軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1220 すれ違いの環状線

私……キメリは異世界鉄道とやらの試運転に乗車中。

ここまでは一切何の問題なく、むしろ快適でいっぱい。

私たちが乗った列車は、目まぐるしいスピードで駆け抜け、周囲の景色を置いていく。

その様子を窓の外から覗けるのだけれど、凄まじき想像以上の風景だわ。

こんなスピードで景色が流れ去って行くなんて。

こんな像、頭に思い描いたことすらなかったわ。

そして、そんな異様の風景をクリアに眺めることができる、車窓の透明さにも驚きよ。

こんな透明度の高いまっさらなガラス……魔王城にすらあるかどうかわからないのに。

さらに革張りの座席も据わり心地がよいし座り心地がいい。

お尻を押し返してくるような座席の感触。一体中に何を詰めればこんな弾力が生まれるのだろう?

この座席引きはがして自分の執務室に置きたいぐらいだわ。

それ以前の問題として、この走行している列車自体がまったく揺れないというところにも恐ろしさを感じる。

揺れないからこそ、こうして快適に過ごせているんだから。

これがどれだけ凄いか、私にはわかるわ。

だって長距離移動する時に乗る馬車なんて、地面が波打っているのかと思うくらい揺れるんだもの。

この列車より遥かに遅いスピードで走っているというのに。

あまりにガタンガタン揺れすぎて一日中乗っていたらもう、お尻が痛くなりすぎて木の椅子に座れなくなるほどよ。

それを思えば、馬車の数百倍のスピードで走りながら、それでいてまったく振動がないなんて……。

ひょとして私、夢の中にいるとかじゃないわよね?

夢の中だから振動もないし、騒音もないということ?

……そんなわけないか。

いかに受け入れがたい現実だとしても、逃避するのはロンドメルト知事にあるまじきだわ。

さらに車窓の景色に見入ってると、今度は内側の方から呼びかける声が。

「車内販売でーす、お茶にお菓子、駅弁の販売もしておりまーす」

……聖者様?

一体何をなさっておいでで?

「今の俺は、ただの社内販売員でーす。本日は試乗運転招待として特別価格、全品ゼロ円で提供しておりまーす」

それはただ単にご馳走しているだけでは?

では……そのエキベンとやらをいただこうかしら?

あら可愛い、木の箱の中に料理が詰まっているのね。車内で食べることを鑑みて汁気のないもので構成されているのね。

「本日はシュウマイ弁当となっておりまーす。駅弁といえばシュウマイ弁当!!」

どこの定番なのかしら。

とりあえず、並んでいる料理の一つをフォークで刺して、口に運ぶ。

……!?

うまぁああああああああああああああああッッ!?

何この、薄皮で包まれた肉団子のような料理!?

噛むとじわっと肉汁が溢れ出て口の中に広がるわ!

冷めてても断然美味しい!!

「冷めても美味しさが保ててこそお弁当の真髄。ジェットで温め直すのもいいが、それだと歯車がズレるのは、孤独な商社マンが証明済み!」

また聖者様が意味不明なことをのたまっているわ。

でもエキベンが美味しすぎて気にならない!

どんどん食が進む!

車窓からの一等の景色、芳醇な駅弁の味。

みずからが王侯貴族になったと錯覚しそうだわ!!

はー、天国天国。

このまま列車が走るに任せてぬぼけーっとしていようかと思ったが、そうスンナリとは終わらない聖者様の主催イベント。

『……ご乗車のお客様にお知らせいたします』

おや?

これはあの自律ゴーレムの声?

内部まで声を飛ばせるなんてさすがの造りね。

『ただいま進歩前方に、走行の妨害を企てる複数の人影を発見いたしました。盗賊団と推測されます』

盗賊団ですって!?

言われてみれば確かに……この列車は犯罪者たちにしてみれば、とっても美味しそうな獲物に見えるでしょうね。

馬車数十台分の荷物を載せている、その一部だけでも奪えれば野盗どもにとっては大収穫だわ。

さらに鉄道という道具の仕組み上、進行ルートは簡単に割り出せる、しかも確実に。

盗賊らにとっては数年分の稼ぎになる大物を労せず捕らえることができるのだから、これだけ楽な仕事はないと思っていることでしょう。

逆にこちらの失態だわ、こうなることは容易に予想できたのに。

「次郎や、盗賊たちはどんな様子だ?」

『線路上にバリケードを積み上げ、こちらの停車を強制する心づもりのようです。停止させたあとで悠々私に乗り込み、乗員を制圧し物資を奪っていく算段でしょう。あと次郎ではありませんベータです』

