軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1363 ジュニアの冒険:老益

はい、僕ジュニア。

ただいま意気消沈中。

弟ノリトに決定的な器の差を見せつけられた気がする。

この気持ちに名前を付けるとするならば、敗北感。

こんな僕の沈む気持ちも知らずにノリトは仲間たちと打ち上げに行ってしまったようだし。

一人取り残されると益々孤独感に苛まれる。

「……んじゃ、私も戻るわね、CEOは随時忙しいから……」

とレタスレートおねえさんもそそくさと帰っていった。

そして……。

「我々も帰ろうジュニア殿、これ以上ここにいても得るものもなさそうだし……」

僕の下にはゴティア魔王子だけが残った。

「さあ、魔都までは我の転移魔法で一瞬だぞ。戻ったらお茶でも飲もう。我が城のシェフが作った焼き菓子はなかなかだ。ウチでは菓子もシェフが作るのだ!」

この日、ゴティア魔王子がこんなに優しくしてくれたことを、僕は生涯忘れないだろう。

それだけがこの日、僕が得たものだった。

* * *

そして魔都へと戻った僕らは、義務として魔王さんに報告。

「……ふむ、それではウェーゴに関しては今後、魔国の治安を乱すような危険はないと?」

「はッ!」

ゴティア魔王子の丁寧かつ正確な報告に、魔王さんは頷く。

「怪しげな秘密組織の正体がまたもや聖者殿の関係者だとはな」

またもや?

「いや、これが案外よくあることなのだ。この世界の不思議なこと、怪しいこと、何やら大きな意味がありそうなこと、全部元をたどれば農場に行きつくと……」

何とも言えなかった。

今の僕には言う気力もなかったけれど。

「詳しく事情を聞いたところウェーゴはあくまで、悩みを抱える者同士が相互の助け合いを目的とした……サークルとでもいうべき集団のようで、国や王家に敵対する意思はない模様です」

僕に敵対する意思はすこぶるあったけどな。

「今後は、定期的に活動状況を報告してもらうことで魔国側からも容認を明文化すべきかと。政治的な意図のない組織とはいえあの規模、それに上げる実績は無視できぬものと存じます」

そうですね、ウチの自慢の弟が仕切っていますのでね。

「ですが過剰な警戒は必要ないでしょう、実父として聖者様が、さらに出資者として豆カンパニーのレタスレートCEOが手綱を握っていますから、よもや暴走ということにはなりますまい」

「レタスレートか……彼女にもまた頼ってしまうな」

一瞬遠い目をした魔王さんであった。

「承知した。ウェーゴについては危険はないものと判断、警戒は解いてもよかろう。それが判明したのはお前たちが危険を顧みず調査に飛び込んでくれたおかげだ」

「これも魔国のため! 魔王子として当然のことです!!」

はい、まあ僕は関係ないですけれどね。

「……先ほどからジュニアくんはどうしたのだ? 何やらやさぐれているように見受けられるが?」

「彼にも、そういう時期があるのですよ」

「そうか……?」

戸惑い気味の魔王さん。

でもまあ、これでウェイウェイなウェーゴに関するゴタゴタは無事解決してよかったね。

でいいじゃないですか、まったく。

「ともかく、ウェーゴの問題だけでも早急に片付いてよかった。もう一方がなかなかこじれそうゆえにな」

「は?」

そしてすぐに不穏な口ぶりをする魔王さん。

一体なんですか?

