軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1317 ジュニアの冒険:ジュニア、飛ぶ

「よし、何をやるにしても資本は体力。あらゆる訓練は体力作りから始まる。体力あってこそ人は何事をも成し遂げることができる! 精神力? そんなの体力が尽きてからの奥の手だろうが! 一の手を疎かにして奥の手鍛えるバカがどこにいる!?」

「わー、さすがゴールデンバットくん、含蓄あるー」

いい具合にゴールデンバットさんを乗せているベルフェガミリアさん。

まさか……自分から言い出したゴティア魔王子鍛えすら他人に任せて、自分は楽しようとしている!?

「では基本のランニングから始めよう。お前は下地が十分できているようなのでいきなり上級者コース。両手両足にそれぞれ千キロずつの重りをつけて不死山上り下り百往復だ。不死山は勾配もあって空気も薄いからますます過酷で体力づくりにはうってつけだ!」

「わーい、ゴールデンバットくん容赦ないー」

「はい、お前にも重り」

「え?」

何故かベルフェガミリアさんまで重り装着。

「さあ走ろう! 楽しい楽しい地獄のランニングだー!」

「これがS級冒険者による訓練なのですな! この魔王子ゴティア、未知の経験に心躍りますぞ!」

「いやいや、僕は訓練に参加しないって……? いや待て引きずるな! 体が重い、重りのせいで! ちょっと待て走るの嫌! 体に負荷かかるの嫌ぁああああああああああッ!!」

熱血訓練好きの二人に引きずられていったベルフェガミリアさん。

……まあ、いいか。

彼のここ数年だいぶ惰眠を貪ってきたようなので、多少体を動かして運動に慣れた方が社会復帰しやすいだろう。

するかどうかわからんけど。

……さて。

こうして不死山の山頂に残ったのは僕一人……ではなく。

隣にもう一人、とんでもない御方が並んでいた。

ノーライフキングの老師。

足して足して引いて引いて引いて……みたいな先に、僕とこの御方で差し向かいなんて恐ろしい状況ができてしまったが、何と言うことか。

どうすればいいんだ!?

黙っているのも失礼な気がするし……かといって最強の超越者に対してどんな話題を振ればいいのかわからない!?

天気か!?

どんな時でも万能、天気デッキでイケるか、この状況!?

「あのー……本日はいい天気で……!?」

『好雨、時節を知る』

老師がフイと杖を振ると、雲一つない山頂の空へ瞬時に暗雲立ち込め、土砂降りになった。

はぁあああああああああああッッ!?

効かない!

天候を自在に操る超越的存在に、天気デッキまったく効かない!?

万能と思われた天気の話題、ここに限界あり!

『汝に会うことは、これが初めてではない』

おッ……!?

……普通に喋った?

『汝が初めてここに来た時は、父親に連れられ、体つきも今よりずっと小さかった。顔つきもあどけなく、親初め周囲の誰もから一身に愛されていること一見にてわかる幸福な子どもであった』

あッ、どうも……。

たしかにそうであったと思います。

『時の流れは隔てなし。皆に守られる子どもも草花のごとく伸び盛り、今では一人立つ男士なり。老人は若者の成長を見て年経たことを知る。光陰ライトニングアローのごとし』

なんだかよくわからないけれど、多分親戚のおじさんみたいなこと言っている

「あの、ウチの父が長く挨拶にも来られずに申し訳ないと言っていました」

こちらも礼を失さぬよう適当なことを言っておく。

実際は知らん。

でも気にしているようなことを伝えておけば、父さんの面目も経つことだろう。

『御父上は、よくここを訪れている』

えッ?

ウソなんで?

『聖者は山に登ることを楽しみとしている。「運動不足を解消だ!」などと言って最低年一度は。そのたび先生や博士やドラゴンらを引き連れてきて、私も孤独を紛らわせてもらい嬉しく思っている。光陰矢の如し』

マジで!?

じゃあ父さん充分すぎるほど老師との関係を好ましく維持してるじゃん!?

そうとも知らず適当に言った僕、赤っ恥!!

