軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1165 ゴロツキ市長の戸惑い

オレは人間国の街の長アリアロス。

何とも妙な展開になっていやがる。

魔国側の街の長……キメリさんだっけ? 彼女をエスコートして物産展を回ろうとなったが、何とも言い難い雰囲気だ。

他国の同じような地位にいる人間だから基本的には礼節をもって接しなきゃいけないし、場合によっては利益が衝突し合う敵だ。

本音は隠さなきゃいけないし、だからこそ腹の探り合いは必須。

コイツは用心しなきゃならない政敵だ。

少なくとも心を許すとかはできない他人同士だ。

そもそも、この女の見た目からしてオレの好みとはかけ離れているからな。

この小綺麗な身なり。かすれ一つない潤った肌。

人生の汚濁など一片もかかっていないかのような輝く瞳。

そのすべてが、コイツが箱入りのお嬢様育ちしてきたって証明だからな。

きっと両親から余す限りの愛情を受けて育ったんだろう。

自身才能もあって努力もして、順序よく階段を上がって今の地位にまで上り詰めたんだろうな。

そんな折り目正しいエリート、人生山あり谷ありのオレから見れば目障りなことこの上ないぜ。

単なる僻みってのはわかってるがな。

こういうのとはビジネス上のドライな関係だけにとどめておきたいものだ。

立場が近いだけあってできるだけ良好な関係を築き上げておけ、という大統領のお気持ちはわかるが。

……こんな接待ごっこ、最後までオレに務まるだろうか?

とはいってもさっきの魔国ブースでは咄嗟に気合入りすぎたけどなあ。

ついついチンピラの勝負好きの血が騒いじまった。ああやってついつい賭け事でも熱くなっちまうんだ。

魔国ブースを出てから、次に訪れたのはエルフやらドワーフやらの屯する小種族たちのブースへとやって来た。

さっき見回った時と同様、エルフとドワーフたちが芸術論で互いの意見を戦わせている。

「まだ言い合っている……飽きないわね彼らも」

キメリ女史も目撃していたか。

まあ、オレのような学のないヤツにとっちゃエルフどもの作る侘び寂び? ってのが到底理解できないできないがなあ。

器だって、食器として使うならもっと使いやすい形にした方が断然いいと思うんだが?

「あら、人族の方々にはわからないようね。あの器のよさが」

なに!?

ということはキメリ女史にはわかるのか!?

あのぐんにゃり曲がって、普段使いだととても扱いにくそうな食器のよさが? あんなのが日々大金で取引されてる狂ったような状況が。

「も、もちろんよ……! エルフたちの作るあの器には、ただに日用品にはない重厚な意味が込められていて、渋くて業物で傾奇者なのよ……! 中でも創始者と言われるエルフの器がことさら名品で……!!」

やっぱり物知りだなあ。

きちんとした教育を受けたお嬢さんはやっぱり違うや。

オレのような無学者じゃあ、どうしてもそこまではいけないから……。

そうだな……これを。

「えッ?」

ドワーフのブースで買った紫水晶のネックレスだよ。

やっぱこれくらいキラキラしてわかりやすくなきゃオレには価値なんてわからねえな。

お近づきのしるしとしてプレゼントしましょう。

どうぞ。

「あ、ありがとう……!」

おや、目をパチクリさせて案外可愛い反応するんだな?

こっちまで照れ臭くなっちまうぜ。

「ほら見てみろ! 恋人が渡すプレゼントとしてもアクセサリーは超一流! お前らの作ってる変な食器なんて贈ってみろドン引きされるぞ!!」

「器は日用品だから、むしろ日常を引き立てるための物なんだよ! プレゼントなんて非日常の領分だろう! それに結婚式の際には引き出物としてマストなのは器の方だろ! 適材適所なの、適材適所!!」

まだドワーフとエルフたちが言い争っているけれど、放っといて次に回ろう。

多分今日中はずっと言い合ってるんだろうなアイツら。

それから俺たちはまた人魚国ブースを回って、山盛りワカメをモリモリ食べた。

* * *

そして物産展を一通り回り終わって……。

意外と超楽しかった。

一人で回った時もそれなりに目に新鮮だったが、二人だと何故だろうか、一人とは違う楽しさが突き抜けた。

何なんだ一体?

おれもいい加減いい大人なのに、十代のガキみたいに浮ついちまうぜ。

おれもここ最近、街の長としてストイックに働いていた分、感性が童貞に戻っちまったか!?

