作品タイトル不明
1343 閑話:魔王の悔恨
我は魔王ゼダン。
魔国を治めてそろそろ二十年を越える。
一代の治世としてはなかなか長期で、しかもこれといった支障もなく安定していることから、まあ統治者としての面目は果たせたものと最近やっと安心できている。
だからこそ、そろそろ次代について気を配る時期に差し掛かっている。
我が後継者は既に確定している。
我が第一妃アスタレスが生みし長男、ゴティアだ。
魔国は長子継続が原則。
まあ、時には先に生まれても妾腹だったりとか王女だったりとか様々な要因で揉めることもあるが、ゴティアに関しては正式な妃、しかも第一妃の息子でかつ明確に生まれた順番も揺るがぬ一位。
さらには当人も才気煥発で、日々の鍛錬も緩みないとなれば誰にも文句のつけようがない後継者だ。
我自身だけでなく周囲も、次の魔王はゴティアで間違いないと信じて疑わない。
だからこそ我も、日頃よりゴティアに口煩く言わねばならぬ。
未来の魔王なのだ。
責任は誰よりも重い。
将来彼が魔王となった時、その決断一つ一つに魔族の命運が懸かるのだ。
生半可な気持ちでの判断を下させるわけにはいかぬ。
だからこそ今日も、客人の前であることを承知で厳しい言葉を投げかけた。
たしかにベルフェガミリアもルキフ・フォカレも得難い能臣だ。彼らのどちらかがいるだけで我が世は安泰と言えるほどに。
ゴティアが求める気持ちもわかる。
しかしダメなのだ。
優秀な臣下に頼るだけでは王者は務まらぬ。まして先代から受け継いだ……真の意味での腹心とは言えぬ配下では。
ゴティアよ、自分だけの腹心を得るのだ。
ただ命令に従うだけでなく、苦楽を共にして信頼に結ばれた主従でなければ、己が治世を生き抜くことはできない。
そう思い、努めて厳しくゴティアに言い渡し、彼が懸命に成し遂げたであろうルキフ・フォカレとの約定を白紙に戻した。
すべてはゴティア自身のため。
ゴティアが、真によき魔王となるために必要不可欠であるからだ。
しかし、そのために……。
「……また息子に嫌われただろうか?」
ゴティアが、客人と共に謁見の間から下がった。
それを確認し、深く濃い溜息を吐く。
体中の空気が出て身が縮みそうだ。
「ゴティアは、アナタ様の気持ちをわかっています。魔王となるために避けて通れぬ道であると」
我が妃にしてゴティアの実母でもあるアスタレスが言う。
公私において我を支えてくれる、頼もしき妻だ。
「この程度の試練を乗り越えられぬようであれば、あの子に魔王となる資格はありません。魔国の歴史と、すべての魔族のためにも、あの子の資質をしっかり見極めるべきです。そして、もし足りぬようであれば容赦なく切り捨てねば」
「うむ……むう」
アスタレスよ、お前ちょっと厳しすぎやしないか?
いくら国の行く末を左右するとはいえ、実の子にもう少し恩情とかあってもいいのでは……?
「コイツは昔からそうですぜ魔王様」
と言うのは、もう一人の妃グラシャラ。
平民から軍部の頂点……四天王へとのし上がり、さらにそこから魔王妃に輿入れ……という異色の経歴を持つ女だ。
それゆえに我の行う政策と噛み合う。
我は戦後の魔国を改革しなければならなかった。
新しいことを行う時、いつもグラシャラの型破りに励まされ、背中を押されることは多かった。
アスタレスに支えられ、グラシャラに押し進められてここまでこれた我が治世であった。
「だが、ゴティアに肝胆相照らすほどの腹心がいないのは我の責任でもある」
普通、将来が決まっている王族男子には幼いうちから学友がつけられる。
同年代の幼い子どもと一緒に育ち、一緒に学ぶことで競い合うことや切磋琢磨することを奨励されるのだが、それと同時に幼いころから王子と共にいる学友は、将来の幹部候補でもある。
長い時間を共有することで信頼関係を育み、さらには王子と共に王子同様の高等教育を受けることで有用な人材に育つであろう学友は、それこそ次代の忠臣として大いに期待されるのだ。
そんな学友が、ゴティアにはいない。
何故か?
いやもちろん当初はいた。我とてゴティアのためによい人材を育もうと努力しなかったわけではない。
我自身、魔王子時代そんな恵まれた立場にはいなかったために真っ当な学友など持たなかったし、まともな魔王子教育も受けることはなかったから、その手のノウハウがなく戸惑いがちであったことも否めない。
それでも、形式程度にはわかっていたし、大事な息子のためにやれることを惜しみはしなかった。
じゃあ、何がいけなかったのか?
