作品タイトル不明
1163 また違う一般参加者の視点
オレの名はアリアロス。
大層な名前をしちゃいるが、その正体はどこにでもいるただのゴロツキさ。
学もなく、いいとこの生まれでもない。
本来なら路地裏を住処に、うだつの上がらない一生を過ごすはずの男だった。
そんなオレに転機が訪れたのは、戦争の終結。
アレのおかげで一時人間国は大騒ぎになった。
明日にも魔王軍が攻め込んできて男女、老人子どもも区別なく皆殺しにするだろうと。
真っ先に逃げ出したのは、裕福な役人たち。
お国から任命されて街を支配していた連中は、常日頃は重税やら賄賂やらで私腹を肥やしていやがったくせに非常事態となれば何の役にも立たない。
先祖代々から領地を引き継ぎ守ってきた領主様は、踏みとどまって民を守ろうとしていたらしいが、哀れなのは王家や教会の直轄にある街や村だ。
そういう土地を治める官吏どもほど大ボスである王家や教会の腐敗に直接し、自分自身も腐り果てる。
『魔王軍迫る』の凶報を前に、守るべき一般市民を見捨てて一目散に去っていきやがった。
統治者を失った街は大混乱するしかない。
お上から見捨てられてどこへ向かっていいかもわからない、迷える人々が助かるには方法は一つしかなかった。
どんな形でも新しい指導者を掲げ、その下に意志を一つとすること。
終戦直後の人間国は、そうした似た状況の街や村はいくつかあったが、そのそれぞれが様々な形で自分たちの指導者をみずから選び出し、来るべき苦境に備えた。
オレが生まれ育った街も、その一つだった。
彼らが選び取った新しい指導者は、奇特なことにスラムの荒くれ者であったこのオレだ。
それ以前から役人がテキトーな管理しかしないオレの街はスラム化が進んでいて、そうしたスラム地区を牛耳っていたのがオレだった。
人々から泣きつかれて無下にはできねえ。
元々街の大半を占めていたスラムはオレのシマであったため、全体に支配を広げるのはさして難しいことじゃなかった。
ひとまずはオレを頭目として街は平静を取り戻し、いずれやってくる魔王軍を迎えることになった。
街の長になったとはいえ保有する戦力といえばゴロツキばかり。
本職の軍隊に敵うわけもない。
『なるようになれ』と半ばヤケクソで臨んだが意外にも、実際にやって来た魔王軍はオレたちの自治を認めてくれて、そればかりかこのオレを正式な街の長として任命してくれた。
魔王軍からしてみれば問題山積みの新しい支配地で、みずからの手間を割かずに済むならできる限りそうしたかったのだろう。
しかし完全に放置したわけではなく、暴力的な支配者がのさばる街では徹底的に追い込んで、不適格な頭目を放逐した。
そんな中オレには何の音沙汰もなかったので、少なくとも魔王軍からは存在が許される程度に善良な支配者とみなされたらしい。
これ幸いと街の統治に明け暮れて、気づけばあっという間に時が過ぎ去っていった。
時の移り変わりの中で、人間国の主権が人族に戻されるという事件があった。
新しい人間国の王が、オレのようなグレーゾーンの統治者を許してくれるかと一抹の不安もあったが、幸いにもリテセウス大統領は若いなりにも話のわかる男のようで、政変後も変わらず街の統治を任せてもらえた。
中央では、オレのような半グレ統治者は主権回復を機に一掃して、筋目正しいエリートに交代させようという声もあったという。
そう主張していたヤツらは全員、終戦間際に逃げ出した連中で、魔王軍撤退を好機に我が世の春を取り戻そうという魂胆だったんだろう。
しかしそうした声を有無も言わさずしりぞけ、以後蒸し返すことも許さなかったリテセウス大統領は若さに見合わぬ辣腕であることは間違いない。
大統領の手腕と苛烈さは、純粋な力で生き抜いてきたおれにとってはわかりやすくて好感が持てた。
中央の役人どもは上手く操り人形にできなくて疎ましがっているらしいが……。
あんな歯ごたえのある国王なら、喜んで付き従いたくなるものだぜ。
そうやって益々やりがいを覚えてきた昨今。
リテセウス大統領から直々にお声がけがあった。
――『アリアロス市長、アナタに任せたい特別な仕事があるんです』と。
「アナタが統治するサンチョウメの街は、人間国内でもっとも農場国の近くにある街です。いずれはあの国から発する交易品がアナタの街を通して、国内全土にいきわたっていくでしょう」
はあ。
この国王様は、相変わらず難しいこちょばを使うねえ。
若いというのに一体どこで勉強してきたんだろう?
