軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1192 臨機応変に柔軟な対応

紆余曲折あった精霊騒動も無事幕を閉じた。

カイトくんも自分のしでかしたことの大きさを思い知り、無詠唱魔法は二度と使わないと誓ってくれた。

ご丁寧に、誓いを破ると天罰が食らわされる魔法制約を精霊と結んで。

制約対象が精霊王なので拘束力は抜群だ。

精霊王も用がなくなったので精霊界にお帰りになったが、今回の俺たちの尽力が大変痛み入ったらしく……。

『我ら精霊は、聖者と特別な誼を結ぼう! 我らお助けが必要な必要な際はいつでも呼んでほしい!!』

と言い残していった。

「せーれーおーさま、さよならですー!」

「さよならさんかく、またきてしかくですー!!」

大地の精霊たちもキャピキャピで見送りしていった。

キミたちも、問題を浮き彫りにしてくれて大手柄だったな。

バターを振る舞うので思う存分振る舞うがいい。

「きゃああああああああああッッ!!」

「ばたたたたたたたた! バターですぅうううううッ!!」

「うんまいデリシャスですぅうううううッッ!?」

大地の精霊は大好物を貰って大喜びだった。

何かしら引っかかるところもあるけど追及の手立てがない俺にはどうしようもなく関係各所に通達するに留まった。

そして俺は、普段の日常へと戻っていく。

* * *

精霊騒動でおざなりになっていたので、改めて開拓地を訪ねた。

この土地も、冬を目前に控えて涼しさが近づいている。

現地は農場本体ほど豪雪地帯でもないので、冬も開拓作業は進められるが、翌春からはついに農作業が始まるので、その準備にも忙しい。

開拓地はまだ食糧生産する段階に入っていないので、各地から援助に頼っている状況だ。

魔国からも人間国からも食料が送られてきているし、農場もある一定量を受け持っている。

これが来年からはしっかり自給自足できるようになるのが目標だな。

しかし開拓者の方々も、ヒトに頼るばかりを潔しとせず、みずから食い扶持を作る道を模索している。

周囲に茂る木々から成る木の実を拾ったり、食べられる山菜やキノコを採取したり……。

しかしその中でももっともポピュラーなのは、ダンジョン探索だった。

アレキサンダーさんが宣伝のために設置したダンジョンが、ちょうど開拓地にある。

あくまで本体であるアレキサンダーさんのダンジョンを体験してもらうための体験版だが、しかしそれでもダンジョンであることは変わりない。

産出される鉱物や自然物、発生するモンスターの素材はたしかな富となる。

開拓者たちは手が空くとダンジョンに潜るようになった。

元々は開拓作業に従事できるほど心身がガッシリした者たち。

怪物はびこるダンジョンに潜ったところで、そこまでの困難じゃない。

そうしてダンジョンに潜っては、有益な素材を持ち帰ることを繰り返しているようだ。

アレキサンダーさんの体験版ダンジョンのおかげで、開拓民のQOLもかなり上がっている。

そうなるのも一定の根拠があるわけで……。

「うわー、こりゃ変わり果てたなあ」

俺は実際、開拓地のダンジョンに入ってみて内装の変わりようにビックリ仰天。

ここはあくまでアレキサンダーさんがダンジョンを宣伝するために設営した簡易ダンジョンだというのに。

あくまで体験版として、アレキサンダーさんのダンジョンを模倣して、そのまま縮小化させているのがコンセプトじゃないのか?

それがまったく……別物?

俺もアレキサンダーさんのダンジョンを訪ねたことがあるのでわかるが、模倣すべきオリジナルとは似ても似つかない感じになっているぞ!?

何がどうなっているっちゅうねん!?

