目に付くようになっていった。魔国は人間国と違ってお上の保護が行き届いているからな」
それは、別にいいことなのでは?
「いいことだ、基本はな。でも万事法に整った対処じゃ、どうしても裏の連中には出し抜かれてしまう。そういうヤツらは却って冒険者や傭兵みたいな無頼者の方がうまくさばけるんだ。人間国は、お上が頼りにならない分そういうのが発達していたからなあ」
何という皮肉。
「オレだって目の前で悪党が幅利かせてるのを知らんぷりできるにはまだまだ血の気が多すぎてな。すれ違うクズどもを叩きのめしていくうちに、同じように思っている連中が自然に集まってきた。気づけばけっこうな人数になっていた。……若い頃に傭兵団を立ち上げた時と同じ流れだな」
それがここにいる人たち。
法に縛られぬ立場から法を犯す者たちを縛ろうとする自警団。
義賊ということか。
「それ、魔国の法的に大丈夫なの?」
「大丈夫といえるし、大丈夫でないともいえる」
「どっちだよ」
そういうものか。
「もちろん正式に認められていない組織だからな。そんな集団が思いのままに暴れてたら正規の組織としちゃ目障りだろ。下手すりゃ取り締まりの対象になりかねん。ウチはそういうシロにもクロにもなり切れない方針でやってくしかないのさ。一応ベルフェガミリア辺りには話を通しておいたけどアイツも退役しちまったしなあ」
わざとらしく肩をすくめるグレイシルバさん。
「まあ現場の連中とはなあなあで付き合えているから何とかなりはするがな。だからこそこうして捕まえた犯人の引き渡しができるんだし。オレが現役で体動かせているうちは、これでだましだまし続けていくさ」
というか、グレイシルバさんのお店に行くことを勧めたのは父さんだったけれど、実はこれを見せるために勧めたということか?
人が集まれば自然に形成されていく裏社会の問題は、農場国にも発生しうるものだ。
僕もいずれはこの問題とぶつかることになる。
そんな時の対抗策になりうるものを、父さんは見せてくれたのだろうか。今のうちに知っておくといい、と。
「おおおおお……、体制から離れた治安維持組織……アウトローの匂いがする……かっけぇ……!!」
そしてその概念に一撃でやられてしまったのがウチのノリトだった。
なんというか……想像通りというか……。
アイツの中二心にドストライクだったのだろう。
今日の経験がどんな形で活かされるかわからないが、とりあえず貴重な経験ができたことはたしかだ。
「マスター、魔王軍がもうすぐ到着します」
「なら撤収だな。いつも通りヤツらとの鉢合わせは避ける。倉庫街でケンカが発生、通報れ駆け付けた魔王軍がコイツらを見つける……という筋書きだ」
グレイシルバさんの視線が、地面を転がる密輸犯さんたちへ向く。
「聖者兄弟、お前たちも行くぞ。ちゃんとバイト代を出してやらなきゃな」
だからその呼び方やめてくれませんか!?
定着されたら非常に困る!
「マスターあの二人滅茶苦茶使えるじゃないですか。次からも参加してくれるんすか?」
「アイツらはただの社会見学よ。大人がガキを当てにしちゃいかんだろ」
グレイシルバさんにとっては僕らもまだまだ子ども。それもまた今日学んだことの一つだった。