作品タイトル不明
1225 救いの混沌
ついに始まる馬車vs列車レース。
概念自体が『何なの?』といえるシロモノ。
ルール的にはロンドメルト駅から出発進行して、農場駅に着ければよし。
ルート選択は自由、まあ列車側に関していえば敷かれたレールを外れることなんてできないんだから、実質これは馬車側にのみ関係するルールではある。
ルート選択次第で列車を出し抜くことも……できるのか? できないのか?
よりにもよって抜擢されたサカモトは空も飛べるからな、ドラゴン馬として。
さすがに空中から一直線に流星できれば列車のスピードにも勝てるんじゃないか。
それ以前にサカモトのトップスピードは音速を超える。
絶対勝ち目なしと思われたこのレース、一気に馬車側に天秤が傾いてきた。
「何もそこまでムキにならんでもんでもよかろうに……」
俺は御者席に座り、サカモトの轡から伸びる手綱を握っていた。
何故俺が御者席に……?
疑問ばかりが浮かんでくるこの状況。
だってサカモトが……馬車引いてレースに参加することはいいとしても、主人である俺以外に手綱を握らせるのは絶対に嫌らしいから……。
何故かこのレース、俺が馬車ギルド側のジョッキー(?)として参加することになってしまった。
本当になんで?
サカモトも自分から参戦を表明したんだから我がまま言わずにいればいいのに。
お陰で列車側からも非難轟轟だ。
『聖者様! なんで私たちを裏切るんですか!?』
『オレたちと一緒に世界中に線路を張り巡らせようと言ってたのはウソだったのかよ!?』
言ってない言ってない。
そんなこと言ってない。
それでも『裏切り者』と呼ばれるのは繊細でデリケートな俺のハートに響きまくる。
誤解しないでくれよ。
俺だって異世界鉄道事業を成功させたいと常々思ってるんだよ。
俺が発起人だぞ!
だからこそ、この馬車ギルドという既存運送インフラとの不毛な諍いを治め、融和にもっていきたいと常々思っている今日この頃だ。
今日の争いを軟着陸させ、融和の糸口を見つけたい。
そう思って色々知恵を絞っているのに、なんか気づいたらいつの間にやら追い込まれている鉄道側。
だって既に一回敗北していて、三本勝負といったのに相手は音速を超えるドラゴン馬サカモト。
いくら列車が速いと言っても音速に追随するのは……リニアモーターカーでもないと無理だ。
リニアでも無理か。
どっちみち勝てない。
これで負けたらどうなるんだ?
そういやなんも聞いてなかったけれど、これ勝敗になんか賭けてるの?
『負けた方が運送業界から手を引く』みたいな取り決めされてたら俺、完全にみずからの首を絞めまくってるんですが。
……ここはサカモト、負けとかない?
「ブヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒンッッ!!」
サカモトの鼻息から『これは我がプライドを賭けた勝負! 敗北すれば明日はない!』という気概が伝わってきた。
なんでこう誰も彼もギリギリで生きているんだ。
あーもー、そうこうしているうちにレッドシグナルが消える。
レーススタートだ。
俺とサカモトは、馬車を引きつつ飛翔した。
うおおおおおおおおおッ!
今まではサカモトの背に跨って飛翔していた俺としては、今までにない新鮮な感覚!
