作品タイトル不明
1252 深淵からの駄神の声
聖剣から放たれる閃光が、空を断つ。
「おお、聖者様の閃光が……!?」
「天を裂いた!?」
聖剣の光によって、人々に満たされていたギスギスの心が吹き飛ばされていく。
「何でオレは、今までイライラと……!?」
「見ろ! 聖者様が引き裂いた空の向こうに……!」
何かがある。
それは空間の断層のように、割れた空の向こう側にまったく別の空間があった。
空間ごと切り裂いたっていうのか?
聖剣にそんな機能あった?
いや、どうせ『至高の担い手』が何か都合よく働いたんだろう。
それよりも、あの空間の裂け目の向こう側から覗く巨大でおぞましい、名状しがたい何か。
空間の裂け目はそれこそ、北から南にかけて天空を両断するほど大きいというのに、その隙間一杯に満たされてはみ出さんばかりに、その向こうにあるものは大きい。
そしてなんだ?
まるでタコの足のようにウネウネと、しかもそれが無数に垂れ伸び、蠢いている。
しかもそのうちの何本かの触手が断層からはみ出て、こちらの空に侵入してくる。
あたかも断層を押し広げようとするかのように。
「なんだアレは……!?」
「恐ろしい! 見ているだけでおかしくなりそうだ!!」
たしかに、あの光景は見ているだけで人の正気を奪い去る何かを秘めている。
SAN値が減る、というか……。
俺も見ているだけであのおぞましき光景に意識を吸い込まれそうになったが、突如つんざく下品な笑い声に引き戻される。
『イーアイアイア! イアイアイアイアイアイアイアイアイアッ!』
何あれ、笑い声?
漫画みたいな特徴的な笑い声であるが、その笑い声の主も天空の、あの裂け目の向こうにいることがわかった。
『イアイアイア! 次元の深遠に潜む余を引きずり出すとは! 人間風情の割にやりおるわ! 女であれば愛でてやってもよかったがやれやれ、男では何の価値もないな!!』
この声も口調も不快そのものなヤツは?
『イアイアイアイアイアイア! ヒトどもよ恐れおののきひれ伏すがよい! 余こそ神の王にして万物の支配者! すべての英雄の父にして、すべての女(美人に限る)の恋人! 全知全能なる天空神ゼウスなるぞ! イアイアイアイアイアッ!!』
なにぃアイツが!?
噂には散々聞いていたが、結局一度も会うこともなく今日まで来た!
ハデス神やポセイドス神からどうしようもないクズ神と伝え聞いていたが、あんなにタコ足をやたらはみ出す怪物だったの!?
とりあえず閃光当てとけ! えいッ!
『ぐおほぉおおおおおおッ!? 痛い痛い痛い! 熱い熱い熱いッ!? でも効かないよーだ、ちょっとしか! イーアイアイアイアイアッ!』
一体何なんだ、あのバケモノは!?
そして笑い声がウザい! そんな特殊な笑い声を発するキャラだったのか!? さすればハデス神辺りがその辺り揶揄って滅茶苦茶バカにしてきそうなのにな。
『イアイアイアイア人間ども、偉大なる神を目の前にして感動で打ち震えることであろう。我こそゼウス、趣味は人妻を孕ませること』
放て閃光ドライシュバルツ。
『あぎゃああああああああッッ!? 痛い痛い痛いッ! でも平気! 大神だから大丈夫! 聞くがいい人間ども! この世界の正当なる支配者である余が、いかに理不尽な目に遭って、今日まで封じられてきたか!』
何語りだしてるんだ?
お前が封印されたことは正常な判断以外の何者でもないと、瞬時に確信できるが?
そもそも封印されているのに何で這い出してきている?
これこそ一番おかしいことだろう?
『高貴なる神の王を襲う、何たる不条理であろうか。我が子の中でもっとも不出来でもっとも醜悪でもっとも親不孝な造形神ヘパイストスは、世を封印するために次元歪曲の神殿を作り上げ、なおかつ封印してからも増築を繰り返すという意地悪ぶり。余に何の恨みがあるのか? 余の息子なれば何の理由もなくともハデスにもポセイドスにも逆らって余を守るべきであろうに!』
ヘパイストス神がお前を封じる正当性は説明するまでもないと感じるが?
それに俺にとっては大恩あるヘパイストス神を俺の前で貶しやがって。それも何重も。
『しかし余は神の王! 何があろうと決して挫けることはない! 余は、次元の底に封印されたことで出会うことができたのだ! こことは別の世界、深淵の底の底に眠る異形の神! 余は、その神とすることにより新たなる力を得たのだ!』
その結果が、そのおぞましい姿だと?
神々しさなど欠片もないと思ったが、堕ちるところまで堕ちた結果だってことか?
『融合した邪神の力でもって、余はこの世界に復讐する! 余の支配を拒む世界など、存在する価値はない! 塵も残さず粉々にしたあと新たに、このゼウスのみを唯一神として崇める世界を創り出そう! 十六歳~二十二歳までの美しい女だけが住まう世界を! 二十三歳以上の女など皆ババアよ! イアイアイアイアイアイアイアイアイアイア!!』
差しさわりのあることしか言わねえ、あの邪神め。
ここにいる人々をさりげなく惑わせていたのもお前だな!?
