軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1256 ご都合主義を司る神

ゼウスの阿呆は失敗したか……。

使えない愚図め、折角このワタシが手助けしてやったものを。

多少の混沌ももたらすことなく貸渡してやったクトゥルフに取り込まれ、ヤツと共に深淵に消えていくとはな……。

うん? 何故ワタシがゼウスの手助けをしたか、だと?

ハハッ、愚かな、そんな質問に何の意味がある?

何故?

どうして?

下等なモノどもは何かにつけて理由をつけたがるもの。

すべての行動現象にあるべき真っ当な理由があるものと思っているのは本当に馬鹿々々しい。

強いて言うならば……このワタシはそうしたくだらない考えを打破するために動いている。

理由? 原理? 真理?

そんなものに何の価値がある?

この世界はあまねくすべて、理由なき混沌によって回っている。

ワタシこそがその象徴、混沌の具現化、真理などないということこそが唯一絶対の真理。

今回ゼウスをけしかけたこととて、その一端の発露に過ぎない。

ヤツの道義なき怒り、逆恨みの極致ともいうべき憎悪は、この混沌の神を面白がらせるには充分であった。

もちろん気まぐれよ。

アイツに、クトゥルフを与え融合を促したのも『そうなったら面白いかな?』程度の考えでしかない。

与えられた力で再び世界の頂点に立つもよし、あるいは自分の治めるはずだった世界を崩壊に追い込むもよし。

どっちでもよかったのよ。

結果など、混沌そのものであるワタシにとってもっともどうでもいいもの。

今が混乱し、どこへ向かうかわからない、その状況がスリリングで面白いだけさ!

……あん? そんなワタシは誰かって?

最初に自分が誰か名乗っておかなきゃ混乱するだろう?

フハハハハハハハハハ、愚か、愚か!

混乱大いに結構ではないか、ワタシは混乱をもっとも好む混沌の神。

ワタシは様々な名前で呼ばれる。

『這い寄る混沌』『無貌の神』『暗黒の男』『太陽曰く燃えよCHAOS』。

しかして、その正体は……。

もっとも邪悪にて、もっとも醜悪なる混沌の化身。

旧支配者が一柱ニャルラー……!!

『三倍偉大なるヘルメスキック!!』

ぐぼどばげらぁあああああああああああああッッ!?

痛い!? 蹴られた!?

物凄い流星のような勢いのドロップキックでこの無貌の神ニャルラトホテプを蹴り飛ばしたのは誰だ!?

『……ちっ、まだ全然元気だな、だったら今度は九倍偉大なるヘルメスパンチで顔面めり込ませてやろうか!?』

なにッ、貴様は!?

『御紹介にあずかりましたオリュンポス神族の頭脳、知恵の神ヘルメスだ』

オリュンポス神族ッ!?

今回の事件の当事者が、この這い寄る混沌の存在を感知したのか!?

『あまり図に乗るなよ妄想神話から飛び出してきたトンデモ神性が。この神々の伝令役にして諜報員でもあるヘルメス。防諜だって得意分野よ!!』

それでこのニャルラトホテプの動きを察知したというわけか!?

しかも居場所まで突き止めて、こうして襲撃してくるとは……!?

『混沌の神ニャルラトホテプ。特定の本拠を持たずに活動する流氓の神。時折どこかの世界へ何の前触れもなく現れては、その在り方に見合わぬ神性でもって大げさな奇跡を起こし、世界に混乱をもたらすという。しかも無意味な混乱を……』

フン、混乱に意味などある方がおかしいのだ!

オリュンポス神族のヘルメスよ、そういえばあのゼウスを袋叩きにする集団の中にお前の姿はなかったな。

まさかワタシを追いつめるために別行動だったとは……。

さすが神界におけるトリックスターの一人に挙げられるだけはある。

『いーや私としてはちょっと欲望の発露があったくらいで、お前やロキと一緒にされるのは心外極まりない。私なんてゼウス父上やヘラ様の尻拭いで活躍するエピソードがほとんどだろうが、なあ!!』

そんなに凄まれても知らんがな。

『ニャルニャラホタテ』

ニャルラトホテプです。

『今回のゼウス父上脱走騒動……裏で糸を引いていたのはお前だと調べはついている。その神性でもってヘパイストス兄さんの封印を見事に突破! 潜り込んでゼウス父上と接触し、混沌の奥底に眠る邪神を提供したのもお前の仕業だろう?』

知恵の神だけあってすべてお見通しとはな。

……その通り!

混乱混沌……この世すべての秩序を乱す行為は、この無貌の神ニャルラトホテプの仕業よ!

あのゼウス神は怒り猛っていた!

すべての権限をはく奪され、自由を制限され、地に堕とされたことに!

すべては自分の身勝手さが招いた窮地であるのに、それを理不尽と嘆くなど傲慢さの極みよ!

