作品タイトル不明
1146 唐揚げにかけるもの選手権
唐揚げの話をこれだけで終わらせてしまうのはもったいない。
俺はとりあえず、農場での今夜の夕食に唐揚げを出してみた。
唐揚げを前にしたジュニアやノリトの反応。
「ほっきょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
「うほぉおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
想像以上の反応。
やはり唐揚げは、子ども心を熱狂させるのか?
子どもが喜ぶ食卓の品。
ハンバーグ、カレー、オムライス、麺類……。
それらに食い込む求心力が、唐揚げにもある!!
「昼間ヴィールとゴソゴソやってると思ったらこれ作ってたのね?」
プラティが言う。
胸元で三男ショウタロウをあやしながら。
ショウタロウはさすがにまだ唐揚げを食せる年頃ではない、目の前を不思議そうに眺めるばかりだった。
もう少し大きくなったらたくさん食べような。
「ごぶごぶごぶごぶごぶごぶごぶごぶごぶ!」
「ばくばくばくばくばくばくばくばくばく!」
そして既にドカ食いしている小さき者たちがいる。
長男ジュニアにも次男ノリトにも唐揚げは大盛況だ。
さすが唐揚げは若者たちだけでなく子どもにもマストのアイテムだぜ。
特にジュニアは歳の割に悟ったところがある子どもなので、こうして年相応なところを見られると父親として安心するな。
息子の幼いところを見たければ唐揚げか注射器でも出しておけばいいか。
「どれどれアタシも……、あむ」
サクッとプラティの口元で上手そうな音が鳴る。
「うめぁああああああああッッ!!」
そしてリアクションは激しかった。
三児の母と成長しても、ここまでセレブなマダムとはいかない。元から彼女は粗暴だ。
「これはいいわね、中の肉までしっかり味がついていて何もかけなくても美味しいわ! 肉汁たっぷりの鶏肉に、小麦粉まぶした衣を油で揚げる! つまり肉・油・炭水化物とカロリー三要素を取り揃えて美味しいに決まっているわ!!」
カロリーが高いものほど美味しい理論。
しかしその理論はなかなか正しさが立証されていて、多くの人間が『痩せたい、でも食べたい』ジレンマに呻いている。
「うーん、でもアタシには脂っこいのがちと気になるわねえ。若い子にはちょうどいいのかもしれないけれど」
ついにプラティも『もう若くない』発言をするようになったか。
「そうだ、いいことを思いついたわ!!」
そう言って懐からレモンを取り出すプラティ。
懐から?
そしてレモン丸々一つを握り潰してブシャーと果汁を飛散させる。
お前もか。
「コッテリした感覚は、正反対のアッサリで打ち消せるのよ! すっきりとしたレモン果汁をぶっかければあら不思議、唐揚げの油の感触も打ち消せていくらでも無限に食べられるわ!」
無限には食べるな。
しかしさすがプラティ、みずからレモンをかける食し方を編み出すとは。
伊達にこれまでも数えきれない異世界料理を賞味してないな。経験値が生きている。
「ままー、レモンだめー」
「レモンなんてかざりですよー」
しかし子どもたちから抗議の声。
だろうな、彼らの若い消化器官なら、油もかまわず胃酸で溶かしつくすだろうしな。
よってより若い者たちの好みはコッテリとした油味になるのだろうから、ここで世代間の対立が勃発!!
「違うわよ旦那様!」
うおッ、妻からの抗議。
「これは性差! 世代差じゃなく性差よ! 男どもコッテリしたものばっかり好みやがって! 女の子は違うの! スウィーツなもの、アッサリ爽やか系が好みなのこの男と女の価値観はどう足掻いても埋めようがないのよ!!」
……いや、性別じゃなくて年齢の問題だって。
いい加減俺たちもおっさんおばさんであることを認めようよ。
そしてすべての唐揚げに見境なくレモン汁ブシャーするのやめよう?
