作品タイトル不明
1245 S級冒険者モモコ最終章
そんなこんなでモモコさんはS級冒険者としての完成に至った。
あらゆる気配を察するのと同じように、あらゆる気配を断つ能力は、冒険者として得難い才能である。
冒険者の才能というより暗殺者の才能と言えそうっぽいけれど。
『あながち間違いでもあるまい』
森さんが言う。
『ただ「殺す」という概念を拡大化させたのではなく、この効果にはスキルの由来となった逸話も加味されているようだな』
というと?
『スキルの名「女神の大鎌」は、堕ちた大地母神を弑殺した逸話を元としている。見たものすべてを石に変える怪物を、英雄が殺した際、大鎌を用いて首を刈ったという。しかも女怪物が眠っている隙をついて、足音を殺して忍び寄ってな』
英雄というにはあまりにも姑息な闇討ち。
しかしその逸話がスキルに輪郭を与え、神殺しの刃と気配殺しの術を伴わせた。
『そのスキルの創造主が女神アテナというならなおさら納得よ。かつてこの地上に豊穣をもたらした地母神を怪物に貶めただけに飽き足らず、英雄を差し向け、完殺のために様々な神具まで付け加えたのもあの女神』
『大方、自分のもっとも輝かしい逸話を再現したかったのでしょうが、その結果生まれたのがあそこまで使い勝手の悪いスキルとは……』
二人のノーライフキングからボロクソ言われる。
『とにかく私の方で指摘してやれることはもうないので、このまま帰るがいい。私はもとより経過するだけの存在。お前たちのように夢や希望に溢れた連中は刺激が強すぎる』
その言葉を最後に、木のウロに灯っていた青い光は消え去り、ただの暗い穴となった。
『元々、森さんは植物と一体化したノーライフキングゆえに、こうして話をすること自体が珍事なのです。植物には、意識や思考も不用なものですからな』
先生が補足してくれる。
『しかし、ノーライフキングの素体に由来する思考能力も、眠り続ければいずれ薄れて消えていきます。生物はそういう風にできておりますでな。あとに残るのは、ただ茂り広がり続ける生存本能のみ。ノーライフキングの万能性と、植物の飽くなき繁殖性が合わさった時、世界全体を覆いつくすまで止まらぬ最悪の自然災害が生まれるのです』
そうならないために冒険者ギルドは、定期的に冒険者を送って、森さんの意識を刺激し続けている?
『いかにも。思考能力とは理性、そして理性は常に本能を制御するものでありますからな。最上等級まで上り詰めるだけの野心とアグレッシブさは、森さんの意識を大いに刺激してくれることでしょうから』
何事もあるがままに無為自然を体現したような存在である森さんが、自分からアドバイスしてくれるぐらいだからな。
この遠征にはそれだけ何重もの意義があったということか。
さすが冒険者ギルド、だてに長年運営し続けているわけじゃないか。
なんか老人介護のような感じがしなくもないけれど……。
『ノーライフキングの相手なぞ大体そのようなものですぞ』
先生が言うと謎の説得力があった。
「よぉおおおおおし! 何にしろ私は新たな力を授かり、訓練で基本能力も底上げされた! これで! 今度こそ! 私はもっともS級冒険者に相応しい女よ!!」
モモコさんが上げる勝ち名乗り。
俺も途中から気になってここまで見守り続けたけれど……うん。
さすがにもうこれぐらいでいいんじゃないかな? と俺も思います。
引っ張りすぎの感も出てきた。
「んだば、あとはギルド本部に戻って正式な認可を受けるだけね! では早速本部のある王都へ向かいましょう!!」
「旦那様ー、ジュニアもノリトもお眠になっちゃったんだけど」
おお、そうか。
今日は大分はしゃいだからな、二人も電池切れになってしかるべきだろう。
ではさっさと農場へ帰るか。
「え? あの、ギルド本部には寄っていただけないんですか?」
何を仰るモモコさん。
子育てとは常に時間との戦いなのだよ。
ウチの子らは育ちざかりなのだから、お昼寝から目覚める前に夕飯とお風呂の準備を整えておかないとな。
さすれば俺たちは最短で最速で一直線で帰宅するのみ!!
