軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1160 まずは体験版

三本勝負のすべてが消化された。

アレキサンダーさんの襲来から始まった様々な騒動が、これでやっと終息するのか。

物産展が成功して人心地ついたと思っていたところへ、まさかの延長戦みたいな展開だからな。

物産展に参加したお客さんは後夜祭で大変盛り上がったような感じだが。

文化祭の終了後みたいな空気になっておる。

「えええー? じゃあウチの宣伝はナシっすかー? むかつくー」

勝負の結果に一人ソンゴクフォンは不満げだ。

しかし他お二人は納得のご様子で……。

『弁えなさいソンゴクフォン。最初の取り決め通りだ』

「私も今日は楽しかった……」

アレキサンダーさんも家令さんも満足されていて何より。

あとはソンゴクフォンが納得してくれれば丸く収まるんだが……。

「このアホの納得など必要ありませんマスター。速やかに滅殺し、叩き出しましょう」

ホルコスフォンが怖いこと言ってる。

とはいえ、このまま何の成果もなしにアレキサンダーさんたちを追い返すのもなあ。

日ごろからお世話にもなっているし、何より折角頼ってくれたのに手ぶらで帰しては不甲斐ないと思うんだ己を。

「やったー! さすがは聖者さんっすー! 皆の気持ちを裏切らないー!!」

「マスター、この手のヤツは甘い顔をすると際限なく付け上がりますよ?」

さっきからホルコスフォンの対応が厳しい。

「しかし、あまり聖者に負担をかけるのも心苦しいのだが」

「もー、そんな固いこと言いっこナシっすよアレクさん! 向こうが率先していらぬ苦労を背負ってくれるって言うんだから、こっちはおんぶにだっこで行きましょうよー!!」

だからアレキサンダーさんをその呼び方するのやめろって言ってるだろ!!

勝手に電気消されるだろ!!

「しかし、肝心の物産展も終了してしまったんだろう? ここまで大騒ぎしてやっと現状を受け入れることができたが、その分時間も進んでしまったし益々難しいのでは?」

そうは言っても物産展の参加者たちは一人も帰らず後夜祭を楽しんでいるので、手遅れかって言うと何とも言い難い状況。

魔王さんもまだ帰らずマモルさんと一緒に飲み明かしているので……予定がズレてまたルキフ・フォカレさんに負担がかかっていないかなあと心配になった。

とはいえ皆もうオフモードになってしまっているし、この短い時間で宣伝というのも効果的ではない気がする。

するとどうすればいいのか……?

『……こういうのはどうでしょうかな?』

先生?

何かいいお知恵があれば授けてください!!

『アレキサンダー殿たちは自ダンジョンの宣伝を行いたいそうですが、宣伝したいなら何も今日のみに身にこだわる必要はありません。むしろ宣伝とは日にちを懸けて継続的にしてこそ効果を生むもの』

うむ……。

たしかにそうですが……。

『なので、今日のイベントにかかわらず継続的にできる宣伝を試みるべきではないでしょうか? 聖者様ならそうしたアイデアもポンポンと出せるのではありますまいか?』

いや先生、ポンポンは持ち上げすぎですよって。

しかし継続的な宣伝か。

それは、今この状況にもこだわる理由がなくなり、アレキサンダーさんたちもひとまず帰ってくれそうで俺たちサイドとしてもありがたいんだが……。

「えー? まだ帰りたくないっすよー。もっとすべてが混沌の極みになるくらい楽しんでから帰りましょうぜぇー」

この天使……!?

『そうだ! いいことを思いつきましたぞ!』

どうしました先生!?

唐突に叫ばれた『私にいい考えがある』的なセリフで本当にいい考えが浮かんだためしなどないが先生だけは例外!

『アレキサンダー殿ほどの膨大なるマナをもってすれば、何もない平地にもダンジョンを発生させることは可能でしょう?』

「それは……まあ、ガイザードラゴンが龍帝城を発生させる手法でもあるし」

ガイザードラゴンとは、ドラゴンの頂点に君臨する竜の皇帝。

濁点が多いのはその方が強そうだからとかなんとか。

そのガイザードラゴンが居城とする龍帝城は、城主となる竜の皇帝が噴出させるマナ百パーセントで構成される。

他の一般的なダンジョンが、自然のマナの滞留によって発生するのに対してだ。

いわば自然現象の一種であるダンジョンの発生をたった一個の生命が真似できるという点でドラゴンの凄まじさがわかるというエピソードだが……。

そして目の前のアレキサンダーさんは、ガイザードラゴンを遥かに上回る能力の持ち主で、自分自身のマナでダンジョン発生など容易に可能。

ご自分の『聖なる白乙女の山』も自然マナをそこそこに自分のマナで十倍近くの規模に増築しているんだとかなんとか。

『アレキサンダー殿のマナ総量なら、それでもまだまだ……全然まだまだ余剰はありますでしょう。そのマナを使い、遠方にまた別のダンジョンを拵えてみては?』

「別のダンジョン?」

そんなことしてどうするんですか先生?

