作品タイトル不明
1298 ジュニアの冒険:顔パス不可
「ここがパーティ会場かー。相変わらず物々しい雰囲気なのだなー」
ヴィールと共にたどり着いたのは人間国の王城。
今は共和制に移行している人間国は、かつて王政であり血統による絶対者の支配が敷かれていた。
それが色々歴史の転換期を迎えて王政崩壊。
この国を支配していた様々なものが過去の遺物となって消え去ったわけだが、ここ王城は今もその巨大な威容をそのままに聳え立っていた。
王政から共和制へと移行した現在でも、政庁として王城が使われている理由は一つ。
いちいち取り壊して新しい政庁を建て替えるだけの予算がなかったから。
新体制となって様々な方面を立て直していかなければならない新人間国。
余分なところに割くお金はなかったとのこと。
と言うことで『既にあるならそっち使えばいいやん!』と王城を引き続き政治の中枢気候として使い続けているとのこと。
すでに共和制発足から十年以上が経ち、様々な方面が安定してきて着て政庁建て替えの余裕も出てきたものの、
『あえてすることもないだろう』との意見から今なお王政時代の遺物が成長として活躍している……。
……と歴史の授業で習った。
それらのことすべて、僕が生まれるか物心つくより前の話だ。
「ここまでくると歴史的な遺構としても価値があるから、そう簡単に取り壊しもできねえだろうなー。ニンゲンどもの世の中は面倒なことなのだ」
とヴィールにしては含蓄のあることを言う。
とはいえ彼女も父さんの下で人間というものを大いに学んできたのである意味、世界で一番人間に理解のあるドラゴンと言っても過言ではない。
「そして! この古いだけが取り柄の建物にまた新たな歴史が刻まれる! ジュニアの社交デビューという歴史的事実がな! 異世界の歴史がまた一ページなのだー!」
テンション上がってるなあ。
これでもヴィールはドラゴンだからハメを外せば一国ぐらい簡単に滅びちゃうんだが。
それを止めるには僕一人じゃ不安だ。
まだまだ父さんほど上手くヴィールを止められる自信はない。
何事もなく終わってくれることを祈るしかない。
「さて、何にしろさっさとパーティを終わらせないとな。そのためにもまずは入城しなければ」
会場に入場しなければ話にならない。
「しかしジュニアよ、どうやって城に入るつもりなのだ?」
「え? それは……?」
ヴィールからのあまりに率直な質問に、僕戸惑う。
「ごめんくださいー、入りますー、どうぞー、みたいな?」
「いやそれあまりに不用心すぎるだろ。仮にもここは人間国の中枢だぞ。誰でも簡単に出入りできるようじゃテロし放題なのだ」
テロ!?
いきなり物騒な話が出てきたが、たしかに言われる通り。そこまで警戒しての国防なんだよな。
農場国では割と誰でも出入りできるので……。
「農場国の庁舎でも、人の悪意を自動的に検知する魔法センサーが働いているのだ。よからぬことを腹に一物隠し持ってるヤツは即座に緊急ブザーでお知らせされると共に強制転移魔法で監獄ボッシュートだ」
意外に最先端の警備システムが導入されていた。
そういうところがいかにもウチっぽい。
「この城も、ウチほど最新式ではねーだろうが警備は厳重だろう。ましてパーティ当日ともなれば人の出入りは激しくなるし、その分さらに警備は厳重だろう。得体の知れないヤツが万が一にも通れる可能性はないのだ」
ヴィ、ヴィールが正鵠を射たことを……!?
「で、でも僕パーティの主賓で……! 招待されてるんで……!」
「それをどうやって証明するのだ?」
……。
そういえば、どうやって証明するんだろうか?
かッ、顔パス?
「ジュニアは世界一いい顔ではあるが、それで何でも解決できるほど世の中甘くないのだ。ジュニアが農場国の王子様だってことはあんまり知られていないし顔だって売れてない。そんな状態で顔パスは期待が過ぎるのだ」
たしかに……!
むしろそれを逆手にとって人間国では無名の冒険者の立場を享受していたわけだし!
「こういう場合は招待状がチケット代わりになるものだが、貰ってないのか? 招待状?」
招、
待、
状!?
いやいやいやいや!? そんなの貰った覚えないよ!?『手ぶらでお越しください』とでも言わんばかりだったよ!?
