軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

127 世直しクマ

……アタシは、何処にでもいる普通の村娘。

だから名乗る必要もないだろう。

アタシが経験したことは大抵他の皆も経験していて、アタシの知っていることは誰もが知っている。

だから今、アタシが住んでいる土地で起きている大変なことも、アタシ一人にとって大変なことではなく、全員皆にとって大変な出来事なんだ。

アタシは人族で、住んでいるのは人間国。

正式には、その領土の端にある貧しい小村がアタシの全世界なんだけど……。

このたびアタシたちの住む人間国が魔族によって滅ぼされた。

それによって大変化が起こるだろうと、父ちゃんや村長たちが陰気に話し合っていた。

アタシたち人族は、魔族と長い長い戦争をしていたけれど、ついに負けてしまったらしい。

まあ当たり前かな? とアタシは思った。

だって王様はバカで、神官どもは業突く張りだもん。

父ちゃんも母ちゃんも皆そう言っている。

「上がバカだと何やっても捗らない」って。

だから人族が負けたのは当然としても、それでこれからどうなるんだろう?

魔族はとても狂暴で、人族の首を斬り取ってコレクションするのが大好きだと聞いたことがある。

そんな魔族に支配されてしまったら、アタシたちはどうなるんだろう?

皆殺しにされてしまうんだろうか?

せめてこんな辺鄙な田舎村の存在を魔族が気づきませんようにと天神ゼウス様に祈る毎日。

でも祈りなんて無駄だった。

魔族の使者、というヤツがやってきて『魔王様の施行する新法なので従うように』と言い残して去っていった。

そのシンポー? とやらが書かれた羊皮紙を残して。

アタシは字が読めないから、村長が朗読するのを黙って聞くしかなかった。

それによると……。

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・人間国の下、八公二民であった租税を四公六民に改める。

・各町村に警務官を置き、犯罪不正を取り締まる。

・学校を設立し、すべての民が読み書きできるようにする。

・病院を設立する。

・孤児院を設立する。

・国内の獣人、その他種族に対する社会的差別を撤廃する。

・他様々。

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という感じだった。

……アレ?

魔族に支配される世の中、人間国だった頃より数段よくない?

アタシがバカだから理解できないってだけかもしれないけれど、税金が安くなるというだけでもアタシたちは万々歳だ。

魔族万歳?

実際、魔族がアタシたちを支配するようになってから、アタシたちの生活は一変した。

いい意味で。

痩せ畑も急に肥え始めて、この分じゃ来年は大豊作だと皆言っている。

村長によると、今まで教団のヤツらが使っている魔法のせいで土地のマナが吸い上げられ、ずっと土地が枯れていたとか。

でも魔族によって教団が潰されたから、マナが浪費されることなく土地全体に行き渡るようになったんだって。

なんだ。

魔族が人間国を滅ぼしてくれていいこと尽くめじゃないか。

来年からは学校も本格的に始まって、アタシも読み書きを習いに行くことになっている。

字を書いたり読めるようになれば都会にも働き口が出来て、たくさんお金が稼げる。

本当に魔族が攻めてきてくれてよかった、と父ちゃんも母ちゃんも村長も皆行っている。

そんな中で起きた。

世の中は、まだまだ本当によくなっていないと実感させる出来事が起こった。

* * *

突然、村が襲われて占領された。

襲ってきたのは元教団の神官たちで、武器をもって五十人はいたから小さな田舎村なんて抵抗もできなかった。

「ワシはサギーシ司教! 諸君ら人族のために戦う正義の戦士だ!」

神官たちの中で一番老けたジジイが叫んだ。

仲間から「司教様」などと呼ばれていた。

「母体たる教団は崩壊してしまったが! 我々は正義の志を捨てず地下に潜り、反攻の機会を窺っている! 邪悪なる魔族は! 神聖なる我ら人族の土地を踏み荒らして奪った! しかし我らがいつの日か、邪悪を討ち破って諸君らのために自由と幸福を取り戻してやろう!!」

魔族の人たちが送ってくれるという警務官は、旧人間国の百数十ある街や村に配備中らしいけど、アタシたちの村にはまだ来ていなかった。

だからこそヤツらに狙われたんだろうけれど……。

「引いては、魔族との戦いのために装備を供出してほしい! 武器、食料、役立つものなら何でもいい! ある限り全部だ!!」

全部!?

バカ言うなよ! 食い物全部差し出したら、アタシたちは明日から何を食べていけばいいんだ!?

でも逆らえない。

逆らったら殺されるだけなので、皆悔しがりながらも蓄えてあった野菜や穀物を差し出した。

「サギーシ司教、これで全部のようです」

「少ないな。それになんだこのヨレヨレの野菜どもは? こんなものを食ったら腹を下してしまうではないか!」

そう言って司教ジジイは、集めた食糧を片っ端から踏み潰した。

鬱憤晴らしと言わんばかりに。

「食料がないなら女だ! 女でも抱かんとイラついてやってられるか! 若ければ何でもいいから女を全部集めてこい! お前たちも好きにしていいぞ!!」

司教ジジイがそういうと、他の神官どもも嬉しそうに声を上げてアタシたちに寄ってきた。

さすがに父ちゃんたちが止めようとしたけれど、剣で斬られたり殴られたり、どうしようもない。

歳の若い女は全部引っ張られて、アタシもその中に入っていた。

どうしようもなかった。

「女すらこんな三級品しかないのか? まあ我慢するか。これも天神ゼウス様が、気高い我々に与えたもうた供物だ。感謝して授かろうではないか」

うるせえクソジジイ!

自分勝手なこと言いやがって! お前らなんか魔族よりよっぽど悪党じゃないか!

お前ら教団なんてクソだ!