すべての争いの元だから。
こうして異世界でも繰り広げられる、唐揚げにレモンかけるかかけないか論争。
家庭単位でも勃発するものだから、間口が広がればさらなる混沌が繰り広がる。
「んおッ!? 何事だ!?」
外に出てみると大賑わいになっていた。
オークもゴブリンもエルフもワイワイガヤガヤ。
その中心にはヴィールがおるではないか。
しかも何物かを抱えて……。
「ヴィール、おぬし何をしてるんだ?」
「おお! 下々の者たちに唐揚げを振る舞ってやっていたのだ! 施しは強者の務めだからな! がははははははははー!」
いつの間にか施す側に回っていたヴィール。
その手に載せられているのは、唐揚げ山盛りの大皿であった。
いや山盛りどころか大山盛りに盛られ盛られている。
男子寮の夕食かってぐらいに盛られまくりだ。
「ほらお前らー、このヴィール様の恵みを受けるのだー。順番に一人ずつ唐揚げをいただくがいいのだー」
と農場住みの皆は行儀よく一列に並んで一人ずつ唐揚げをもらっていた。
……炊き出し?
ヴィールもみずから料理スキルを習得して、作り方さえ学習できればすぐさま自分でも作れるようになったからのう。
だからこそ行動が俺の制御を外れるというか……。
成長を喜んでいいのかどうか……。
それで肝心の皆様の唐揚げについての評価だが……。
「うめぇええええええッ!!」
「またしても聖者様の新料理うめぇええええッ!!」
「油油油! 衣と油と肉の油の絶妙なハーモニーぃいいいッ!!」
大変好評のようだ。
しかし中にはやはり唐揚げのコッテリさ加減が気にかかるのか、レモンでサッパリさせようという輩も出現。
「おいッ!? 唐揚げは油のコッテリしたのが美味しいんだろう! レモンで打ち消すなんて邪道だ!!」
「何よ! 食べ方なんて人それぞれでいいでしょう!? 多量すぎる油に私の胃は耐え切れないのよ!!」
そうだな……食べ方はそれぞれのスタイルでやり方は自由だからな。
自由だとは言ったが、その傍から……。
「マヨネーズ、オン!!」
現れた。
唐揚げにマヨネーズをかける者たちが。
そちらについても予想していたが早速現れたか。
油(鶏肉)を油(衣)で包んだものに 油(マヨネーズ) をオン!
この素晴らしい油三昧のはたしかに食いしん坊の食べ方。
しかし業が深すぎる。
「やめるんだ! そんなことをしたらカロリーが許容量を超えてオーバーロードするぞ!!」
「そんなことわかっている! でもやめられないんだ!!」
周囲で繰り広げられる愁嘆場。
その他にも唐揚げにかけるとすれば塩コショウ、ハーブ、カレー粉など。
しかし何故唐揚げにそこまで何かをかけようとする?
そもそも唐揚げには最初から味がついているんだぞ?
しかしそれでも唐揚げに新しい味を加えようとする濃い味追及者たちがここまでいるのか?
もともと味がないならまだしも、何故味があるものにまた味を足すのか?
そんな人を狂わせる何かが含まれた魔性の食い物、それが唐揚げなのかもしれぬ。
こんな話がある。
とある神々の宴に、唐揚げが放り込まれた。
その唐揚げに、ある神はレモンをかけると言い、また他の神はマヨネーズをかけると言い、さらに別の神は何もかけずに食べると。
その意見の対立は最終的に神々の戦争にまで発展したとか。
ウソ話。
しかしそれほど人を惑わせる魔力を秘めた食べ物が唐揚げということだろう。
その唐揚げにフライドポテトを加えて、肉&油に炭水化物&油。
油と油を兼ね備えた宴会の主役セットが完成した!!
これで次回からの更なる合コンはより完璧なものになるぜ!!
王様ゲーム開催も夢じゃねえーッ!?
え? もう既に一回開催したのにまだ合コンを繰り返すのかって?
もちろん、農場国に独身者がいなくなるまでやるよ!!