軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1188 詠唱vs無詠唱

高まる対決ムード。

先生&精霊王と、無詠唱提唱者であるカイトくんが真っ向から睨み合っている。

それでも世界二大災厄の一方ノーライフキングと、世界の運行を司る精霊王を二人向こうに回してもたじろがず睨み返すカイトくんは何なの?

クソ度胸というか主人公属性持ちなの?

俺ならビビッて腰抜かすけど、実際傍から見ている立場だけでそうなっているし。

「お……恐ろしい状況になってきましたな……!?」

魔王さんも若干声が震えている。

そりゃ魔族の王様だって怖いでしょう、この一触即発の空気。

即発まではよくても、予想されるのが大爆発だと思えば……。

『単刀直入に言おう!』

まずは精霊王がビシッと指をつきたてる。

感情的にあの人(?)が一番感情的なので口火を切るのも最初。

『無詠唱魔法の使用を即刻やめてもらいたい! あれは我々精霊の尊厳を傷つけるものだ!』

「何を言ってるか、意味わかんないんだけど」

精霊王の激昂に、極めて冷静に返すカイトくん。

「オレは皆に幸せになってほしくて無詠唱魔法を発展させたんだ。それに反対するってアンタは皆に幸せになってほしくないってこと?」

『我ら精霊が幸せじゃないって言っとるんだ!』

「なんで? ヒトが幸せだと自分も幸せに感じないの? 何アンタ他人の不幸でメシウマな人?」

全然会話が通じてない……!?

あのカイトくん、自分を信じて疑わないのはいいが、よくああも強硬に押し出せるものだ。

ビビるということを知らないのだろうか?

『無詠唱が、人の幸せに繋がるものではないとしたら?』

今度は先生が論戦に参加する。

『たしかに世の中には省くべき無駄がある。しかし同時に、無駄であるように見えて実は欠いてはならない重要なものも数多く存在する。多くの愚か者は、見分けをつけることができず重要なものを取り除いて失敗するものよ。さらにはどう見ても必要なモノなのに取り除いてしまう大バカ者もおるがの』

「詠唱が必要だっていうのか? いいかいミイラのおじいさん、アンタじゃわからないかもしれないから丁寧に説明してやるが、詠唱なんて何の意味もないんだぜ!」

あ、なんかわかってきた。

彼が恐れないのは、怖いもの知らずだからだ。相手がどれだけ恐ろしいものか理解できなくては、恐れることもできないからな。

「いいか、詠唱ってのは魔法発動するのに邪魔なだけなんだ。考えてみろよ、敵の前で長々詠唱唱えて、敵が待ってくれるっていうのか? 途中で潰されて終わりだろ。そうならないためにも魔法は、詠唱なしで即放つしかないんだ!」

『先の先をとる。……それはどのような形の争いであろうと変わることのない鉄則じゃ。しかしそれでも行動に後先が生じてしまうのは、動くのに必要な順序があるから』

その順序をすっ飛ばして仮の先手を取っても、結局は次に繋がらず逆転されるだけ。

長距離走でスタートダッシュかましたヤツが、あとで必ず息切れして追い抜かれるように。

早く売りたくて動作チェックをしないまま販売した商品が、トラブルを起こして結局リコール対象となるように。

必要とされる手順を踏まなかったらあとで必ず躓くものだ。

「そんなのは関係ない! 詠唱をなくしても問題ないようにオレが詠唱魔法を調節したんだから! だからデメリットも一切なく魔法を発動できる! 何も考えなしに言ってるわけじゃないんだぞ、オレは!」

一歩も譲らないカイトくん。

彼の自信はどこから無限に湧き出るのか、その心の持ちようを教わりたいぐらいだ。

……いや、教わりたくないか。

オレは謙虚に生きたい。

「どんなに屁理屈を言おうが『早いに越したことはない』というのは真理。相手の先に行くためには余計なことなんてやってられない。だから無詠唱魔法は正しいんだ!!」

『そこまで言うなら、論ではなく実証で競うしかなさそうじゃのう』

先生の眼窩が、鬼灯のように赤く光る。

『勝負しようではないか。ワシは無詠唱魔法は一切使わん。魔法を使うときはキッチリと詠唱込みで発動させよう。それを破れば即、ぬしの勝ちということでかまわぬ』

「フン、いいだろう! このオレの正しさを実力で示してやる!」

唐突に始まるバトル展開。

大丈夫なのか先生?

いくら世界最恐の不死王ノーライフキングだとしても、詠唱ありと詠唱なしでは魔法発動までにかかる時間に天地の差がある。

相手のカイトくんは、全ターンにわたって先手を取り続けられるだろう。

いかに人間vsノーライフキングの戦いでも、これは弱い側に勝ち目あるんでは?