しかし、そんな愚か者だからこそ無貌の神が手助けしてやる謂れがある。

不条理こそが我が本領!

あの分際を弁えない主神は、我が楽しみのために滑稽に踊ってくれた!

まさに手助けしてやった甲斐があったというもの!

『一体何のためにそんなことをした? ゼウス父上を取り込んだ深淵邪神の恐ろしさは、同系統の神であるお前の方がわかっているだろう? 下手をしたらこの世界すべてが飲み込まれかねないほどだったんだぞ! ヤツが顕現したところに運よく聖者くんがいてくれたからよかったが……』

ヘルメス神、眉間にしわを寄せて……。

『そうでなかったらと思うだけで背筋がゾッとする』

フン、別にそれであの世界が崩壊したとしてもどうでもいいことだ。

ワタシの目的? 愚かなことを聞く。

わかっているだろう、ワタシに目的などない!

ワタシの在り様は混沌! すべてが濁り乱れ、何一つして定まることのない、それがワタシにとってのあるべき世界!

すべてが気まぐれよ、そう、気まぐれこそが真理!

何をするにも気まぐれ、理由は気まぐれ、動機は気まぐれ!

気まぐれで動くことこそ混沌神たるニャルラトホテプの正しい姿よ!

原理摂理に縛られて動くお前たちには未来永劫、理解できまい!

“気まぐれ”こそが世界のもっとも崇高な法則という逆説的な……!

『二十七倍偉大なるヘルメスラリアット!!』

がっべぇええええええええええええええええええッッ!?

首に物凄い衝撃来たッ!? 首が引きちぎれるかと思った!?

『そうやって気まぐれ気まぐれ言いやがって……、その“気まぐれ”とやらでなあ、自分がどれだけ都合のいいキャラに仕上がってるのかわからないのかッ!?』

ごぼごぼごぼごぼ……!?

なんだと? このワタシが都合のいいなどと……!?

『それ以外の何があるって言うんだよ!? お前みたいに全知全能の力を持ちながら、動機が気まぐれしかないヤツなんて、扱いやすいことこの上ないでしょう!』

扱いやすい!?

このワタシが!?

『何をやるにしても“気まぐれ”! 何をさせようとしても“気まぐれ”で片づけられるんだからいちいち理由なんか考えなくてもいい! それで旧支配者の強大な能力を行使できるんだから、ここまで便利なストーリー組み立てツールはないだろ!』

ええッ? いや、そんなことは……!?

『どんな無茶ぶりでもトンデモ展開でも、お前さえ出しとけば何とでもなるんだぞ!!』

そんなことはない!

ワタシが気まぐれで動くからこそ、誰もワタシを制御することができず、誰もワタシを追いきれない!

ワタシは全世界全次元において誰よりも自由な神なのだ!!

『そう思っているのはお前自身というオチでね。そう何物にも縛られない自由な神だからこそ、誰からでも自由に動かせる。そして全知全能の力を持っているから何でもさせられる。そんなの便利に決まっているじゃないか、展開に困ったら「じゃあニャルラトホテプ出しとけ」で解決するんだから』

そんなッ、ではワタシは……!?

『すべての創作家にとって優しい、ご都合主義を司る神ってことだ!! 実際この唐突なゼウス騒動も、お前が黒幕にいたらスンナリ受け入れられただろう!』

『ほな、そうか』って。

『大体、ゼウス父上とクトゥルフが融合しましたなんていきなり言われてもついていけんだろ。「唐突すぎる」「伏線入れろ」「世界観守れ」って言われるのがオチだ! しかしお前が絡むとアラ不思議! なんでもアリになってしまう!』

それがご都合主義の神ニャルラトホテプ!?

『しかしこのヘルメスは違うぞ! 何かとロキ辺りと同類扱いされてトリックスター枠に嵌められがちではあるが、私はちゃんと神としての役割として英雄の手助けとかしてんの! トラブルメーカーに命懸けてるのって本当にロキぐらいのものだろ! それでトリックスターなんて類型作ったせいで私が無理やり枠に入れられる迷惑を考えろぉーーッッ!!』

ヘルメス神から放たれる猛烈な神気!?

個人的な鬱憤も合わさってないか!?

『私はちゃんと使命と役割に縛られた神! それを証明するために今、お前をぶっ飛ばす! この世界のため神の務めとして!! くらえ! 五九〇四九倍偉大なるヘルメスブラスタぁーーーーッッ!!』

ぎゃぁあああああああああああッッ!

光に飲み込まれ、吹っ飛ばされていくワタシ!!

『……まあ、お前も充分“気まぐれ”という概念に縛られた神ではあったな。今度の気まぐれは、余所でやってくれ何卒』

そんなの知らん!

ワタシはいつだって私の自由意思で気まぐれする!

なぜならワタシは“気まぐれ”だからだぁあああああああッッ!!