アレキサンダーさんは自分のダンジョンにもっとたくさんお客さんを呼び込みたいのに、別のところにダンジョンを作ったらお客が分散されるじゃないか。

『もちろんちゃんとした形のダンジョンは作りません。あくまで小規模な……そう、ちょっと体験してもらうようなものを作るのです。アナタの本体のダンジョンを』

そうかそれは……!

それは体験版!!

ゲームを買う前に、そのゲームが本当に自分に合ったものか、面白いか。

それを確かめるためにはパッケージや内容説明だけではどうしても確信を得られない。

そんな時こそゲームの序盤だけをプレイできる体験版は本当に便利だ!

ユーザーにとっては大事なお金を空費せずに済む重要なリスクマネジメントになるし、企業側にとっては商品を知ってもらう間口広げにもなる!

そう宣伝!

体験版こそもっとも効果的な宣伝といえよう!!

「なるほど先生! 実に効果的な宣伝アイデアを出してくださってありがとう! たしかに口で説明するよりも実際に体験した方がわかりやすいな!!」

『三賢の叡智に感服いたしましたぞ!!』

アレキサンダーさんだけでなく家令さんもエキサイティング。

『縮小版でまずは我らが「聖なる白乙女の山」を知ってもらい、興味が出れば本体へとお越しいただく。中には遠方からくる御方もいるでしょうから、確実に充実できるとわかっていなければ動きづらいでしょうからな……! そういう意味でも先生のお考えは素晴らしいものです!!』

俺ならナイスアイデアを出せるという流れで出発しながら結局は全部先生が発案してくれた。

体験版ダンジョン……!?

まあ普通に体験版のダンジョンとかどうなの? という気持ちがないではないが、アレキサンダーさんとこみたいに友好的ならアリよな。

具体的に想像してみるなら第一階層のみを攻略できて、ここから先は本体まで来てください、みたいな?

「それではその体験版ダンジョン!! この地に立てさせてもらうとしよう!」

ええッ? なんで!?

この地って、ここ農場国に!?

「体験版とは言えダンジョンなのだから、迂闊な場所に立てては近隣住民の迷惑になりかねんからな。その点、聖者の管理している土地なら安心安全。それにこの辺りはこれから国ができて人々の出入りが活発になるんだろう? 持って来いではないか」

アレキサンダーさんの指摘も……もっとも……。

この辺りは平坦な土地で自然マナの滞留も起こりづらい。

従ってダンジョンもなく、その点安全な場所とも言えなくもないが……。

その土地にダンジョンができるってこと?

界隈にダンジョンがないってことは安全だという利点もあるが、逆にダンジョンがあることによって生じる利点もある。

ダンジョンは特殊な素材の宝庫だからな。

拾得物やモンスターの身体の一部など、特産品として高値で取引されることもよくある。

近辺にダンジョンがないこの土地は、安全であることと引き換えにダンジョン素材を得られない寂しさもあったが……。

「アレキサンダーさんのおかげでそうでもなくなるってこと?」

農場国の土地利点が増えたぞ!?

まわりまわって福となす!?

「はぁー、なんか上手いこと話がまとまりそうっすねー、つまんねえぇー」

傍から見ていたソンゴクフォンが不機嫌そうに言う。

つまんねぇってなんだよ。

「だってぇー、せっかく退屈しのぎになりそうなイベントが始まったのに、もうお仕舞なんて萎え萎えっすよー。ここから全百話に及ぶくらいの壮大なスペクタクルを期待してたのにー」

百話仕立てなんて無茶仰る。

そりゃもう早大長編になるじゃないですか。

「やっぱ世の中はスリルショックサスペンスっすよねー。なんか退屈を吹き飛ばすような面白いことねえかなぁー」

「ほう……、退屈はお嫌いかい? だったらアタイが飛び切りのスリルを提供してやろうじゃないか?」

「へ? 誰……えッ!?」

ソンゴクフォンの背後に立っていたのは……パッファ。

現人魚王妃のパッファじゃないか。

どうしてここに?

「旦那様から知らされてね、転移魔法で飛んできたのさ文字通りね」

「ねねねねねねね、姐さん!?」

ソンゴクフォンとパッファは、かつて人魚王子時代のアロワナさんの武者修行を支えた旅の仲間。

パッファは姉のようにソンゴクフォンを保護、監督していたとか。

「しばらく会わないうちに、何ともフリーダムになったようだねソンゴクフォン? こりゃあアタイの再教育が必要なようだ」

「いやあののののの……姐さん。姐さんのお手を煩わせるまでもないかなーって」

「それを決めるのはアタイだよ! しばらくアタイの傍にいな! 改めて世間の仁義ってものを叩き込んでやるよ! それこそ退屈とは無縁の暮らしをさせてやる!」

「ぎゃあああああッ!? 姐さんヘルプ! ヘルプミぃいいいいいいーッ! 」

こうしてソンゴクフォンはパッファによって連れていかれ、すべてが丸く収まった。