「では勝負……開始!」

魔王さんが代表としてデュエルの開始を宣言。

先に動いたのは、当然ながら先制攻撃至上主義のカイトくん。

「いつ、どんな時でも最初に動いたヤツが勝つ! くらえ詠唱破棄の氷結烈風……ぼげッ!?」

呪文を唱え終わるよりも早く、カイトくんの腹部にめり込む拳。

……拳?

先生による正拳突きが、カイトくんにクリーンヒット!?

どういうこと!?

『無詠唱呪文は使わぬと言ったが、……詠唱呪文だけを使うと言った覚えはないの』

「ええ……ごべッ!?」

さらに叩き落すような掌底がカイトくんの左頬を吹っ飛ばす。

肉弾戦! 肉弾戦だぁ!?

先生まさかの肉体言語!!

「何より早く攻撃……となればやはりそうなってしまうか……!」

戦況を見守りながら魔王さん解説に回る。

司会進行から解説までとすべてをこなす人だ。

「どれだけ詠唱を省略しようと魔法は、最後の発動呪文を唱えること、魔力の集中に一瞬の間を要することは避けられぬ。それよりも鍛え上げた肉体で、極限の反射から繰り出される肉弾攻撃の方が速さも早さも数段上回る」

それは……少し想像してみればわかりそうなことだった。

「そもそも我ら魔族だって魔法ですべてが解決できるとは思っていない。戦争時代は、距離を保っての遠隔攻撃は魔法で、肉薄すれば武器を持っての白兵戦と使い分けていた。肉体の鍛錬も欠かさなかったものだ」

魔法だけに頼らず使えるものはすべて使って全力を振り絞っていたということなんですね。

そんな解説中もカイトくんは先生に一方的にボコボコにされている。

『侮るでないぞ。ワシとて伊達に千年生きておらん。格闘術も基礎程度には修めておるわい』

そう言いながら先生、寸分の狂いもなく崩拳を決めて相手を内側から粉々にする。

「むるぐおぅッッ!?」

もはや内臓ぐちゃぐちゃであろうカイトくんがその場に崩れ落ちると……。

『そろそろいいかのう。では……凍てつく狂乱、寒さという死を司る者よ、愚か者に眠りの熱狂を与えよ……氷結烈風陣』

「ぐるぼわぁああああああああああああああああああああッッ!!」

先生から放たれる極寒の吹雪によって全身が凍りつき、氷像となってしまったカイトくん。

『よし、こうなってはもう反撃も逃亡もできまい。……詠唱魔法の勝利じゃ!』

いや、拳の勝利です。

やっぱ最後にモノを言うのは筋肉だったか……先生に筋肉はないけど。

『いや、それほど楽な勝利でもありませんでしたがの。ノーライフキングの肉体は触れただけでエナジードレインやら悪寒やら、魂の収奪やら厄介な効果を発揮しますからのう。それらを抑えて肉体的ダメージのみを与えるなど、小器用なことを強いられると気力を使いますじゃ』

パワーセーブに割く労力が一番高かった模様。

『しかし、この青年にはこの勝ち方以外にないと思いましてな。自慢の詠唱破棄が、思っていたほど万能でも無敵でもないとわかってもらうには、最速最短の勝ち筋を叩き込むのがもっとも効果的と……』

先生、カイトくんを“わからせ”てしまったわけか。

さすが先生、問題児の扱い方を心得ている。

『さて、アフターケアもしておくかの』

先生が指をパチンと鳴らすと、カイトくんを覆っていた氷は跡形もなく霧散し、拳でボコボコにされた傷も見る間に治癒していった。

しかし目の前で起きたことは正確には治癒ではなく、相手肉体に起きた状態のみを時間逆行させて“なかったこと”にしたんだとか。

あれも魔法の一種だろうが、先生は呪文を唱えなかったよな?

いつもは気にならないところだが、今回のテーマを思うと気になるところ。

『ノーライフキングは、半ば精霊に近く神にも近いですからな。同類であるからこそ多少融通を効かせてくれるのです。それに精霊らに頼らず完全に自分のマナのみで引き起こす魔法もありますので、そちらに関しては完全に詠唱不要ですぞ』

なるほど……。

『だからこそ詠唱破棄は、使えば使うほど人間から遠くなってしまう危険な技術でもあるのです。便利だからと言って安易に濫用すれば、いつか溜まりに溜まったツケが一気にのしかかってくることにもなりかねません』

『どちらにしろ精霊に対する思いやりの一切ない“詠唱なし”など断じて認められん! 不死王よ、不埒者に厳罰を下していただいて感謝します!!』

精霊王が涙ながらの拍手喝さいを送った。

やっと溜飲が下がったのだろうな。

精霊たちを怒らせた無詠唱魔法。

その根源となった人間を先生が叩きのめしたことで大団円となるのだろうか。