作品タイトル不明
1303 ジュニアの冒険:ジュニア王子の名案
「ははぁああああああんッ!? なッ、んなッ!?」
声になってない声で驚き慌てるのは、この厨房の料理長。
事実を知って困惑の極みにある模様。
「なんで!? その……なんで!?」
「何が?」
言語を忘却してしまうのも無理はない。
我が職域の従業員として強烈にスカウトしていた人物が本日の主賓だったなんて、そんな珍妙奇天烈極まる状況が人生にそうあるだろうか?
例えるなら一兵卒としてスカウトした人物が世紀の大軍師だった……というような感じ?
「しか……しかしかしかしかしかしかし……!?」
こしたんたん?
「しかし! なんで王子様がこんなに料理を完璧にこなせるんですか!? 普通王族って言ったら調理どころか口に運ぶとこまでヒトにやらせる雲上人でしょう!? それが、プロ顔負けの料理の腕前……やっぱり何かの間違いなんでは?」
「いつのイメージで話しているんだ? 少なくとも共和制に入った我が国では指導者である私も厳密には一般市民だし、妻も我が家では料理するよ。私だってちょっとしたものなら作れる。ふぐちりとか」
それは、ちょっとしたものか?
「それに彼のお父上にあらせられる聖者様は、特段料理の造詣が深い御方だ。あの御方が発明した料理は数限りなく、世界中に知れ渡って定着した料理も数知れない。聖者様は、この世界の文明文化を何段階も進めてくださった御方なんだ」
「そっ、そんなに……!?」
「その息子であるジュニアくんが、料理もできないなんてないだろう!」
いやそんな持てはやさんでも。
僕としてはまだまだ父さんには遠く及ばないと思っている。
父さんなら、今回この状況でももっと斬新な案を出してパーティ会場を沸かせたに違いない。
「ヴィール・シミュレーション!!」
ヴィールがなんかほざき始めた。
「……こういう場合、ご主人様なら『大人数なら鍋にするかー』とか言い出しそうなのだ」
それはそれで和気藹々としそうだけど。
「フォーマルがアットホームに早変わりだが……! いやそれ以前に主賓がいない歓迎パーティ事態が成立しないのだが」
リテセウスお兄ちゃん、ドッと疲れたため息をつく。
「とにかくジュニアくんはホールへ移動してくれ。キミがここにいたままでは今日のパーティは確実に失敗だ。ここで作った料理も何の意味もなくなる」
はい、そうですね……。
というわけで料理長さん、ここでの就職は叶いませんのでどうか悪しからず。
「は、はいぃ……それは、それはもちろん……!?」
料理長さんは青い顔でカタカタカタと震えていた。
僕をスカウトできないのがそんなに残念だったのかな。
ゴメンね。
「それで……我々にはどのような罰が?」
うん。
「恐れ多くも他国の王族を台所で働かせてしまったのですから、不敬に当たります。どうかオレの首だけで事を収めていただけませんか……!?」
「そんなッ、この人を間違えて連れてきたのは私です! だから私を罰してください!」
「バカ野郎! お前みたいな見習いに全部押し付けて危険から逃れようなんて恥ずかしいマネができるか! オレは料理長だぞ! 不始末の責任はまず誰より先にオレがとる!」
うわぁ、皆さんが悲壮になっている。
でも大丈夫ですよね?
ただの誤解とすれ違いから起こったことなので、そんな厳しい結果にはなりませんよね!?
「…………」
リテセウスお兄ちゃん。
「もちろん首を取るとまではいかないが、まったくお咎めなしとはいかない。彼らの言う通り、主賓に不敬を働いた罪、催しそのものを瓦解させようとした罪は償ってもらわなければ」
えーッ!?
だからそれは不幸な事故で……!
「事故であろうと誤解であろうと、起こってしまった不始末には誰かが責任を取らないといけないんだ。それが社会というものだ」
そんな……だったら一番悪いのは僕なのに。
この場で間違いを知っていたのは僕の他にいなかったんだから。
それなのに何も知らなかった彼らが罰せられるなんて間違っている。
どうする?
僕がこの場の責任をすべて取って何らかするか。
自主的に己を罰すれば、厨房の人たちの罪も軽くなる……?
