軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

117 海のオーク

我が名はオークボ。

聖者キダン様の忠実なる下僕。

オーク軍団に所属している。

一応古株の部類に入るが、何故か同期が数人いるにも拘らず、いつの間にか私がオークチームの代表のようになっていた。

自分でなりたくてなったわけではないが、任されたからには全力を尽くす毎日だ。

農場の仲間は我が兄弟。

聖者様の敵は我が敵。

そんな気持ちで日々働いていたら、仲間内から『沈黙のオークボ』とか呼ばれるようになっていた。

何故だ?

そんなに無口なつもりはないのだが……。

ゴブ吉が指揮するゴブリンチームとは、同じモンスター組ということで比較されがちだが仲は良い。

特にリーダーである『乱波のゴブ吉』ことゴブ吉とは農場初期以来からの戦友だ。

彼との綿密なチームワークがあればこそ、今日まで大過なく聖者様をお支えできたと自負するところである。

さて、そんな私だが、冬の頃からある試みに挑戦中だ。

船の建造である。

聖者様の農場には海が近く、手の空いた者は浜辺に出かけて海藻や貝を拾い集めるのが慣例となっている。

水路を引くまでは、聖者様の聖力によって塩味を消した海水が唯一の安定した水源だったし、海は有り難い恵みの源だ。

そんな海より、より大きな恵みを頂こうというのが今回の計画。

船を使って沖に出れば、今まで獲れなかった種類の魚も獲ることができるし、たくさん獲ることもできる。

農場も住人の数が増えてきて、収穫量を増やす試みは決して無益ではないはずだ。

「え? 海の魚ぐらいアタシたちが人魚に戻って捕まえてくればいいじゃない?」

とプラティ奥様に言われたが……。

それでもやるの! チャレンジすることに意義があるの!!

と言って押し通した。

手段も選択肢もたくさん持ってた方がいいよね?

元々我らオークチームは体が大きく力持ち。その特性を利用して自然と大きなものを組んだり作ったりするのがメインの仕事になった。

聖者様の寝起きされるお屋敷や、さっきの話に出た水路も、聖者様の指揮の下、私たちオークが力を合わせて作ったもの。

おかげで私たち自身にも経験と技術が蓄積されて、私たち自身が寝起きするモンスター長屋はそれを下に独自に作り上げたもの。

ただ、船となればそうもいかない。

船作りには、家作りにも水路作りにもなかった技術が必要とされて、私たちは手探りでそれを獲得せねばならない。

かつて見たことのある船らしい船と言えば、今は魔王妃となったアスタレス殿が乗ってきた船ぐらい。

ただ、それも動力に魔法を使用したものだとバティ殿から聞いて、あまり参考にならないことが発覚。

結局核心的な部分は聖者様からアドバイスをもらい、船作りを進めた。

本当に聖者様の知識の広さ深さは果てしない。

竜骨という、船体の中央に真っ直ぐ伸ばした材木で強度を上げるとか、船の上に大きな布を垂らして、それに風を受けて移動させるとか、私にはまったく思いつかなかった。

そのおかげで何とか船完成。

我々の大いなるチャレンジ精神が実を結んだ。

冬の間試行錯誤を繰り返して、結局春になってしまったが、時期的に海でも生き物が増える頃合いだ。

早速、この船で出港し沖合の魚を乱獲しようではないか!!

「生態系が崩れるから稚魚獲りはダメよー?」

プラティ様からやんわり釘を刺された。

何度かの試験航行を繰り返して安全が確認されたあと、出航!