「アリアロスさんはサンチョウメ街の長として、今のうちから万全の準備をお願いします。農場国から人間国全土へと結ばれる貿易ルートのパイプ地点として、それに必要な設備を整えてください」
い、今からですか……?
「今からです。規模が大きいですからね。準備にも相当な時間がかかりますよ」
発破をかけるために少々大げさに言っている。
その当時のオレはそう思っていた。
しかしリテセウス大統領から誘いを受けて物産展……とかいうものに参加して、オレの考えはひっくり返った。
同時にどれだけ自分が呑気だったとしているのかも思い知った。
物産展に集まってきた人、モノ……。
それらはすべて世界最高峰で種類も豊富だった。
リテセウスの若旦那が言うような未来になれば、あんないいものが毎日のように、この土地から発信されていくってことなのか?
そしてその通り道はまず、この国から一番近い位置にあるオレの街。
胃がキュッと鳴るぜ。
オレは知らないうちに、重大な責任を背負い込んじまったみてえだな。
しかし来るなら来てみろ、だぜ。
ゴロツキから始まったオレだが、何年も継続していくことで意外にも統治者としての自覚? とでもいうべきものが芽生えたらしい。
オレの生まれ育った街が発展するならどんとこい!
このオレの任期のすべてをかけて立派で豊かな貿易中継都市にしてやるぜ!
「アリアロスさん、キミに会わせたい人がいるんだけど」
物産展中、オレが山盛りワカメを貪りながら各展示品を見学しているとリテセウスの若旦那に呼ばれた。
「この土地の代表でいずれは国王になられる聖者様なんだけどね。その前にもう一人、キミが会っておくべき人物がいる」
なんですか若旦那?
もったいぶった言い方で?
「魔族のキメリさんで、ロンドメルトの街の知事……といえばキミにはわかるんじゃないか?」
ロンドメルトの街?
それは魔国側にある街で、この農場国にもっとも近い位置にある国じゃないですか……!?
つまりオレの街の魔国版。
オレのところと同じ条件でこれから大発展が見込める街ってことですね?
ともすればオレのライバル関係にもなり得る相手。
いいでしょう。
この目で見て、オレの敵になり得るかどうか品定めしてやりますよ。
そう言って対面した魔国側の街の長は……んぉ、女か……!?
しかも身なりも小綺麗で、いかにも育ちがよさそうなタイプだ。
叩き上げのオレにはタイプが合わねえな……!?
「ロンドメルトの街の知事キメリです」
これは丁寧にご挨拶をどうも。
サンチョウメの街の長アリアロスだ。
ところでアンタはわかっているのかい?
自分の置かれた状況を、この土地が秘めたる可能性を?
魔国人間国……それぞれ農場国の恩恵をもっとも受けられる位置関係の街の指導者が、こうして顔を突き合わせたわけだ。
活動の場が違うのだから競合するってことはないだろうが……。
それでも似たような条件状況……この上で、どちらがより自分の街を発展させたかで、指導者の力量がおのずとわかってくるってことだ。
「負ける気はありませんよ……」
「こちらもです、オホホホホホホ……」
視線の間には火花をバチバチ鳴らしながら、表面的には固い握手を交わした。
……。
小さい手だな、そして柔らかい。
そんな状況を見てリテセウスの若旦那は鷹揚だ。
「さて、肝心の聖者様はまだ物産展の運営管理に大忙しだろうから、しばらくここいらで暇をつぶすといいよ。せっかくだから親睦を深めるという意味で、一緒に物産展を回ったらいかがかな?」
えッ?
そう言われてもオレ、もう既に一通り見て回ってるんですがね……。
いや待て、ここでこの魔族女と行動し、このオレの街の長として修羅場を潜り抜けた威厳と凄みを見せつけてやるってのもいいな。
格の違いを教えてやるぜ!
いいでしょう、このアリアロス僭越ながらお嬢さんのエスコートをお引き受けいたしましょう!
無学の荒くれ物で申し訳ありませんが、お手をどうぞ?