軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1301 閑話・主賓のいない歓迎会

私はリテセウス。

人間国初代にして二代目かつ三代目大統領。

四期目は絶対に出ない! がスローガンの現職だ。

今日は農場国から旅してこられたジュニアくんを、歓迎するためのパーティを開いている。

王城にて晩餐会!

これが我が国にて催せる最大級の歓待行事だ!

ジュニアくんへの歓待にそこまで全力を注ぐのはもちろん真っ当な理由あってのこと。

何しろジュニアくんは、あの聖者様の息子さんだ。

万能にして全能、この世界を牛耳れるほどの力を持ちながら、その力を十割世界の発展のために尽くされる聖者様。

私自身、幼少のみぎりから聖者様のお世話となって様々なことを学び会得してきた。

それらを充分に活かしての今日がある。

つまり私が大統領として活躍し、敗戦どん底だった人間国がここまで復興できたのも聖者様のお陰と言える。

そんな聖者様への御恩返しのためにも、ご子息であるジュニアくんを粗略な扱いはできぬではないか。

さらには聖者様も今では農場国を起こし、より直接的に世界の発展に関わるようになった。

聖者様がやるとなったら、その発展は迅速だ。

きっとこの世の中は、本来数百年数十年かけて歩んでいく道のりを数十年で駆け抜けていくことになる。

実際、ここ十年はまさしくそんな感じになっている。

我が人間国も、聖者様が引き起こすパラダイムシフトに乗っかって爆発的発展を遂げなければ。

そのためにも聖者様、ひいては農場国との距離を近づけておくのは政治的に正しい判断だ。

ジュニアくんは、聖者様の御子息……しかも長男。

父君たる聖者様の能力思想理念気品優雅さ勤勉さを受け継ぎ、次代の農場国を担うであろうジュニアくん当人とも親交を結んでおくことは、聖者様の歓心を買うのと同じぐらいに重要なことだ。

だから歓迎パーティぐらい開くさ!

聖者様&ジュニアくんの性格を考えれば、あまり露骨な媚び媚びは逆効果。

だからこそ最低限、歓迎の意を表する程度のパーティを開くにとどめておく。

そうでなければジュニアくんを接待漬けでこちら側に取り込むぐらいやるわい。

私とて大統領歴十年。

清濁を併せ飲む度量ぐらい持ち合わせているつもりだ。

しかしそれも歓待する相手がいてこその話。

歓迎パーティは既に始まっているものの……。

肝心のジュニアくんがいない!!

どうして!?

歓迎する相手のいない歓迎パーティにどれほどの意味があろうか!?

既に王城のホールには、この日のために招待した王都周辺の領主とか政府高官とか、なかなか錚々たる面子が揃っている。

全員ジュニアくんと顔合わせさせて覚えてもらおうと思っていたのに。

肝心のジュニアくんがいないのではそれも無駄に!

一体どこへ行ったんだジュニアくん!?

当初の予定では、彼が宿としているらしい冒険者ギルドに迎えを寄こし、豪勢な馬車と歓迎セレモニーで堂々と乗り込んでもらうつもりだったのに。

帰ってきたのは馬車だけで、中には誰も乗っていなかった。

そこでもう衝撃の困惑。

出迎えから話を聞くところによると、ジュニアくんはとっくに王城へ向かって出立したとのこと。

どうして!?

迎えを寄こすから待っててくださいって言ったのに!?

しかしだったらどうしてジュニアくんは王城到着していない!?

みずから向かったんだろう?

だったら到着していてもおかしくない!!

「一体ジュニアくんに何があったんだ……!?」

既にパーティは始まり、焦りを隠しながら進行する私だが。

ジュニアくんは……道にでも迷ったか?

その可能性が一番高い。ジュニアくんといえど人の子、地図が読めなかったり東西南北を間違えることだってあろう。

『西って東?』って言っちゃうことだってあろう。

あるいは……何らかの事故に巻き込まれたとか?

いやいや、あのジュニアくんに限ってそんな。

たとえ暴れ馬に追突されたとしても、馬ごと受け止め無事に済ませるに違いない。何せ聖者様の息子であるのだから。

むしろ事件に巻き込まれる……その可能性が充分ある。

親子揃って巻き込まれ体質であるがゆえに、些細な親切心で介入したら犯罪組織と戦うことになった……とか普通にありそう。

どこからでもドラマを発生させる人たちだ。彼らは。

想像すればするほど悪い方へ向かってしまう。

私は一体どうすればいいんだ?