でもそういえば、ここ最近何度か父さんから『山登りに行かない?』って誘われたことあったっけ。

でも料理の練習とか色々やることあって断ってたんだ。

あれってこの不死山に登っていたってこと!?

なんだよ! それなら最初からそうと言っておいてくれよ!

礼義を尽くそうとして却って思い切り失礼なこと言っちゃったじゃん!!

『よいよい、若いうちはそのような間違いもある』

老師、寛大!

さすが最強のノーライフキングは度量も無限大にある……!

『折角訪ねてくれた若人に歓迎を表したいところであるが、残念ながら貧しき我が家にもてなしのご馳走などない、できることはせいぜい……』

わ、雨がやんだ。

そして雨に濡れた地面から俄かに芽が出てでてきた。無数に。

芽吹いた草はさらにすさまじいスピードで成長し、老師が何かしらの神通力を操っているのはたしかだった。

そして成長した草の先からは蕾が実り、花開くとそれは大層な蓮の花だった。

老師の回りに咲き誇る蓮の風景は、これまた幻想的。

ここ山頂だけど……。

とても蓮の花が咲くまで育つ育成環境じゃないんだけど……。レンコン獲れる?

「このために雨を?」

『せめて見た目を華やかに』

お気遣い痛み入ります……。

その前段階のお陰で僕、雨に降られてびしょ濡れということは触れずにおこう。

『本当なら手土産の一つでも増進したいところであるが、生憎と手元に何もない。世捨て人のみすぼらしさというところか』

そんな滅相もない!

このままでは老師が、お客を歓迎もできない主人として自信を失ってしまう!

そうならないために何か良策はないか!?

……そうだ!

「とんでもない! 僕は不死山を登ったことで大きく得るものがありました!」

ゴティア魔王子に引き連れられて登った不死山だが、霊峰聖域と讃えられるだけに、登れば何らかご利益があるものらしい。

さすが不死山!

父さんが毎年登ろうとする気持ちもわかる。

「いいですか、見ててくださいね」

老師の見ている前で、僕は目を閉じ意識を集中し、あの時の記憶をよみがえらせる。

……。

時速六〇キロメートルの風圧に手を当てるとおっぱいと同じ感触になる。

時速六〇キロメートルの風圧に手を当てるとおっぱいと同じ感触になる。

時速六〇キロメートルの風圧に手を当てるとおっぱいと同じ感触になる……!

……。

フワッと。

体が宙を浮いた。

『おおッ、快なり』

「不死山に訪れて僕は、飛翔の技を会得したんですよ。登っただけでこんな凄い技を覚えられるなんて、やっぱり凄い不死山!!」

実際にきっかけはベルフェガミリアさんの凶悪亜空間なんだけれど。

あの窮地で僕は『空気に触れる』ということを意識し、自分の回りの空気に『究極の担い手』を作用させ、空気に乗せてもらい飛ぶことを実現できたのだ。

『ブッラーヴォ! 素晴らしい! 聖者の息子はその若さにして飛仙の域に達したということか! ビバ! ハラショー!』

老師、感動のあまり口調の世界観がバグっていますよ。

『……これは失礼』

これは不死山にやってきて最大の……そして唯一と言っていい成果だ。

そこだけは誘ってくれたゴティア魔王子に感謝してもいいぐらいだ。

……いや、感謝しなくてもいいか……。

しかし、この能力は思った以上に素晴らしいものだ。

やっぱり移動能力が利便性最強。

空を飛べればどんな場所でも関係なく容易に到達できる。

地形の影響をまったく受けない素晴らしい能力だ。

『男子三日あわざれば刮目して見よ。その言葉はまさに汝のためにあるもの』

滅相もない。

さて、そろそろ僕はお暇するとしよう。

長くいると僕まで訓練に付き合わされかねない。

こんな遁走するのに最適の技も会得したことだし……。

「老師、それでは僕は失礼します。ゴティア魔王子たちによろしく伝えてください」

『汝の旅に幸あれ』

老師から別れの辞を貰って、僕は不死山から飛び立った。

巻きこまれる形で始まったけれど、終わってみると登山もなかなか楽しかったな。

父さんに誘われた時に素直に応じればよかった。