軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1287 ジュニアの冒険:体験潜入学

「それでギルドマスター、今回連中が押しかけてきた用件は何だったんだ?」

「ん? ああ……」

ギルドマスターさんは、現場のやり取りを思い出したのかげんなりとする。

「やはりジュニアくんのことだ。かれが農場の超絶技で、地顕獣を吹き飛ばした情報を早くもキャッチしたらしい。詳細を問い合わせにきた」

問い合わせというにはアレなほど様子が穏やかじゃありませんでしたが。

さらに先方が主張するには……、と現場での出来事を語る。

――『あれほど凄まじい奇跡は魔法を使ったものに違いない!』

――『この優れた才能を冒険者ギルドに埋まらせておくのは間違いだ! 今すぐ魔法学院に入学させるべき』

「……なんだとさ」

ギルドマスターさんがオオカミ顔ながらチベットスナギツネのような瞳をしていた。

「いいものは全部自分のものってか? 愉快な思考回路してやがるぜ」

「目を見張ることはすべて魔法によるものだと思っている点もな。自分たちの知っていることだけが世界のすべてという、思い上がった人間独特の思考だ」

ギルドマスターの言う通り。

その主張だけで、魔法学院というものがちょっと仲良くできそうにない組織だということがわかる。

「アイツらの魂胆は見え見えだ。利権を握って私腹を肥やし、ゆくゆくは人間国全体を裏から操る黒幕にでも成り上りたいのだろう。かつて王政だった人間国における教会のような立ち位置につきたいに違いない」

教会という組織が、昔の人間国でどんなに自分勝手にしてきたかは僕も聞き及んでいる。

その教会がせっかく解体されたのに、またすぐ似たような存在が新たに現れるっていうのか。

それだけ権力の蜜が甘いってことなのかな?

「どうするんですかギルドマスター? 魔法学院のことだから、これからもジュニアくんを寄こせって迫ってくるんでしょう?」

「そのたび突っぱねるさ。どれだけヤツらが騒ごうとも正当性のない要求だ。こちらに従う義務はない」

ギルドマスターは毅然としていた。

彼の対応はまったく適切で、向こうに決め手がない以上下手に誘いに乗らずピシャッと閉め出すのは有効な手段なのだろう。

しかしここで僕は『それだけでいいのだろうか』と思う。

相手の要求を突っぱねるだけでは、それはいわば守りの姿勢だ。

守るだけでは状況は解決しないし、何より後手に回ってしまう。

『後手に回るってのはそれだけで不利になるってことよ!』というのは母さんのセリフだ。

先手必勝。

それが母よりの教え。

相手に先手を打たれたからにはせめて、それを利用して逆撃を食らわせる“後の先”を取りにいかねば。

「待ってください」

話をまとめようとするギルドマスターさんに僕は割り込む。

X級冒険者となってからの初仕事が決まったようだ。

「僕に考えがあります」

魔法学院からの不当な介入を叩き潰すという仕事が。

* * *

数日後。

僕は魔法学院を訪ねた。

王都内のなかなかいい立地にある、なかなか豪勢な建物が校舎か。

何でも聞くところによると、かつて教会大聖堂が建てられていた跡地がここだという。

歴史は繰り返す。

そんな言葉が思い浮かんだ。

「……キミが将来有望な大魔術師か?」

門を叩くなり、不躾な視線を送ってくる人が出てきて、そう問われた。

「魔術師だという自覚はありませんね。僕はどこにでもいる、ごくごく平凡な冒険者です」

「フン、そんなヤツを入学させるなど、上層部は何を考えているのか……!」

と対応に出てきた中年教師は、神経質そうに眼鏡をクイと上げた。

痩せ気味で、頭頂の髪も薄い。

見た目からして楽しい毎日を送っていないんだろうな、というのが察せられた。

「現場を取り仕切る私から言わせてもらうが、この魔法学院に入学したから遊び気分ではいられないぞ。ここは選ばれた者のみが学ぶことを許された神聖なる場所。お前のような冒険者上りは数倍の努力なしではしがみ付くことすら難しいだろう」