そもそも歓迎パーティを開いておいて、歓迎する相手がいないなんて催しそのものが失敗とみなされる事案!

大統領としての私のメンツも丸潰れ。

旧時代の体制に引き戻さんとしている我が政敵を勢いづかせることにもなるじゃないか!?

どうしてこんなことになってるんです!?

ねえギルドマスターこと、かつてS級冒険者として名を馳せたシルバーウルフさん!!

「そんな私に詰められても……!」

そもそもアナタ、ギルドマスターとしてジュニアくんと同じ場所からこられたんでしょう!?

なのに何故アナタだけ到着してジュニアくんが到着してないんですか!?

アナタが一緒に連れてきてくれていればよかったでしょうに!

「そう言われても私は仕事があったから遅れて出たんだよ。ジュニアくんは遅刻したらいけないとか言って早めに向かったし」

あの親子にいかにもありそうな真面目っぷり!

しかし早めに出たとしても、きちんと到着してないんじゃどうしようもない。

推測するに何らかのトラブルに巻き込なれた可能性大!

それもまたあの親子にいかにもありそうな事態!

この状況を何とかするためにもジュニアくんを捜索しに行きたいんだが、主賓不在という状況が公になれば即座にイベント失敗。

大統領である私が離れれば即刻怪しまれるので動くこともできないし……。

かと言ってこのまま座して待っていれば主賓不在がバレるは必定。

「大統領、ところで農場国の王子様はいつ来られるのですか? パーティもそろそろ中盤ですのに」

「いゃ~……準備に手間取っているのでしょうかねぇ~……」

八方塞がりだ。

このままではどの道パーティは失敗してしまう。

「何、死にそうな顔してるのよアナタ? パーティにそんな辛気臭い顔に合わないわよ?」

そう言って近づいてくるのは我が妻エリンギア。

既に結婚式を挙げてから数年が経ち、今では立派なファーストレディであった。

そうは言うがなエリンギア……この状況を鑑みたらとてもじゃないかお気楽極楽とはいかない……!

「別に深刻ぶったってどうにかなるわけじゃないでしょう? それよりも驚きよ! 今日のパーティ、料理にホットケーキが出てきたのよ! これ食べるの農場以来じゃないの!?」

ふむ。

たしかにホットケーキは農場でよく食べた。

我が妻エリンギアも農場で様々なことを学んできた留学生であり、私と出会ったのもそこでだ。

農場では、余所では食べられないような唯一無二、でかつ絶品の料理が何種も溢れかえっていて、ホットケーキもその一つだった。

むしろ聖者様が『簡単に作れる類のものだから』と言って比較的作ってくれる回数が多かった。

単純に甘いしフワフワしてるし絵面も映えるしで、女子たちには人気だった印象がある。

「農場卒業して以来食べてないから感動倍増だわ! はい、アナタもあーん」

あーん。

ってやめましょうよ大統領夫妻が公共の場で!

しかし、……ホットケーキ美味しいなあ。

もう何年も食べてないことを思うと益々美味しさに感動が加味される。

農場の料理は、いくつか一般社会にも膾炙していったものもあれば、そうならなかったものもある。

ホットケーキはもっぱら後者だ。

聖者様が『簡単に作れる』と言ってた割りには意外にそれほど広まらなかった。

……いや待て。

そんなホットケーキが、この大統領主催の人間国でのパーティに出てる?

おかしくないですか?

これ、おかしくないですか?

ついさっきホットケーキは農場外に出回っていないと確認したはずなのに。

では誰がホットケーキのレシピを知って、ここ王城で披露したんだ?

どこぞの才能豊かな料理人が独力でホットケーキを編み出したとか?

いや、そんな奇跡のような可能性を談じるよりももっとありうることがある。

「どぉりゃああああああああああああああッッ!!」

「あッ? どこに行くのアナタ!? もうすぐ国土交通大臣のかくし芸披露が……!」

大臣には悪いが後回しだぁあああああッッ!!

私の推測が正しければ、今一番の重要人物が、あそこに!

いたぁあああああああッッ!?

ジュニアくん! なんで厨房でお料理しているの!?

聖者親子はそんなにもお料理大好きなのか!?