「おッ、戻ってきたね」

戻ってきました。

リテセウス大統領が落ち着き払ってオレたちを迎えてくれた。

「時間もいい感じに進んだから、そろそろこの土地のトップと対面してもらおう。二人ともそのために来たんだろうから」

「「はい……!?」」

そうだな、今日のオレたちにとって何より重要なのは、この土地……未来の農場国とやらになる支配者との交渉をたしかにするためだ。

ここまで来て見て触って、農場国が将来物凄いものになることは充分理解できた。

だったらオレたちとしては自分たち発展のために深いよしみを通じておかなければならないじゃないか。

少なくとも敵に回してはならない。

キメリ女史だって同じ思いでいるだろう。

これから出会う相手にも最大限こちらの友好ぶりを訴え、かつ最低限舐められないように存在感を示していかなければな。

「……あくまで友好を示し、でも舐められるようなことがあってはダメ……」

となりでキメリ女史もぶつぶつ呟いている。

考えは大体同じのようだな。

この人と政策談義をしたらスイスイ進みそうだぜ。

「で、ではまずキメリ女史から会談を……!」

「え? いえいえアリアロス様こそ先に……!!」

代表者との会談で、順番を譲り合うオレたち。

レディファーストという言葉もあるからな。

「いえいえ、アリアロス様にはさっきペンダントを買っていただいた恩もありますから、そのお礼にも是非先に……!」

そんな打算のためにプレゼントしたわけじゃねえよ!

オレはアンタに喜んでほしかったから!

「いや、どっちがあととか先とか、ないよ?」

「「は?」」

「二人同時に会うに決まってるじゃん」

「「はあッ!?」」

リテセウス大統領の言葉にオレたち驚愕するばかり。

「聖者様はお忙しい御方なんだから、一人一人に時間なんてかけてられないよ。まとめられるところはまとめてイベントそのものをコンパクトにするのが時短の秘訣だよ」

そのようなことを言われましても!?

二人で一緒に会うのか?

何とか緊張するな。

これはもはやコンペティションの様相を呈してきた。

二者同時に会談するというなら、競合者よりも印象に残るようにしっかりアピールしなくては……!

「アリアロス様と協力すれば何とかいい印象は……!?」

向こうは協力を想定しているぅーッ!?

ええいクソ! こうなったら乗り掛かった舟だ!

人族魔族、まとめての友好を実現してやるぅーッ!!

「おッ、見えました。あそこにいるのが聖者様です」

「唐揚げぇー、唐揚げはいらんかぇー」

……。

なんだ、あの変な人は?

変な、茶色い塊を山盛りにした皿を持って練り歩いているぞ!?

「聖者様、また奇行に精が出ていますね」

「リテセウスくん! キミもどうかな唐揚げを一つ!?」

なんか想像してたより数段間抜けっぽいんだけど?

この人が、将来世界の中枢となるべき場所を担う支配者。

「皆が物産展に気合入れているのを見たら触発されてね。それで俺も何かしようと思って、最近作ったばかりの唐揚げを出してみることにしたんだ」

「そうなんですかー、……あっつ!? 口の中熱い!?」

「揚げたてだから気を付けてねー」

「口に入れる前に言ってください」

何だろうこの型の力抜けまくった男は?

これが世界の中枢を担う支配者というのか!?

「む!? そこに新たなカップル発見!?」

え?

それってオレとキメリ女史のこと!?

違うが? たまたま一緒にお目通りしただけだが!?

「カップルのキミたちには多めに唐揚げを進呈しよう! 唐揚げは合コンの主役だからな!」

「違うと思いますが」

「俺は、二月十四日には唐揚げを贈り合う習慣をこの異世界に根付かせたいんだ!」

よくわからないことを言われて唐揚げをもらうオレたち。

一口かじってみたらたしかに美味い。

あまりの美味さにキメリ女史とお互い顔を見合わせた。

「この味がいいねといったから今日は唐揚げ記念日! この味をもっと多くのカップルに! 進めぇええッッ!!」

と言って走り去っていく統治者の人。

……あッ、しまった。

キメリ女史と見つめ合っていていて相手の動向を見逃してしまった!?

待ってください! 是非とも我が街との友好的な関係を!

できればキメリ女史とも……!?

オレたちの前途多難な交流は続く。