「おお、来たか。定期的に様子を見に来ると言っていながら、随分間が空いたじゃねえか」

と言って現れたのはテュポン。

このダンジョンの管理者を務めるドラゴン。

しかし今は人間形態をとって、野生児のようにワイルドな少女の姿をしている。

「キミ、随分好き勝手やってるね……?」

「悪いか? プロトガイザードラゴンであるおれ様のすることに文句があるっていうのか、あぁ?」

いや充分悪いと思いますけれども。

だってこのダンジョンは、アレキサンダーさんのダンジョンを宣伝するために作られたものなんだから、その機能を果たさないとダメじゃないか。

それが……こんなにまでオリジナルから離れるとは。

これは原作者からクレームが出るレベル。

「しかし、どうしてこのような改ざんを?」

俺が立っている第一階層は、鬱蒼とした森の様相を呈していた。

これじゃダンジョンの外の開拓地と大して変わらない。知らぬ間に迷い込んでしまいそうだ。

ダンジョンとは普通山タイプと洞窟タイプに分かれるんだが、ここのダンジョンはテュポンの強大なマナで半ば無理やり実体化されたものだ。

だからなおさらテュポンの意思一つで自在に作り変えられる。

「フン、矮小な人間風情に、プロトガイザードラゴンの深遠な思惑は理解できないか……!」

知った風な口をききやがる小娘。

「いいか、このダンジョンの利用者のことを深く考えてみるがいい。繁盛の秘訣は、お客の立場になって考えること。お客さんが求めていることに応じて品揃えを変えなくて何が商売人か!」

商売人じゃねえだろ、お前。

誇り高きドラゴンだろ、百歩譲ってもダンジョン管理者だろ。

ダンジョン管理者が侵入者を迎え撃つことと、商人が客をもてなすことは根本的に違うと思われるが。

「いいか、このダンジョンに来る連中は、開拓者がほぼすべてだ。それはお前らにもわかるだろう?」

それは……。

この辺、開拓者しか住民がいないし……。

「一般的にダンジョンに入るのは冒険者、そんなヤツらが求めるものは一獲千金のお宝だ。だから普通ならそういう金ぴかを置いておくのがいいんだろうが、この界隈に住む開拓者たちはお宝なんぞより、その日の美味しい食料の方が嬉しい! ちょっと考えればわかること!!」

……。

そりゃまあ、お宝なんかゲットしたところで、この辺じゃ換金できる施設もないしね。

歯も突き立てられない黄金よりも、日々の栄養になる野菜やお肉、暖をとるための薪や防寒具の方がずっとありがたいだろう。

「だからこそおれ様は、第一層を森林にしたんだ。森は生命の源だからな。食料や毛皮、そういったものを効率よく採取するには、森という地形がもっとも都合がいい、ということだ!!」

百パーセント利用者側に寄り添った対応。

そのためにアレキサンダーさんのダンジョンを模倣すべきところを思う通りに作り替えちゃったのか。

そりゃあ需要と供給が成立するためには、客の要望に寄り添うことがもっとも大事だが……。

そのためにクライアントの要求を無視するのはどうも……!?

「……コイツの情熱は本物なのだー」

ヴィールがのっそりと姿を現した。

心なしかやつれた表情をしている。

「ここ最近、おれ様のところに押しかけてはダンジョン作りのノウハウを聞きに来て、心休まる暇もないのだ。コイツのモチベーションの高さに圧倒されるわ」

「ハーッハッハッハッハ! プロトガイザードラゴンたるおれ様の探求心に恐れおののくがいい! おれ様が管理者に就任したからには、生半可なモノを作るわけにはいかんのだ!!」

いやだからクオリティよりまずクライアントの希望を満たすところからですね……。

「ダメだご主人様。コイツはこの辺に住んでるヤツらの生活第一で動いているから、断りづらいんだ。お陰でいつも押し切られて指導役を引き受けてしまう……」

まあ『世のため人のため』といわれたら断りづらいわな。

ヴィールも案外あれでまともな人格なんで、人情に訴えられると弱いんだろうな。

「フッフッフッフ! ヴィールはダンジョン作りのいい技術をもってるからな。利用できるものは利用する。それがドラゴンの賢さだ!!」

なんでこんなにテュポンは開拓者たちに寄り添おうとするんだろう?

近くに暮らして情でも移ったのか?

こないだまで自分以外の生物はすべてカスみたいに振る舞っていたのに、一体どういう心境の変化だろうか?

まあ、ドラゴンのような超越生物が開拓者さんたちに寄り添ってくれるならありがたいことだ。

何かあった時も安心だし。

そう思っていた矢先のこと。

本当に“何か”が起こってしまった。