聖者様とゴーレムが淡々と会話している。

その落ち着きようで却ってこっちも安心できるわ。

「まあ予想の範囲内だな。ベータ、事前の打ち合わせ通りに頼む」

『だから次郎って……あッ』

私が想像するに、盗賊たちは岩やら木片やらを線路上に積み上げて進路を閉鎖しているのだろう。

走り続ければ列車はバリケードと激突して大惨事になるわ。

そうなりたくなければ列車は止まるしかない。

盗賊どもめ……卑劣ながら効果的な手段を。

まともに並走すれば絶対追いつけないので、逆にこちらを遅くするもしくは止めようとすることは、ヤツらの唯一の手段でもある。

順当に対応するならば、いったん列車を止めたあと、同乗する護衛で盗賊たちをせん滅するんでしょうけれど……。

乗せているわよね、護衛。

「そのまま突っ込めー、スピード加速ー!」

『アイアイサー!!』

ええええええッッ!?

そんな、誰もがブレーキを踏むところであえてアクセル全開!?

列車は、これまで以上の猛スピードでバリケードに突入。

『ベータ轢き逃げアタック!!』

特に大した衝撃も伝わらずに、何かが砕け散って飛散する感触のようなものだけがあったわ。

もしや盗賊たちの作ったバリケードを、突破した。

『私は走行中、周囲にマナの混じったソニックブームの防護膜をまとうことができるのです。その状態で敵対象に突撃する技を、名付けて“ベータ轢き逃げアタック”』

もうちょっと他にネーミングセンスなかったかしら?

『これで盗賊たちの進路妨害は無事突破できました。ご乗車中の皆様の安全は確保できましたが、今あの盗賊たちを放置すれば後々無用の被害を出すことも容易に予測できます。災いの芽を摘むためにも少々お待ちください』

え? 何?

よくわからないまま列車は一時停車した。

何が起こっているのかと窓から外を窺う。

あッ、列車の先頭が切り離されて……空を飛ぶぅ?

そして列車全体後方へと回り込む?

『フォームチェンジ! ベータ単独戦闘形態!』

そして列車の先端部分が姿を変えて、人の形に!?

『私は、他の異世界鉄道車両と合体せずとも単独で戦闘フォームに変形できるのです! そして盗賊の相当ごとき容易い!「白線の内側までお下がりくださいビーム」!!』

「「「「「ぎゃわわぁあああ~~ッ!?」」」」」

『「ホームに脚立の持ち込みはおやめくださいバルカン」!!』

「「「「「ほげぇえええ~~ッ!?」」」」」

『「痴漢冤罪撲滅トマホーク!!」』

「「「「「ぶぎゃおわらぁああああああああ~~ッッ!?」」」」」

凄い、人型になったゴーレムの攻撃で、盗賊たちはなすすべもなく薙ぎ倒されていく。

この列車に、護衛が乗っていなかったのも納得だわ。

列車自身が、何よりも頼りとなる護衛だったのだから。

『聖者様、無力化した盗賊たちはいかがしましょう。護送する設備がないので、ここに埋めていきますか』

「春秋戦国時代から続く、まかないきれない捕虜の処分の仕方やめろ」

『ロープで縛って、列車の最後部に繋げてそのまま引きずっていくとか』

「実質的な死刑!?」

結局盗賊たちは縄で縛り、その場に放置していくことになった。

あとで農場国側から人手を出して回収するとのこと。

彼らがどちらの領土内で犯行したかによって後の処置が変わってくるが、面倒なことになりそうなら、その時こそどこぞに埋めてしまいましょう。

* * *

そうして列車は農場国へと到着。

『本日も異世界鉄道をご利用いただきありがとうございました。また本日は一時停止のため若干の遅れが出ました。お忙しいところご迷惑をおかけして大変申しありませんでした』

それでも馬車より格段に速くついたのだから脅威と言わざるを得ない。

……ところで。

人間国側からも試運転の列車がきているのよね?

その列車に街の長であるアリアロス氏も乗っている……。

さすれば中間地点の農場国で落ち合えるはず……。

そう思って人間国側の線路の先を見詰めていると……。

……来た、キタキタキタキタキタキタキタァアアアアアッ!!

人間国側のVIPを乗せた試乗列車は、やはり猛スピードで農場国駅のホームへと入り込み……。

……通り過ぎていった。

え?

なんで?

『ヒャッホォオオオオオッッ!! こんなところで休憩してるなんてノンビリしてんなベータ! 勝ちはオレがいただいたぜぇえええええッッ!!』

『どっちが先に到着するか競争なんてしていませんよアルファ』

ちょっと待ってぇええええええッッ!

その列車内にはアリアロス氏が!

ここまで来て、ここまで来て私たちはすれ違うのぉおおおおおおッッ!?