軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1143 質問タイム

私は娼婦リターシエラ。

合コンとやらはまだまだ続くわ。

「さあ合コンといえば酒! 酒を飲んだら気持ちも楽しくなって打ち解けやすくなる! 先に出したフライドポテトによく合う酒となればやっぱりビール!!」

そう言って差し出された酒杯になみなみ注がれた泡立つ飲み物。

これは……これも美味しいわ!?

キンキンに冷えたお酒の舌触りに、シュワシュワに泡出つ喉越し。

その泡と冷たさが、口内に残ったフライドポテトの油っぽさをサラリと洗い流すわ!

たしかにビールとフライドポテトの相性は抜群!

こんな最高の取り合わせは、王都の料理店でも容易には味わえないわ!!

「はい! 八番テーブル少々お待ちください!」

「なんで旦那様一人だけで給仕してるの?」

恐ろしい……!

改めてこの農場国とやらを恐ろしく思ったわ。

未開の辺境だとばかり思っていたのに、現地で待ち受けていたのは王都に勝るとも劣らない、洗練された建物に食べ物。

生活の質は、王都よりこちらの方が上かもしれないわ。

都落ちと思ってこちらに移ってきた辺境が、こんなにも居心地いいなんて私も他の娼婦たちも完璧に想定外だったわよ。

娼館主の姉さん……まさかアナタはそこまでわかった上で私たちを送り出したというのでしょうか?

いくらアナタでもそこまで計算はできないと思うのに、心のどこかではありえないことでもないと疑う自分がいる。

そんな完璧すぎて戦慄の走る開拓地だけれども、不満の一つもないとは言えないのも真理よね。

住んでよし、食べてよしの開拓地に唯一わだかまる不安といえば……。

……目の前にいる男たちかしらね。

「あッ、あの……いい天気ですね」

「ええ、まったく。おほほほほほほ……」

「あはははは……!」

「あら、杯が空いていますわ。お注ぎいたしますわね」

「かッッ!? かたじけないッッ!?」

私たちを前にガッチガチに緊張しまくっているわ。

それもそのはず。

彼らはこの開拓地へ流れ着いた男たち。

噂では冒険者の中から希望を募ったと聞いているけれど、それで応募したとすれば冒険者としてうだつの上がらない人たちであることはわかるわ。

だって冒険者として一定の成功を収めているなら、あえてその道から外れて開拓というまったくの別分野にチャレンジする必要はない。

いくら冒険者がチャレンジを尊ぶ職業だとしても。

ここに並んでいる男たちは、……言葉を選ばなければ……冒険者として成功できなかった人たちともいえるわ。

つまり経済力もそこまでではないということ。

懐の寂しい人たちが一晩数十万数百万とかかる高級娼婦なんて触れたくても触れられない。

そんな手の届かない相手が目の前に現れたら、それは緊張するに決まっているわよね。

彼らのガチガチッぷりは、そういうものだろうと私は分析したわ。

でも勘違いしないで。

私は彼らをバカにしているわけじゃないし見下してもいない。

私はプロの娼婦。定められた料金を払い、お国が決めたルールとお店が定めたマナーさえ守っていただければ誰であろうとお客様よ。

そしてお客様には全身全霊を込めたサービスをする。

私はそうしてナンバーワンにまで上り詰めた。

この土地でだってやることは変わらなかった。

今回の開拓地への移籍。

その顧客は国そのもので、クライアントの意向に沿って現地の労働者たちを慰めるものだと理解していた。

客と娼婦。

そうした関係性であれば彼らもここまでは及び腰にならなかったはず。

『お金を払っている』という優位性は、人の心にそれ相応の余裕を生み出すものだし、そうした人たちの緊張をほぐして楽しんでいただく術を私たち娼婦も獲得しているのだから。

それなのにここの主は、そうした互いが気楽に楽しむための形を壊し、よくわからないものを代わりに持ち込んできた。

何が合コンよ。

定まりきった形式を引き継いだ方が誰だって楽でしょうに。

ただでさえ開拓作業で大変だろうに、これ以上に試行錯誤の領域を増やしてどうしようというのかしら。

それにさっき奥方が言ってたことだけれど、私たちのことを『嫁候補』だなんて、ますます的外れなことだわ。

私たちは孤独な殿方のために一晩限りの愛をひさぐ宿り木。

これまで多くの男たちが私たちに留まって羽を休めていった。

そんな私たちが一人に定まるなんてありえないのよ。

私が内心で嘲笑っていると、当の本人は今なお必死なようで、自分の主催したイベントを完遂させようと推し進める。

「さあ、次は質問タイム! お互いのことがわかってこそ気持ちは近づく! 皆さん、相手の知りたいことをどんどん質問していきましょう!!」

なぜこんなに終始テンション高めなのかしら?