「えッ、じゃあ私は!? ここまでアンタらに連れてきてもらった私は!?」
「自力で帰ればいいんじゃない? S級冒険者ならそれぐらい余裕でしょう?」
そうそう。
これがS級冒険者になるための正真正銘ファイナル最後の試練だと思って。
なあに、これまでの試練と比べたらお茶の子のこのこサイサイなイージーミッションですって。
言うじゃないか、帰るまでがS級冒険者ですって!
「その文面じゃ意味不明なんだけど!? せめて『帰るまでがクエストです』にしてよ!」
あ、先生も一緒にいかがです?
どうせ帰る場所は同じですし。
『ではお言葉に甘えて……』
「その善意を私にもプリーズぅううううううッッ! ねえッ! 昔の日テレみたいな企画が始まっちゃうぅううううううッッ!!」
行くぞサカモト馬車でGO。
急いだ甲斐があってジュニアらが目覚めるより前に帰宅成功。
爽やかな目覚めの子どもたちに夕食を与え、お風呂に入れて、そしてまた健やかに寝付かせることができた。
そして数日後……。
* * *
俺はシルバーウルフさんから呼び出しを受けてギルド本部へ急行した。
聞くところによればついに今日モモコさんが帰還するらしい。
その間にゴールデンバットへの説得……という名の二十四時間言い聞かせが功を奏し、賛同を得ることに成功。
ここに当人を迎えることで正式に新たなS級冒険者が誕生する。
ギルド本部には、既に大勢の観衆が詰めかけ歴史的一瞬を目撃しようと待ち受けていた。
もはや駅伝のゴールみたいな臨場感に包まれている。
そこへかすかに見えてくる……人影!
モモコさんだ! モココさんがついに来た!!
何という感動! 会場は大盛り上がり!
ここまでの長い戦いが、ついに決着を迎えようとしている!
なんとか~ふぶきの~♪って大合唱したくなる!
そしてついに……ゴール!
「帰ってきた……! 冒険者ギルドよ、私は帰ってきた!」
よく頑張ったぞモモコさん!
バキッ、
えッ? 殴られた、なんで?
「冒険者モモコよ、数多の試練を乗り越えよく頑張った。S級冒険者となるためにここまで大変な目に遭ったのは歴代お前が最高であろう」
「褒められたけど素直に嬉しくない……!」
「文句なく、これでやっと、お前にS級の称号を与えることができる。今度こそ素直に受け取ってほしい」
「謹んでお受けいたします……!」
モモコさんももう疲れ切っていたのか、変にイベントを挟むこともなくアッサリ了承した。
これで今度こそ、確定的に。
この異世界に新たなるS級冒険者モモコさんが誕生したのだ!!
「S級冒険者モモコ、バンザァーーーイッッ!!」
「これでまた冒険者の強さが盤石にぃーッ!!」
「冒険者の歴史が、また一ページぃーーーーーーッッ!!」
周囲の見物客の人々も、さっきまでのマラソン効果のせいか必要以上に感情が昂って激烈感動状態になっている。
ゾーンに入ったってことでいいか!?
「うむうむ、モモコくんのS級昇格は、冒険者ギルドにさらなる安定と発展をもたらしてくれることだろう」
シルバーウルフさんも場の空気に飲まれてか、感涙に目を潤ませていた。
「正式にS級となったことで、モモコくんに改めて贈りたいものがある」
「贈りもの!? なに!? お金!?」
そしてモモコさんも年頃の女の子なせいか金品に異様な執着を見せていた。
「コードネームだ。S級冒険者はそれぞれ特異なコードネームで呼ばれることは知ってるだろう」
ゴールデンバットとかシルバーウルフみたいなね?
「それらはS級とそれ以下の冒険者を分ける重要な指標だ。看板と言ってもいい。S級冒険者は、コードネームを名乗ることで完全無欠の最上等級として顔を売ることになるのだ!!」
そんなコードネームが、モモコさんにも……!?
過去例を見てみると、S級冒険者のコードネームって“色”の単語が交じっているのが通例だよな。
それに倣って……しかしモモコさんはすでにその名に“色”を連想させるものが組み込まれていて。
それらを
「……ピーチ・モモコ」
「いやぁあああああああああッッ!!」
モモコさん大絶叫。
「いやッ! それは嫌! コードネーム自体は受け入れるにしてもなんか別のものにして! とにかく、それだけは嫌ァああああッッ!!」
ピーチ・モモコさん拒否の絶叫が、王都の空へと舞い上がった。
S級冒険者ピーチ・モモコ。
ここに爆誕!!