軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1335 ジュニアの冒険:騒がしくなければお祭りではない

『真秀! ドーエル芸術合戦!』

その基本的な進行はやはり一対一の対決形式であるようだ。

一つずつ、エルフ側からとドワーフ側から秀作が提示され、その優劣を競う。

そう言うのを何回か繰り返して最終的に勝ち点が多い方の総合勝利! という流れだ。

しかしながら並べられるのは美術品という、絶対的な優劣の基準を持たないもの。

しかも『美しい』の方向性がまったく異なるもの。

それでどう優劣をつけろと!?

もはや基準を求めるならば、個人的な好みしかないんだけれど、それで各種族の勝敗決めろっつうの?

恐ろしすぎる。

魔王さん、アロワナ伯父さん、リテセウスお兄さんはこの窮地を経験したそうだが、どうやって切り抜けたんだ!?

是非知りたい! 父さんの跡を継ぐ身として!

こんなところで未来の王者としての得難い経験をさせてもらえるとは!

そういえばもう一人のこの世界の王者である父さんはどうしたんだ!?

……逃げたんだった。

しかも胆力カンスト、障害のすべてはなぎ倒して走れな母さんにバトンタッチして。

あんまり感心しない対処法だが、見習えるのであれば見習いたい。

僕も将来母さんみたいな、肝の太い女性を奥さんに迎えろって言う教訓かな。

「ではエルフ側一番手はエルパジェロ!」

「ドワーフ側はドドドワール!」

なんか心身気鋭っぽいエルフとドワーフのそれぞれが、自信作っぽいものを抱えて出てきた。

「今年一年の奮起をこの作品に込めました! 銘は『骨』と付けました!!」

「こちらも今年一年の最高傑作です! タイトルは『アキラメロンの明星!』」

やべぇ、まったくもって何もかもわからん。

恐ろしい。

歴代の審査員たちはこんなに追い詰められてきたのかッ!!

一方はいかにもエルフっぽい作品だ。

エルロン宗匠がよく作る皿の形だが、形がぐんにゃりしていて日常用には向きそうにない。しかしそこがエルフさんたちに言わせれば美しいんだろう。

ただ、エルクさんの際もそうだったが、こちらもまだまだエルロン宗匠の模倣の域を脱していないように思える。

対するドワーフさんの作品は、宝石の散りばめられたネックレスだ。

一番目立つところに当てられた一番大きい宝石はファイヤーオパールだろうか? 鮮烈な赤で見栄えはよいが、逆に言えばその宝石の煌びやかさで全体を引っ張ってもらっている感じだな。

宝石という希少で高価値なものだから、他の拙いところを誤魔化せてしまう……というのは問題だ。

「……以上の観点から双方まだまだ修練が必要だと思いました。ただエルパジェロさんの『骨』という題名通り、くすんだ輝きのない白を基調とした器は、原点となるエルロン宗匠の作風にはない面白みを感じました」

よって。

「この対決はエルフ側の勝利とします」

おおおー、と双方からの歓声が上がった。

「見事な目利きだ。双方の作品を俯瞰的に見定め、問題点と評価点を的確に洗い出している」

「説明の仕方も簡潔だ。まだまだ未熟な者たちにとっていいアドバイスになるだろう」

「さすが聖者様のご子息!」

心臓が痛い、胃がキリキリする、帰りたい。

ヒトのものを評価するのがこんなに苦しい作業だったとは。

「では第一対決はエルフの方に軍配が上がりました! 一点リード幸先がよい! 対してドワーフは劣勢を覆せるか!?」

なんかアナウンスが入ってくる!?

「サクサクと進みましょう! 第二審査は今年二年目、殻が取れかけた新人同士の戦いです!!」

「対決が進むごとにベテランが登場しますからね! まだまだ勝敗の行方は分かりませんよ!」

って言うと?

いや、イベント的にトリが近づくほど実力派が登場するのは自然なことだよな。その方が盛り上がるし。

しかし待て! ベテランで実力者になればなるほど評価も難しくなるってことじゃないか!?

僕の困難右肩上がり!

それに加えて、じゃあ一戦目の出場者ってぺーぺーの新人ってことにもなるから、そんな素人に毛が生えた人たちの評価が正当にできたところで何の自慢にもならないってことじゃんか!?

ここからが本当の地獄だ……ってこと!?

もう帰りたい!

* * *

……そこからさらに数時間経過。

「これで第一三七審査が完了。ここまでの戦績はエルフ六十六勝、ドワーフ六十六勝、五引き分けで完全に実力伯仲しております!」

なんで対戦数が百超えるんだよ。

もうちょっと開催前に厳選してくれませんでしたか。

「今年は盛り上がりますのう。これも聖者様のご子息が適切で鋭い評価をしてくださるお陰じゃ」

「若い者たちにもいい刺激になって、エルフドワーフ双方の技術が発展してくれれば言うことなしじゃのう」

なんか一部が和気藹々としているし。

当初は過激な雰囲気に騙されたけれど、実は本当は純粋な意味でのエルフとドワーフの技術交流会なんじゃないの!?