馬車を引かせてサカモトの後ろに続くなんて気分はサンタさんだぜ。
サカモトに引かせる馬車は、馬車ギルドが用意したもの。
馬車ギルドの代表だもの、馬車を引いていなくては勝負にもならない。
これが唯一サカモトにとってのハンデとなりそうだが、実際勝敗を左右するまでになるだろうか……。
サカモトの飛行能力は実際のところよくわかっておらず、引く馬車にも作用して浮いている。
そうじゃなきゃ俺がぶら下がって大変なことになりそうだが……、幸いそうならずに済んだ。
馬車の中には益体もない重りがいくつも積まれている。
一応純粋な速度ではなく輸送能力勝負なので、その辺が大事なことのよう。
もちろん大切な荷物に見立てて積まれたお守りを一つでも振り落とそうものなら、その場で失格。
荷物を紛失する者など運送業者の風上にも置けぬ、ということ。
だからサカモトも丁寧に飛ぶだろうが、それがどれだけ速度に影響を与えるかが未知数だ。
同時に、駅から異世界鉄道車両一号こと一郎も発車。
『アルファだぁああああああああああああああああああッッ!!』
彼もなかなかギリギリの速度を攻めているが、ここでどれだけサカモトの音速に迫れるか難しいところだ。
一郎も疑似的な輸送設定のため、後部にいくつもの貨物車両を連結しているが、その中に二両ほど客室車両も交じっていた。
あの中には知事のキメリさんを始めとし、今回の勝負の関係者が詰め込んであった。
何故か馬車ギルドのマスターの人まで乗車して、こっちに声援を送っている。
「頑張れぇえええええええッッ!! 我ら馬車ギルドの威信に懸けて、こんな鉄筒なんぞぶっちぎってしまえぇええええええええええええええええッッ!!」
どこから応援しとんねん。
たしかに観戦者が並走するとして、身の置き場はそこにしかないんだろうけれども。
自分たちが倒そうとしている列車に乗りながら、自分たちの乗ってる列車を倒せと応援している心理がわからない。
一体これどうすりゃいいんだ?
もういっそのこと地味に見立ての重りを天空からバラまいてやろうかと半ばやけっぱちになっているところ……。
さらなる天空から……、混沌の使者が飛来してきた。
『ご主人様を困らせるヤツらは誰なのだー?』
やってきたのは……ドラゴン!?
巨大なる体躯に翼を持ち、すべてを焼き尽くす覇気をまとった最強生物!?
って言うかヴィールじゃん!?
どうしてここへ?
『ご主人様が強いストレスを感じているのを察知して、駆けつけたのだ! おれ様はご主人様第一の下僕ゆえな! がはははははははは!』
いつもはお前自身が俺にストレスをかけに来る立場なのに……!
なんて頼もしいんだ!
やはりお前は最強生物ドラゴン! 心底頼りになる!!
『……んで、ご主人様を困らせている不届き者はどいつらなのだ? もうめんどくせーから視界に入ってるの全部吹き飛ばせばいいか?』
待って待って待って!
最強生物らしく大雑把に吹き飛ばさないで!
俺はここで、こんなにまでなっている事態と俺が困っている理由を限られている時間の中で務めて簡潔に説明した。
かくかくしかじかのこのここしたんたん……。
『なーるほどなー、大体わかったのだ』
これは実際わかってない人の吐くセリフ。
『要するにこのスピード勝負でどっちが勝っても具合が悪いってことだろう? だったら解決法は簡単。どちらも勝てなければいい』
……と思ったら案外理解していた。
しかし解決法はどういうこと?
勝者なしとは?
『つまり、グリンツェルドラゴンであるこのおれ様もレースに参戦してやるのだ。おれがブッちぎり、イキッてる連中二人ともが敗者に堕ちればどちらからも文句は出ねーだろう。こういうのを何て言うんだ? 喧嘩両鏖殺ってヤツだ!!』
鏖(みなごろし) にしてんじゃん!
皆殺しになったら両方も一方もないじゃん!?
しかしそんなツッコミも些末なもので、ドラゴンが現れたらもうこの場はヤツの独壇場。
理不尽すら及びもしない特級クラスの暴虐が、この場にいる全員を襲う!
『ぐわーっはっはっはっは! ちまちまとスピード勝負なんて涙ぐましいなー! テメエらのささやかなお祭りを、このグリンツェルドラゴンのヴィール様が蹂躙してやるのだ! 世界最強生物ドラゴンは、世界最速でもあることをお前らに見せてやらあー!』
最強生物ドラゴンのヴィールも参戦!
マジで!?
それが何の解決に繋がるのかわからないが、状況をひっくり返すには充分な威力だった。
あらゆる状況を知っちゃかめっちゃかにする混沌の使者、それがドラゴン。
『さーブッちぎるぞー!! テメーらに足りないのは! 筋力、魔力、覇気、暴虐、知略、無慈悲さ、傲慢さ!……そして何よりも速さが足りないのだァアアアア!!』