お前らこそ魔族に滅ぼされちまえ! アタシたちの前からいなくなれ!

……そう思っても、アタシのようなただの村娘じゃ何もできない。

コイツらを追い返せる力があれば……。

そこに……。

「モンスターだッ!」

神官どもの叫び声が上がった。

「モンスターが出たぞ! しかも大型だ!」

気づけばビックリするほどの近くに、巨大な毛むくじゃらが立っていた。

クマ……、ってヤツ?

大きくて毛むくじゃらで鋭い爪がある。

見るからに強そうで神官どもが束になっても敵わなそうだ。

「逃げろ! ひけッ!!」

司教ジジイが即座に叫んだ。

「我らは来るべき反攻戦のため、こんなところで一兵も損なってはいかん! 村人どもを盾にしろ! あのモンスターが村人どもを襲っている隙に、我らは遠くまで逃げ去るのだ!!」

それに呼応するように神官たちは父ちゃんや村の皆を蹴り出し、クマの前に放り出した。

「今がチャンスだ! 逃げろ!」

そして神官たちは逆方向へ全力疾走。

いけない! 父ちゃんたちがクマに食われる!

と思ったけれど、結果は予想だにしないものだった。

クマは、押し出された父ちゃんたちを優しく受け止め、倒れている者は踏まないよう跨いで、その先にいる神官どもだけを追いかけ始めた。

「うへええええええッ!?」

「なんでえええええええええッッ!?」

囮には目もくれない大クマに、神官たちは大慌て。

巨体とは思えないスピードで爆走するクマはすぐさま神官どもに追いついて、追いついた順にその大腕で殴り飛ばした。

「うぎゃばッ!?」

「ぐげえッ!?」

「許して……、許して……! おぼッ!?」

五十人近くいた神官どもが全滅するのにさほど時間はかからなかった。

残ったのは一人。

頭目の司教ジジイだ。

ジジイは、たまたま捕まえていたアタシも一緒に連れて行こうとして集団から遅れた。

それで却って攻撃範囲に入らなかった。

スケベで命拾いするなんてとんでもない聖職者だと思ったが、世の中そう甘くない。

ザコどもを蹴散らし終わったクマの視線が、逃がさんとばかりにジジイに向けられた。

「動くな!!」

その時。

たまたま掴まっていたアタシの首筋に、短剣が突きつけられた。

「どういうことか知らんが! あの邪悪なモンスターは村人どもを守ろうとしておる! ワシの慧眼からは逃れられんぞ! ……さあ、お前が少しでも動けば、娘の体に聖なる短剣が深く突き刺さることになるぞ!!」

今にもジジイに飛びかかろうとしたクマが、ピタリと動きを止めた。

振り上げた大腕が、振り上げられたまま静止する。

「ゲヒャヒャヒャヒャヒャヒャ! このサギーシ司教の思った通りだ! よし、そのまま動くなよ! ワシは天神ゼウス様より賜った聖なる使命のために、まだまだ生き延びねばならんのだ!」

アタシを捕えたまま、ジリジリ後ずさる司教ジジイ。

村の仲間たちも、アタシが人質になっていて迂闊に手を出せない。

クソッ。

このままコイツの好きになってたまるか。

魔族の人たちも言ってたじゃないか。これからはアタシたち自身で幸せを掴む時代だって。

こんなクソジジイの……。

好きになってたまるか!!

「あいだァァーーーーーーー!?」

司教ジジイの、アタシを捕まえている方の手を思い切り噛んでやった。

痛みに悶える悲鳴が心地いい。

「この罰当たり娘が! 聖職者たるワシになんて無礼を!? ……あっ、逃げるな!?」

もう遅い。

隙を突いて逃げてやる。

アタシさえ離れれば、あとはあのクマが……。

「うぎゃああああああ~~~~ッッ!?」

ジジイの汚い悲鳴が宙を舞った。

* * *

数日後。

報せを受けてやって来た魔族の兵隊さんたちが、拘束された神官どもを捕えて連れて行ってくれた。

「肝心な時に助けてやれずにすまない」って謝られてしまった。

あのモンスタークマに蹴散らされた神官どもは意外にも全員生きていて。

気絶している間に縄で縛って、魔族さんたちが来るまで放置してやった。

数日水しかやらなかったけど、こっちだってまだまだ食糧事情がカツカツなんだからいいよね。

モンスタークマは、気づいたらいなくなっていた。

状況的にあのクマさんがいなかったら、アタシたちの村は間違いなく神官どもに潰されていた。

モンスターは人を襲うものなのに、何故?

「あのクマが、ここにも現われたか……!」

事情聴取の時、魔族の兵士さんが何か知っているようなことを呟く。

「噂になっているんだよ。今回のキミたちの村のように、人間国の残党に襲われる僻村を、クマ型のモンスターが助けていると」

モンスターって、魔族の仲間じゃないの?

だからアタシたちを助けてくれたんじゃ?

「そう単純な話でもないんだよ。ただ、嘘か真か魔王様が仰るには、あのクマは聖者様の下で生まれた特別なモンスターだという」

聖者様?

「クマは聖者様に挑戦して敗れたが、慈悲によって命を救われたそうだ。そこであのクマは聖者様に認めてもらうほど強くなろうと、修行の旅をしているんだそうだ」

その途中、アタシたちの村に通りかかったってこと?

「あくまで噂だよ。鵜呑みにしないように」

魔族の兵士さんは苦笑していたが、アタシはそれが真実なんだと思う。

魔族たちに聖者様。

人間国は、本当にいい方向に変わり始めているんだね。

そして直接アタシたちを助けてくれた、あのモンスターも。

ありがとう、クマのモンスター。

略して。

クマモン。