あのサブリミナルみたいな音声で少しずつ狂わせて、皆を憎み合い争わせようと!?
せっかく平和になった世界に争いをもたらそうなんてそれが神のすることか!
『これも融合した邪神の力よ! 深淵の底から響く声に、鼓膜が震えた人間はすべてSAN値を奪われ正気を失うのだ! もっとも余への信仰がない時点で人間は皆狂っているようなものだがな! イアイアイアイアイアイア!』
もしや無詠唱魔法の騒動もアイツの仕業?
アレに関わった人々は少なからず言動がおかしかったからな。
深淵から秘かに世界を歪ませる邪悪の化身。
人や神のあずかり知らぬところでこんなヤツが蠢動していたとは。
そしてこの邪神の暗躍によって今、人々が平和を捨てて争おうとしていたなんて信じがたい。
こんなヤツに平和を壊されてなるものか!
『本当は表に出てくることなく、深淵からの呼び声でヒトどもを惑わせ殺し合わせるつもりだったのだがな。まさか次元膜を引きはがして余を引きずり出す人間がいるとは、どうしても余の手にかかって死にたいというなら仕方ない、SAN値マイナスを突破するほどの残虐な死をうるわじゃぱぁあああああッッ!?』
聖剣閃光、乱れ撃ち!
邪聖剣ドライシュバルツよ、今こそお前の生みだされた意義を満たせ!
あえて言おう、世界に仇なす邪神に正義の鉄槌を!!
『いだだだだだだだッ! バカめ、ハデスごときが生み出した聖剣がどれだけ吠えようと、深淵の邪神と融合した余をかすり傷ほども……! ごべえッ!? おべばぁッ!?』
余裕ぶっていた余が、すぐにその余裕を崩していくよ。
『なんだとうッ!? 体が動かぬッ!? 軋むッ!? 内側から崩れていく!? まさか、効かぬと思っていた閃光が実は内からジワジワ効いていたのかッ!? いかん、これ以上食らうわけには……!?』
聖剣ストラッシュ!
『ぎゃばおえあぁああああああああッッ!!』
ヒトの迷惑も考えずに勝手なことばかりする神には天罰が必要だ。
悔いることができないならせめて苦しめ。
『あんぎゃああああああああッ! おげぇえええええええッッ! しゃぶらにぐどぅふぶ……!?』
本来なら、聖剣の閃光で最高位の神を倒すことはできないだろう。
しかし俺はヘパイストス神からのギフト『至高の担い手』で聖剣の力を限界以上まで引き出している。
聖剣の創造主である冥神ハデスが目指した真聖剣クラスの威力はあるだろう。
さらに今ゼウスはまったく別次元の邪神と融合しているということで、邪属性に特攻を持った閃光を出せるように調整もしてある。
どうだゼウス、これがお前のバカにしたヘパイストス神の力だ。
自分の発言を後悔しながら光に散れ。
『くとぉぐあすぅううううううううううッッ!? るるぃえええええええええええええええええッッ!!』
とはいえ、さすがこの世界の最高位の神。
けっこうな数の閃光を叩き込んだつもりだけど、それでもまだ完全崩壊とはいかない。
けっこうくたびれるな……。
しかしこのまま押し切れる手応えもあるので、ここはしっかりと踏ん張って最後の一押しを……。
『ちょっと待て!』
待たない、しゅびーむ!
『あぎゃあああああああああああッッ! 待てと言ったら待つものだろうが野蛮な人間め! 余にもう敵意はない! これで手打ち、仲直りといこうではないかぎゃあああああああッ!』
お前が消滅するまで閃光するのをやめない。
『なんて悪辣な人間だ!? 神を殺すのに迷いはないのか!? 今お前がやろうとしていることはもっとも罪深い……!』
『いいや、まったく逆だ。罪深いのではなく、徳高い行為だ』
おおッ?
その声は……!?
ハデス神!
その隣にはポセイドス神もいる!
この世界の本当の主神が揃い踏みだ!
『堕ちた兄弟よ……よくもまあそこまで醜い姿になれたものだ。一応、天空を駆ける稲妻の神として讃えられた頃もあったというのに、その面影もないな』
『異次元の邪神と合わさることでヘパイストスの縛鎖から滑り出るとは、悪知恵を働かせたものだ。代償は大きかったようだがな』
現世に現れた二大主神は、タコ足にまみれた邪神ゼウスと比べてあからさまに神々しい。
聖と邪、貴と賤、対立する二つの属性が睨み合っている構図。
『おのれッ……余に及ばぬ下位神の分際で……!』
『今のお前は下位神にも当たらぬ悪神であろう。その悪神が地上を侵す時、我が子たる人類を守らんがために神は降臨す』
ハデス神とポセイドス神。
もはや敵を見定める眼光の鋭さで……。
『九分九厘、聖者が仕遂げてくれているが、神が何も働かぬでは面目が立たぬ。聖者には申し訳ないが一番おいしいところをいただくぞ』
『然り、そのために皆も集まっているからな』
えッ?
そして天から降り注ぐ、優しい光……!?