浜辺には手の空いている者たちがわざわざ見送りに来てくれた。

「あまり沖には行くなよ? 陸地は常に確認しろよ? 羅針盤は持ったか? 羅針盤は別に、渋滞の元とかじゃないからな!? 船内に積み込んだレモンは毎日ちゃんと食うんだぞ? 壊血病になるからな!?」

聖者様から超心配された。

割と心配性なのだこの人。

別に何日も漁をするわけではないので。日帰りで戻る予定です。

「もし海上で迷ったら、通りすがりの人魚に助けてもらいなさい。船に個人識別用の魔法薬を振りかけておいたから、アタシの関係者だってすぐわかるはずよ」

プラティ様。

お気遣いかたじけない。

この冬の間、用意していたのは船だけではありません!

聖者様が山ダンジョンで育成しているタケとやらを材料に作った釣り竿。稲作で取れた藁を原料に網もたくさん作った!

オークチームから募った十名が船に乗り込む。

これで必ずや大漁を成し遂げてみせます!

* * *

そして出航から早三日。

迷った。

ここがどこかわからない。

辛うじて陸地が見えているのが幸いだが、その陸地が住み慣れた農場とはまったく地形が異なる。

どっち伝いに行けば農場に戻れるのかわからないし、そんなわけで海の上で立ち往生している。

聖者様はこういう時羅針盤を見て自分の進む方角を確認すればいいと仰っていたが、その羅針盤の読み方を教わってくるのを忘れた。

一生の不覚。

っていうか昨日から風が吹かない。

船がちっとも動かない。

もうしょうがないので漁に精を出すことにしよう。

「リーダー、また釣れましたよー」

リーダーではない。船の上では船長と呼べ。

ちなみに私の垂らす釣り竿には全然当たりが来ない。

出航してからずっと。

「……いやあ、まさか漂流することになろうとは」

一緒に船に乗り込んだ古参オーク、オークマが言った。

私と同じ班長格で、苦楽を共にした戦友だ。

「聖者様もさぞ心配してくださっているだろうが……。ま、なんとかなるだろ」

そう、何とかなるのだ。

……まだ釣れない。

「しかしオークボ、お前なんでいきなりこんなこと思いついたんだ?」

こんなこと、とは?

「船を作って、魚を獲りに行こうなんて言い出したことだ。お前はどっちかというと堅実で、聖者様の指示を忠実に遂行するのを最優先にしていると思っていたから……」

自分でアイデアを出すのが意外、というわけか。

……私たちオークチームのメイン作業は建設だ。

水路を掘っている時などは忙しかったが、それも完成し、農場に建物は足りてきた。

このままでは、オークチームは仕事に溢れる、と思ってな。

「それで、自分から仕事を作り出そうと?」

オークチームのリーダーを任せてもらっている以上、仲間を手透きには出来ん。聖者様の指示をただ待っているだけではリ-ダーの意味もないのでな。

私とオークマの班は絶賛海上を漂っているが、同じ古参のオークラ、オークニヌシ、オークトーバーの班は農場に残っている。

力仕事の手は充分に足りるだろう。

「なるほど、そう言うことなら大物を釣って、リーダーのアイデアに華を添えようではないか!!」

遭難している時点で企画失敗感がプンプンしておるがな。

……それより、次に大物を釣るのは私だ! オークチームリーダーの面目躍如として、ここで是非とも大物を……!

釣れたー!!

我が釣り竿から引っ張り上げられて、今や甲板でピチピチ言っているのは、かなり大きい。

人間一人分ぐらい大きい!

というか人だった。

人魚だった。

「リーダー! 人魚釣り上げたんですか!?」

「スゲー! 人魚釣り上げたのなんて聖者様ぐらいしかいないはずでしょ!?」

「さすがリーダーです! 聖者様に並ぶとは!!」

他のオークたちは大興奮だが……、違う。

これは私の望んでいた釣果じゃない。

人魚を釣り上げるとか、揉め事の予感しかしないんだが?

「おのれ陸人! よくもわらわを釣ってくれたな!?」

ホラ、人魚さんお怒りですし!

これ絶対に怒られるパターンだよ!!

「釣り上げられた恨み晴らさでおくべきか! この『アビスの魔女』ゾス・サイラの復讐を受けよ!!」