「はぁーん、じゃあ向こうの落ち度か? ウチのジュニアを招いておきながら段取りもしっかりできないとは舐められたもんなのだ!」
待ってヴィール! その怒りを抑えて!
ヴィールに本気で怒られたら歴史ある王城が灰燼に帰す!
しかし考えてもみよう! 人間国大頭領として三期も務め上げようとしているリテセウスお兄ちゃんだぞ!
国賓の歓待だって数えきれないぐらいしていることだろうし、今更段取りをしくじるものだろうか!?
きっと何か齟齬があるに違いないと僕は愚考する。
思い出せ! 何か重大な事実があるはずだ思い出せ!
「……あ」
「どうしたジュニア?」
思い……出した!
別れ際にリテセウスお兄ちゃんから言われていた!
――『迎えを寄こすから、それまでゆっくりしていてくれ』
とッッ!!
「あー、それは迎えの使者と同伴なら普通に入場できたってパターンだな。それなのになんでこっちから来訪してるんだ?」
言われていたのをすっかり忘れていたから!!
そして訪問するならこちらから出向かなければいけないと頑なに信じていたから!!
どうしよう! 僕の行動がことごとくリテセウスお兄ちゃんの予定を粉砕している!?
「ジュニアも人付き合いについてはまだまだ未熟なのだなー。まあそれがわかっただけでも旅に出た甲斐があるのだ」
そんなこと言われても!
緊急的にどうにかしなきゃなのはそんな遠い未来のことよりも目先のことだ。
ここで僕が入場できないとなったらせっかくパーティに招いてくれたリテセウスお兄ちゃんの面目を潰してしまう!
どうする!?
これから急いで冒険者ギルドに戻って出迎えの人を待ち受けるか!?
でもこのタイミングだとすれ違いになる可能性もあるし……!
「仕方ねえ、こうなったらこのグリンツェルドラゴンのヴィール様が直接リテセウスの野郎に渡りをつけてやるのだ」
ヴィール!
そんなことができるのか! さすが最強万能ドラゴン!
「それくらい、おれにかかれば容易いことだ。まずドラゴンの姿に戻るだろう。そうすればハデに存在をアピールできるからリテセウスのヤツも出てくるはずなのだ。そこで用件を切り出したらええ」
待ってぇえええええええええええッッ!
たかが情報の行き違いを是正するためにあまりにも大事にしすぎる!!
王城にいきなりドラゴンが現れたら、さすがに明日の朝刊を飾るよ! ここ十年で大分身近になったとはいえ、ドラゴンはいまだに恐ろしい存在なのだから。
農場国の若君が些末な用事にドラゴンを持ち出したとか言われたら、父さんや農場国への評判にも傷をつけてしまう!
それだけは避けなくては!
「そこまで気を回せるとは! 成長したなジュニアぁああああああッ!!」
脈絡もなく感涙するヴィール。
この唐突な感情の乱高下はやめてほしい。
しかし根本的に今の状況を改善できる糸口もなく、八方塞がりな僕ら。
どうしたものかと頭を悩ませていると……。
「ああッ、いたいた!」
と、どこからか聞き覚えのまったくない声。
反応して振り向くと小柄な若い女の人がこちらへ歩み寄ってきた。
「困るわよ! ちゃんと依頼したんだから時間通りに来てくれないと予定が狂っちゃうわ!」
「はいぃ?」
「ウチの料理長待たされるのが嫌いなのよ! ともかくこっちに来て! 詳しい説明は移動しながらね!」
と僕の手を握ってぐいぐい引っ張っていく。
ちょっとちょっと、おっとっと!?
どこかへ連れていく所存のようだ。
もちろん引っ張り返してその場にとどまることもできるが、こんな華奢なお嬢さんを怪我させてしまったら大変だし、ひとまずは引っ張られるままにした。
すると城門をくぐって、見事お城の中に入ることに成功。
やったぞ! ミッションコンプリートだ!
「しかし今くぐったのは、裏門ってところじゃねえのか? とても正式な招待で使われるもんじゃねえのだ」
後ろからひそかについてくるヴィールの指摘通り。
この女の人も身なりからしてどこぞのお嬢様とか、さらにはメイドという雰囲気でもない。
もっと砕けた感じの使用人という雰囲気だ。
トラブル続きの歓迎パーティ、今度は一体どんな事態が引き起こされるのか?