「勘違いを訂正させていただきます」

冷静に言った。

「僕は入学したんじゃありません。体験入学です。そちらの偉い人から『どうしても』と乞われたので仕方なく条件付きで、数日間、こちらの授業を体験させていただくんです」

「ぐッ?」

「御心配なさらずとも数日もすれば僕は勝手にいなくなります。なのでその老婆心のアドバイスは役に立たないかと……」

そう、今日僕は“体験入学”という形で魔法学院を訪ねた。

ギルドマスターと相談済みのことだ。

どうせこちらがどれだけ突っぱねても、ゴネ得という言葉を知っている人間は、自分の意見が通るまで徹底してゴネてゴネてゴネまくることだろう。

そうなったら根競べだ。

こちら側の時間&精神の消耗もバカにならない。

そんなコスパの悪いことをするぐらいならば一旦相手の誘いの乗ることも吝かではない、といった感じだった。

もちろん、ただ誘いに乗るだけじゃない。

「これからの数日間で、アナタたちの言う魔法医学校の素晴らしさをこの身で体験していこうと思います。よろしくお願いしますね。僕がこの学校のことを『凄い!!』と思えるように……」

「ぐ、うぅ……?」

僕の微笑みの圧に、中年教師は気圧されたのか益々頭頂を薄くしたようだ。

「ま、まあいいだろう! どうせ数日のうちには……いや、今日のうちでも魔法学院の素晴らしさを骨身に感じて『本格的に入学させてください!』と泣いて頼むことになるんだろうからな!」

「そうなるといいですね」

僕は笑顔で答えた。

はてさて、この王都に建てられた魔法学院のお手並みはいかに。

「我ら魔法学院は、人族に魔法を広めることを目的として建てられた! いわば新たなる時代の先駆けだ! これまで魔法もなく暮らしてきた人族に、魔法を伝えること。それは闇の中を光で照らす行為に等しい!!」

はいはい。

「お前もすぐさま魔法の素晴らしさを実感することになるだろう! そうなってから望んでも遅いのだぞ。今のうちからせいぜい媚を売って、お情けで入学させてもらえる可能性を上げておくんだな!!」

はいはい。

そして魔法学院の敷地内に招かれる僕。

案内されて着いた先は、校庭と言うべき開けた屋外空間だった。

「ここでは魔法の実践訓練が行われている。見るがいい、今まさに在校生が、魔法の訓練を行っているところだ」

そう言って中年教師の促される先には、まさしく典型的な光景が広がっていた。

広い敷地に並べられた横一列の木の的。

それに向かって生徒と思しき若者たちが、思い思いに魔法を撃ち出している。

「フレイム!」

「フレイム!」

「フレイム!」

「フレイム!」

「コールド!」

「フレイム!」

「フレイム!」

「サンダー!」

「フレイム!」

射出された攻撃魔法は、キッチリ的に当たるものもあり、外すものもあり。

命中したとしても的は壊れず、厳然とその場に立ち続ける。

特別な魔法遮断措置でも施されているのか?

「くくく……圧倒されただろう? このように激しく魔法が飛び交う光景は世界広しと言えどもここぐらいだろうな」

僕をここまで連れてきた中年教師が勝ち誇ったように笑った。

いやまあ、農場に住む魔族のベレナさんなら一人で、アレの二十倍ぐらいの速度で連射し続けられますけど。

最近になってベレナさんは倒した魔神を自分の身体に封印して、その口を使って最大四つの同時高速詠唱ができるようになったし。

「ほら、特にあそこの生徒など凄かろう? 先ほどから魔法が百発百中だ」

と中年生徒が指し示す先。

たしかに、けっこうな連射速度でそのくせ一発もあやまたずに的に命中させている生徒が一人いた。

女生徒だった。

「彼女の名はリタニー。今学期で最大の注目株だ。数年後には大魔術師として彼女の名が轟きわたるだろう!」

「はあ……」

「どうだ、キミもやってみては? 上層部が認めるほどの手腕の持ち主なら、狙った的へ魔法を命中させるぐらい大したことではあるまい」

意地悪そうな笑顔を浮かべる中年教師。

これは……来たか? 学校特有新入生いびり。

「それとも、まだ魔法を習っていないからやりたくてもできないかな? まったく哀れだなぁ、折角評価されても才能だけでは何もできないのが世の中だ。正式な指導あってこそ才能は輝ける。何よりもそのことを学ばないとなあ」

これは……!?

このシチュエーションは!?

父さんから聞いたことがある。一般人のレベルで競い合っている中にチート級主人公が紛れ込んで、ごく普通に力を振るったつもりが常識を遥かに超える破壊力で、周囲の度肝を抜くヤツ!

そして最後にこう言うんだ。

『これが余のメロだ』と!!

まさかまっとうに生きてきてこんな機会に巡り合うとは!

こういう役どころが回ってきたからには、しっかりと務め上げなくては!

行くぞ、ごくごく自然な素振りで極大攻撃魔法!!