軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

134 神の要請

『神を召喚します』

先生がいきなり訪ねてきたと思ったら単刀直入にそう言った。

先生は、アンデッドの中でも最凶最悪の怪物ノーライフキング。不死者となってから千年以上が過ぎて自分の名前も忘れてしまったので『先生』の愛称で呼ばれる。

普段は、農場近辺にある洞窟型ダンジョンの奥深くでダンジョン主をされているのだが、時々こうして我が農場を訪ねてくる。

そんな時は彼の好物たくあんをお出しして雑談を楽しむのだが、今日はいきなり……。

『神を召喚します』

と言い出す。

「……先生、神様ならこないだ召喚したばかりでしょう?」

とコントめいた口調で諫めてみる。

魔王ゼダンさんが人間国を滅ぼした戦勝報告に冥神ハデスを召喚。その最新召喚からほとんど時間が経っていなかった。

『それでも、神を召喚するのです』

この頑なさは何なの?

「あの……、先生? 神を召喚するって大変なことなのはわかっておいででしょう?」

アンデッドの王ともなると、金銭感覚を失った大富豪よろしく常識が通じないのかもしれないが。

神を召喚するってね。

とても大変なことなんです。

神ですよ。神。

ゴッドです。

プラティやエルフたちから聞いたけど、召喚術自体は魔族の魔法にも人族の魔法にもあるらしいが、精霊や悪魔を召喚するので精一杯って感じらしいです。

そんな水準から見て神を召喚する。

難しい?

そんなレベルじゃありません。

不可能なんだってさ!!

『神を召喚するとかバカなんじゃねーの!? 常識考えろや!!』って罵られるレベルで、魔族人族さらに人魚族の魔法史を顧みても神が召喚された事例など皆無。

そんなことが何故可能なのか?

先生がアンデッドの王という最凶最悪の存在として、この人自身神話に片足突っ込んでいるからに他ならない!

「だから、ね? あまりホイホイ神を召喚されても困るわけです。世界のバランスをブチ壊しかねないことはおわかりでしょう?」

第一召喚される神の身にもなってごらんなさい。

あの人ら一応世界の主としてふんぞり返ってる立場なんですから、簡単に呼びつけられたら威厳も形無しじゃないですか。

『失われた威厳を取り戻す』とか言って少数を箱舟に乗せて大洪水起こされても困る。

ここは事を荒立てないように、なんとか先生を説得しようと試みたが。

『断念するわけにはいかないのです』

何故か聞く耳持ってくれない。

まあ、ノーライフキング相手に言い聞かせようと試みるのが土台無謀なことなのだが……。

神という一等強力な存在が冒頭から出てきたので、比較してイージーだと錯覚してしまっている。

『というのも、今回の召喚はワシの我がままで行うわけではないからです。……今までもそんなことは一度もありませんでしたが』

一応節度を持って、何かしら口実がないと召喚決行しなかったからな、この人。

年長なりの分別はちゃんと持っておられるのだ。

「……では、今回も何か理由が?」

『神託が下ったのです』

「え?」

神託に曰く。

――我らを召喚希望。地母神の夫ハデス&海神ポセイドス。

「召喚希望!?」

神みずから!?

どういうことですか一体!?

『冥神ハデスのみならず、大海を支配する海神ポセイドスの連名神託となれば、従わぬわけにはいきますまい。不死の王の沽券に関わるゆえ、全力で召喚に挑むつもりです!』

フンス、と先生の鼻息が荒い。

これ使命感に加えて、好きな神召喚を神自身の許しを得て大手を振ってできるという嬉しさもあるんだろう。

こないだの魔王さんもそうだったけど、この世界の実力者って趣味に対してのめり込む人が多いな。

アロワナ王子も相撲にドハマリしてるし。

この世界の人たちに遊びを紹介する時は慎重さを第一にしないといけない。

* * *

そんで始まりました。

今や恒例、先生による神召喚タイム。

今回も、農場の住人たちがガヤガヤと野次馬に訪れております。

「前回ハデスが召喚された時に皆ビビッて逃げてったのに、懲りないなあ」

と俺は思ったが。

「そりゃビビりますけど。神をこの目で見れるなんて思いませんでしたから!!」

「超有り難いことですよ! ビビって逃げたことを落ち着いてから超後悔しましたが、また機会があるというなら今度こそ!!」

「全身全霊を込めて拝み倒します! あとお賽銭を投げつけます!!」

こちらの世界は中世程度の文化レベルだけあって信仰心はまだまだ健在。

自分たちを生み出した神々となれば、それだけで崇拝の理由になるそうだ。

ただお賽銭を投げつけるのは痛そうだからやめておきなさい。

「今回はハデスだけじゃなくてポセイドス神も召喚されるんだろ? アタイたち人魚族の創造神じゃないか!」

「これは立ち会わないわけにはいきませんね。海神の眷族として!」

今や農場の古株になりつつあるパッファやランプアイなどの人魚組も、今回の神召喚には興味津々のようだ。

こうして場が充分に盛り上がったところで先生、神の召喚を行う。

『フンジャラホンジャラ……! エイッ!!』

呪文が適当になってきてない?

適当だけど成功した。

神召喚された。

立派な髭を蓄えた冥神ハデスさんはもはやお馴染みだが、その隣に並ぶ、もう一人の神々しいのがやたら目新しい。

上半身裸で厚い胸板を誇示するように晒しているが、それ以上にこれ見よがしなのは手に持つ三叉戟。

『これが自分の名刺代わりだ』と言わんばかりに見せつけている。

真っ白な長髪は白波のごとく波打って、立ち姿だけでもその偉大な風格が伝わってきた。

この神こそ……。

『……海神ポセイドスである。余を讃えよ』

「「「「ははーッ!!」」」」

直接の眷族である人魚族はもちろん、他の種族まで雪崩を打つように平伏した。

『……余の時は、そんなことしてくれなかったのに』

隣でハデス神が拗ねたように呟く。

……いえ、アナタがやって来た時は毎回突然でしたし、そこまで頭が回らなかったんですよ。

お望みとあれば今からでもしますよ!

ははーッ!!

『不死の王よ。大儀であった。よくぞ神託に応え、我らを召喚した』

『神々の御心のままに』

恭しく額ずく先生。

世界二大災厄の一方と言えどもへりくだらなければいけない神の存在に改めて畏怖される。

『……さて、早速であるが地上へと現界した用件を果たすとしよう』

『うむ、そうしよう』

頷き合う地の神と海の神。

今回の召喚は、神の方から望んで行われた。

つまり神の方に地上へ来る用事があったということで、一体何が目的なのか?

『神の名において命じる。こちらの海の神にたけのこご飯を食わせよ!』

『うむ、余にたけのこご飯とやらを食わせてみよ!』

おぉい?