しかし促されたからには乗らないわけにはいかない。

「ご……ご職業は?」

「娼婦です。そちらは?」

「開拓者を少々」

目に見えた進展はなかった。

質問するにしても、何故最もわかりきっている職業のことを聞くのだろう?

そんな中、例の土地主だけは暑苦しさ全開で……。

「皆さんシャイなので、質問したくてもなかなか言い出せないですよね! そこで! 話が弾むように質問テンプレート集を用意してみました!!」

と言ってなんか大きな看板のようなものに、ずらっと質問内容が書き連ねてあった。

――『趣味は?』

――『休日の過ごし方は?』

――『好きな食べ物は?』

――『好きな動物は?』

――『好きな本は?』

――『好きな映画は?』

――『好きなタレントは?』

――『好きなミュージシャンは?』

――『出身地は?』

――『将来の夢は?』

――『デートに行きたい場所は?』

――『好きなタイプは?』

――『プレゼントされたら嬉しいものは?』

――『なくなってほしい税金は?』

――『火事の時絶対に持ち出したいものは?』

――『生涯最期に言いたい言葉は?』

――『好きな偉人の格言は?』

――『好きな戦国武将は?』

――『好きなスタンドは?』

――『好きなMSは?』

――『好きな卍解は?』

他多数。

なるほど。

ここに書いてある内容に沿って質問していけばよりスムーズになるってことね。

しかしあれだけ多くの質問内容を列記した分だけ大きくなった看板、どこから持ち出したのかしら?

「さて、ではより質問を進められるようにサイコロを用意しました。これによって出た目で質問内容を決めていきましょう。ランダムに頼ればそれだけ公平性が増す!!」

「十面ダイスとか目じゃないくらい面だらけなんだけど?」

奥様からのツッコミを華麗にスルーし、サイコロ……というより極めて球体に近い多面体をソイヤッと投げる。

「何を出すかな♪ 何を出すかな……♪」

なんでいかなることに対してもテンション高めなのかしらこの人?

「さあ! 最初に質問が決まりました!『君たちはどう生きるか』です!!」

そんな風にして質問内容が決まり、各自で交わしていく。

付き合わされた数十人の男女はぎこちないながらも問い答え、その返答内容によって意外にも一喜一憂し、会話が弾んでいった。

一見やぶれかぶれのようでいて、まさかの良策だったようね。

問答は、一番れっきとした会話なのだし、無理やりにでも質問内容を考えて回していけば流れも自然に乗っていくというものよ。

「よしよし、いい感じに場が温まってきたな。それではいよいよ合コンのド定番、王様ゲームを満を持して……」

「ストップ旦那様。そのゲームそこはかとなくセンシティブな匂いがするので控えましょう」

次の質問が決まったわね。

……出身地。

また話しにくい内容が出たわね私にとっては。

何しろ故郷の思い出なんて、娼婦になるために王都へ送り出される以前のものしかないし。

現地で過ごした記憶もなければ思い入れもないとなれば、話題となるべきエピソードもなくて会話が弾まないのは必定だわ。

仕方ない、ここは包み隠さず正直に『幼い頃に離れたので、あまり思い出もないんです』と明かして次の質問に進もう。

別に隠す気もないから生地を教えることには何の抵抗もないから。

「ははぁ……えッ?」

すると突然、向かいに座っていた男性の一人が異様な反応を示した。

まるで信じられないものにでも出くわしたかのように。

その態度の原因はすぐに、彼自身の

「お姉さん……オレと同じ村の出身なのか?」

「えッ、そうですの?」

これはたしかに『まさか』だわ。

こんな地の果てのような場所で同郷の人と遭遇するなんて。

そうとわかると、さすがの私でも浮足立った。

私みたいに思い出もほとんどないというのに、同じ出身地の人に会うと俄かに興奮するのだから故郷とは不思議なものね。

しかしよくよく見るとこの男性、私と同世代っぽいじゃない。

あまり大きな村でもなかったし、もしかしたら子どものころに会ったことがあったりして。

…………。

…もしや?

「マーくん?」

「トミアちゃん!?」

もしやどころの話ではなく、彼はもう数十年間一度として会ったことのない幼馴染だった。