問題解決したばかりなんですよね? とざわつく。

「実はな、この魔王城内で問題が発生してな」

「なんと?」

『なんと?』じゃないが。

どこでも発生しているな問題。これ以上巻きこまれるのも釈然としないし、ここらで速やかにお暇しようか。

「ルキフ・フォカレについてだ」

「ルキフ・フォカレ卿ですか!?」

ルキフ・フォカレといえば聞き覚えのある名前。

たしか魔国の宰相を務めている人だ。

能力が高く良識もあって、魔国の内政は長いことその人の手腕で回っていると伝え聞いている。

半世紀以上を魔国の官僚として生き、幾代もの魔王の治世を縁の下から支えてきた。

有能すぎるほどに有能で、存命ながら既に歴史に名を遺すことが決まっていると言われる。

かつてウチの父さんが言っていた。

――『魔国のルキフ・フォカレさんとベルフェガミリアさんが揃うのは聞仲と太公望(藤崎竜版)がタッグを組むようなものだ』と。

よくはわからないがとにかくぶっちぎりに高い評価だということは間違いない。

そこまでみんなから賞賛されるルキフ・フォカレさんが一体どうしたのか。

「お前たちが出かける前に少し話したな。ルキフ・フォカレには引退を勧めると」

「はい、ルキフ・フォカレ卿も御歳八十を越え、いかに優秀と言えども人の働く期間を越えていると」

そうだったな。

それを押して、次世代でも働かせようとしたのがゴティア魔王子だった。

「ルキフ・フォカレ卿の聡明さを我が治世でも活かせないのは残念ですが、誰しも時の流れには逆らえないものと今は納得しています。……して、ルキフ・フォカレ卿は引退を承諾されたのですか?」

「うむ、それがだな……!」

魔王さん、俄かに言葉を詰まらせて。

「断固として拒否された」

「えぇー?」

「本人曰く、自分は生涯現役であると。自分が職を辞する時は死ぬ時であると……! どうせ引退してもやることがないのだから、それなら死ぬまで仕事をし続けていたいと……!」

また強火ですな……!?

ルキフ・フォカレさんがそんなにも仕事に命を懸けていたとは。

何世代にもわたり魔王を支え続け、官僚として働き続けてきた意地か。

「生きるために仕事をするのではない、仕事をするために生きているのだと……!」

それなんか病名ついていません?

主に心の病的な?

「我も、まさかルキフ・フォカレがここまで職務に執着しているとは思いもしなかった……! 先代からずっと、彼には頼りっぱなしであったからな。彼から他の生き方を、選択肢を奪い去っていたとは。……罪深いことだ」

魔王さんは頭を抱えてしまった。

そこまで深刻になるとは。

ただ人事の運用的な意味合いで困っているというだけでなく、どこかルキフ・フォカレさんという個人に対する想いというものも感じ取れた。

「……あの、魔王さんとルキフ・フォカレさんはどういう?」

小声でゴティア魔王子に尋ねる。

どうもその二人が、単なる主君と家来の関係だけじゃないように察せられたからだ。

「ルキフ・フォカレ卿は父上にとって、もっとも貢献してくれた臣下だ。父上より先代の魔王は遊興に耽り、戦争中だというのに著しく国費を浪費したらしい。このままでは魔国が滅ぶ……と危機感を持った父上が立ち上がり、半ば強引に代替わりを成した。その時にもっとも助となったのが……」

……ルキフ・フォカレさんと。

「当時まだ官僚の一人でしかなかったルキフ・フォカレ卿は秘密裏に父上と協力し、内政面での根回しに奔走した。お陰で父上が即位した直後混乱はほとんどなかったそうだ。以後、人族との戦争でも後方支援を徹底し、戦勝の一因を担った。父上がこれまでの統治で挙げた功績はほぼすべて……」

「ルキフ・フォカレなしには達成できなかったであろう」

魔王さんが言葉を継いだ。

コソコソ話していたつもりが聞こえていたか。

「我がここまでやって来れたのは多くの臣下、多くの友、多くの家族に助けてもらったお陰だが、中でももっとも助けてくれたのはルキフ・フォカレで間違いない。我は、彼のことをもう一人の父のように思っている」

「これは公式にもいくつか記録のある発言だ」

ゴティア魔王子が補足してくれる。

「だからこそ、ここまでずっと頼りきりだったからこそルキフ・フォカレにはゆっくり休んでもらいたいと思っている。ただただ燃え尽きるまで走り続ける人生では侘しいではないか」

しかし。

「我が言葉ではもうルキフ・フォカレを説き伏せるのは無理らしい。そこでだゴティアよ、そしてジュニア殿」

「はい」

はい?

「若いお前たちであればまた別の視点で、ルキフ・フォカレの心を変えてくれるかもしれん。どうか彼と話してみてはくれぬか?」

「かしこまりました! 父上の真心、卿に届くよう微力を尽くします!」

とまたすぐ巻き込まれることになった。

でも、さっきはゴティア魔王子に随分助けられたから今回ぐらいは付き合うのもアリかな?