「むしろ話が大きくなって、連中にかかる責任も重くなるぞ」
ヴィール?
どうした?
「主賓であるお前にペナルティを課したとあれば、こんなペーペーどもにはさらに重い罰を課さないと、人間国が農場国を舐めたってことになるのだ。量刑ってのはそういうものだ」
そんなッ、僕の迂闊な行動が、ここまで大事になってしまうなんて。
流されるままにせず、もっと毅然と対応していたら……。
いや、今は反省するよりも、この事態を何とかすることの方が重要だ。
まだすべてが終わったわけじゃない。
皆が罰せられず穏やかに収められるように考えなければ。
きっと方法があるはずだ。
父さんなら、きっとこういう状況でも名案を思いつけるはず。
父さんの知識と発想よ、今この僕の頭脳にも宿ってくれ!!
知恵熱で煙が噴き上がるぐらいに考えて何とか浮かんだ案がコレ。
「ホールへ行きます」
「へッ? あ、ハイ」
ズンズンと進んでいく僕に、リテセウスお兄ちゃんや、あと料理長たちも『何ごとか?』と追ってくる。
「ジュニアくん、ジュニアくん!」
「……」
「ホールそっちじゃないよ! さっきの角を左!」
「!?」
さすがに勝手知ったる我が家のようにはいかないか。
ご案内、助かります。
そして最終的にたどり着いた扉をバーンと開けると、大きく開けた空間に、それこそビシッと着飾ったレディース&ジェントルメンが詰めかけていた。
注目が一気に集まる。
「皆さんごきげんよう! 僕が農場国からやってきた聖者の息子ジュニアです!!」
と名乗ると、さらに視線が一気に集まる。
「あれが今回の主役……!?」
「姿が見えないから、どうしたものかと思っていたが……?」
「凛々しい姿をしているではないか」
「しかし何故純白?」
と感想の声が上がっている。
しかし今の僕は、自分がどう見られているかよりも、思いついた作戦を遂行する方が急務だ。
「僕のことを歓迎してくれるパーティなのに遅れてしまいすみません! しかし、それにも理由あってのこと。皆さん聞いていただけるでしょうか?」
と言えば出席者の皆さんが耳を傾けてくれるのは必定。
何せ僕は今日の主賓だからな。
無条件で注目の的だ。
「ところで皆さん、今日の料理は美味しく召し上がっていただいているでしょうか? 特に僕がみずから焼いたホットケーキは?」
そう告げると反応充分。
「えッ、王子がみずから?」
「この料理の中にあるのか?」
うん、いい反応だ。
「こちらのホットケーキは、我が農場国でも人気のデザートです。僕が、今日の歓待のお礼として先んじて用意させていただきました」
いかにもらしく言うのがポイント。
「我が国の特色は、他国に類を見ない珍しい料理がたくさんあることです。いずれも僕の父が考案し、多くの人々に受け入れられたものです。その素晴らしさを皆様にも知っていただくために……」
さあ、ここからが重要事項だぞ。
「僕が要請し! 王城の厨房を使わせてもらって!」
重要! ここ重要!
「ホットケーキを焼かせていただきました! これをきっかけに農場国への興味を持っていただければ幸いです!」
どうだ!
こうしたもっともらしい経緯があれば、厨房の人たちを罰する必要もあるまい!
歓待に返礼するのは当然のこと!
そのためにホットケーキ作りを企画した僕は、許可を取って厨房で料理したというわけさ!
いい趣向だろう!?
いつ許可を取ったかだって?
事前に、とりましたよね! ね!? ねえッ!?
「上手く丸め込んだなジュニアくんも」
「これぐらい口八丁になってくれないと、安心してご主人様のあとを委ねられないのだー」
「ヴィール様もしや……。ジュニアくんがどう切り抜けるかを見るために、あえて黙って見守っていたのですか?」
「ジュニアを助けたいのはやまやまだが、成長の機会を奪っちゃいかん。プラティのヤツから散々言われているからな」
ふう、これで僕の軽率な行動で損害を被る人は出ないはず。
これはパーティの一環。
だから厨房の人々がお叱りを受けることもない!
でもまあ、これを教訓に以後軽率な行動をしないように注意しなければ。