僕の心臓止まりそうな緊張を返してほしいんだけれども!

「フフフフフ……未熟な半人前どもの拙い作品に、お遊戯会と勘違いさせてしまったかな?」

アナタは、エルロン宗匠!?

「たしかに聖者様の下で大変に目が肥えたご子息には退屈な時間だったかもしれませんなあ」

そしてアナタは……誰!?

ドワーフ族であることしかわからないがッ!?

「ワシはエドワード! ドワーフ地下帝国の王にしてドワーフ族一の職工でもありますぞ! 聖者様からもその腕を見込まれて何度も依頼を受けたものです!」

「まあそれでも農場住みの私と比べて接点も少なかったから、ご子息の記憶に残っていないのも仕方ない。忘れられていても悔しがることはないぞ。別にそれが重要度の決定的な差にはならないんだしなッ!」

「煩いッ! ワシはドワーフ族の王として地下帝国からおいそれと離れられんのじゃ! しかしそれでも度々注文を賜るのは、聖者様が心からワシを求めておられる証、我が技術が替えの利かぬものであると認めておられる証明よ!」

「そんなの、私だって同じだ!!」

「どうかなー? たまたま近くにいるから都合がいいだけなんじゃー?」

険悪!

この二人の中こそ険悪!

もしや……一見種族同士でいがみ合っているように見えるエルフとドワーフだが、実際にいがみ合っているのはこの二人だけなのでは。

ドワーフ族の棟梁であるエドワードさん。

エルフ族のパイオニア・エルロン宗匠。

二人の対立が、種族全体の方向性まで決めてしまうなんて……!?

「それだけ、あの二人の影響力が大きいということじゃのう」

あッ、L4C様!?

エルフ族の長として、二人を止めてください!

「そんなのできるならとっくにやっておるよ。しかし今やエルロン宗匠はエルフ族全体の尊敬を集める、いわば時代の旗手。旧き指導者のわらわごときでは、もはや手に追えんって」

そんな弱気な……!?

「しかし、この対立も両種族にとっては益あるものじゃ。手についた職で身を立てているドワーフはもちろんのこと。急速に外界との関わる術を身に着けたエルフも同じ」

まあ、エルフ族が陶工とかお茶の生産とかで世界中に存在感を出し始めたのも、ここ十数年のこと。

普通ならここまで急速に発展しないものだが、それを実現させたのもドワーフ族との切磋琢磨があったればこそ。

「それをここまで引っ張ってきたのもエルロン宗匠の実績であろう。宗匠はまさにエルフ族の救世主。滅びかけた森に暮らしていたことを思えば夢のようじゃ」

昔を懐かしむように目を細めるL4C様。

そう思えばこのエルフとドワーフの技を競い合わせる奇祭も、両種族の切磋琢磨を促進させる企画として意味あることなんだろうか。

「ほっほっほ、年寄りはすぐ昔を思い返していかんのう。エルロン宗匠のような救世主を使わしてくれて、農場の聖者様には感謝に堪えん」

その一方で、エルロン宗匠とエドワードさんはついに本人同士の対決に臨んでいた。

双方、各種族最高の技術の担い手だ。

『真秀! ドーエル芸術合戦!』のトリを飾るには相応しい。

これまでの特典も完全に伯仲しているので、この最終戦を征した方が総合勝利を獲得するのは間違いない。

またそんな責任重大なジャッジを僕に丸投げされるんだろうなあ……。

嫌だなぁ、逃げたいなぁ……。

そう思っていた矢先。

「申し訳ないがご子息、この最終戦にアナタの判断はいりません」

「左様、我らの勝負にはもっと明確で、断定的な決着が下されることでしょう」

え? なんで?

僕に責任が及ばないのはとても助かるが、最終戦になって急に形式が変わるのが気になる。

「何故なら最終戦には、我らが傑作……超造可動……ギガンティックフィギュア・ベラスアレスαと!」

「超機動芸術作品……リボルテック・ヘパイストスEXとで!」

「「直接対決!!」」

ズドドドドドドドドドドドドドド……!!

僕らの目の前に、超巨大な像が二つ、向き合う形で立ち上がった。

どこから出してきた?

この構図は、これからあの超巨大増でもって殴り合いでもしようという気満々であることが見て取れた。

それを見上げて、遠い目になる僕とL4C様。

ねえ、本当にエルフとドワーフって互いを尊重しながら切磋琢磨してる?

「我が森、今日で滅ぶかもしれんのう」

そりゃあ、あんな巨大なモノが大乱闘したらね。

L4C様の声は悲壮と諦観に満ちていた。