ゴティアの幼少時代、彼につけた教育係は決してよい人材ではなかった。
ゴティアを育てることよりも、自分の立身出世ばかりを気にしているような男で、むしろ自分の栄達のために幼いゴティアを利用している節さえあった。
学友の選別もソイツに任せていたが、あろうことか賄賂を受け取り、それを基準に学友となる子どもを決めていたのだ。
才能や気質など二の次で。
強欲者が選ぶ学友も似たようなもので、ゴティアの役に立つよりもゴティアを利用して得をすることしか考えない、忠臣とは程遠い連中ばかりだった。
ゴティアはそんな者らに囲まれて幼少期を過ごしてきたのだ。
気づかない我も大概愚か者だが。
この問題が露呈したのも、我ではない別の者の成果であった。
いつも頼りになる農場の方々、それに我が腹心ベルフェガミリアの活躍によってゴティアに群がる害虫のような連中は一挙に排除された。
お陰でゴティアは、寄生虫に群がられるような環境を脱したのであるが。
途中までとはいえあんな環境で育って、よく人格が歪まなかったものだと我が子の芯の強さに驚嘆する。
だがそこからも問題だった。
一度そんなことがあったものだから学友の再選出にも慎重にならざるを得ず、時間をかけすぎた結果、気づいたらゴティアは幼少期を過ぎて、そこそこ立派な少年となっていた。
ここから友をつけても、芯からわかり合える竹馬の友にはならなそうだし、どうしたものかと悩んでいるうちにさらに時間は過ぎ去る。
そうこうしている間にゴティアは自分で友だちを作る術も知らにまま青春に入ってしまった。
元から上の世代に囲まれて過ごすことが多かったために、同世代の友人など壊滅的。孤独だ。
そうなるように仕向けたのは他ならぬ我。
にもかかわらず自分の世代から腹心を見出せぬことに対して説教などおこがましい。
おこがましいにもほどがある!
ベルフェガミリアやルキフ・フォカレといった実績たっぷりの古参家臣を迎えようとしたのは、ゴティアなりの最大限の努力だろう。
自身に生え抜きの手駒がいないのだから、そういう対応は至極真っ当だ。
それを封じ、あえて困難な道に進ませようとは。
そもそも父親である我が与えるべきものを与えなかったせいでゴティアを追い込んでいるというのに。
我はゴティアにとって災難でしかないのかもな……!
「そうご自分をお責めにならないでください。これはゴティアが、立派な魔王となるために乗り越えねばならない試練なのです」
うむ……、いや、その試練が、我がしっかりしてさえいれば乗り越える必要のなかった余計な試練ではないのかとな……!
「何を言うんのです。試練というのは多ければ多いに越したことはないのです。むしろゴティアには、ゼダン様のあとを担うに相応しい魔王となるためにあと二ダースは試練が必要です!」
それは……、ちと多すぎない?
だが我としてはな、魔王としてだけでなく父親としてもゴティアに多くのものを残してやりたいのだが……。
そういうのがなくて、ゴティアには寂しい思いをさせたり苦労ばかり強いている。
我は、いい父親であるのか?
魔王としてそれなりに出来ていたとしても、ゴティアの父は我一人しかいないのだ。あの子のためにいい父親である義務がある。
「ゼダン様はよくやってるじゃないすか?」
第二妃のグラシャラが言う。
「いつだったっけ、……なんとか不義屋? とか言うのでゴティアくんと遊んであげてたじゃないすか」
不義屋?
……ああフィギュアね。
空前のブームを巻き起こしたゴッド・フィギュアだが、あれが流行り始めた頃ゴティアに勧めて一緒に遊ぼうとしたこともあった。
まあ、普通に聖者殿がやってたことの真似でしかなかったが。
でも、ゴティアすぐにゴッド・フィギュア飽きてやめたんだがな。
むしろはまったのは我だけだった。
子どもそっちのけでホビーにハマるダメな父の典型。
「ああッ! ゼダン様! 意気消沈しないで!」
「そうだぜ!……あ、そうだ! ゴッド不義屋ならウチのマリネが大ハマりしてたから!」
フィギュアな。
その風評被害出そうな誤表記やめてくれまいか。
あと我が長女マリネがゴッド・フィギュア廃ユーザーなのは知ってる。
本年度ゴッド・フィギュア世界大会、魔王城地区予選の決勝で、我はアイツに負けた!
しかし娘とそうしてコミュニケーションを取れているにつけ、対照的に交渉が没しがちなゴティアに後ろめたさがカウントされていくのだ。
このままゴティアが成長していけばますます親子関係は希薄となり、魔王としての社会的立場の方が重要となっていくだろう。
そうなる前に、我は……!
何としてでもゴティアとの親子仲を改善したい!!