作品タイトル不明
1122 話をまとめる力
「うぐおおおおおお……!?」
「よよよよよよよよよ……!」
「魔族が……地上最強たる我が魔族が……!?」
うーむ。
やりすぎた?
改めましてここは魔王城の会議室みたいなところ。
そこに集められた魔族の大臣さんたちに、聖者こと俺を紹介して仲よくなろうぜ!……という趣旨であったはずなのに。
その大臣さんたちがいつの間にかまとめて薙ぎ倒されて撒き散らされて、倒れ込み痙攣している。
一体何故こういうことに?
「ご主人様を信じねーからこうなるのだ。自業自得固めなのだー」
『信じぬ者は救われぬのう……』
先生とヴィールが虫けらを憐れむような眼で見ておられる。
それもそうだ。
俺が登場した当初に『こんなのが聖者なわけねーだろ!』とクレームをつけてきた方々。
それもこれも俺自身のあまりにも凡庸な、オーラのなさが問題なんだろうが。
それでも俺のことを承認いただかなければ農場国の発足も進まないってことで、無理にでも受け入れてもらう他なかった。
そこで一つの証拠としてドラゴンであるヴィール、ノーライフキングの先生をお呼びして証言してもらおうと思ったんだが……。
薬が効きすぎたというか……!
まあ人類を遥かに超える絶対者の威圧を受けて、立っていられるだけでも生半可な人間には難しいことだ。
腰砕けになり、膝が大爆笑して、中には乙女のように失神する者すらいてもおかしくない。
そんな様子を見て、この場の主たる魔王さんは……。
「フッフッフッフ……」
何故か不敵に笑いだした。
「……失敬、いやいつも豪勢な城の奥でふんぞり返っている連中が、最強者を目の当たりに恐れふためいている姿は案外に爽快でな」
その恐れまくっている人たちはアナタの部下なんですけど、いいんですか?
「我ら軍部としても、安全な内地から動こうともしないお偉方には思うところがあるからねえ。僕たちが前線で死に物狂いで戦っている時に何をしていたんだと……」
「ベルフェガミリア様! 今や魔王軍の頂点に立つアナタからそんなテンプレ軽はずみな発言をされては困ります! 内政には内政の苦労があるんですよ!!」
向こうでは迂闊な発言をされている魔軍司令ベルフェガミリアさんに大慌てで取り繕うマモルさんもいた。
さらにはその内政の頂点に立つ宰相ルキフ・フォカレさんが煤けた表情で、遠くの虚空を眺めていた。
……。
傍から見ている部外者の俺でも、この状況が不味いということが大いにわかった。
端的に言って大壊滅ではないか。
俺はただ単に顔合わせさえできればそれでよかったのに、どうしてこんなにカオスなことになっているんだ?
「我ら……我ら魔族は最強ではなかったのか?」
「戦争に勝ったというのに……!?」
「世界は何故こうも私たちに厳しいんだ……!」
人間国との戦争に勝って、地上を制覇した種族という大いなる自信が彼らにはあったのだろう。
それを、ものの見事に粉砕されてしまった。
俺という存在によって。
それはアイデンティティの喪失にもなりかねない衝撃的なもので、こうなったからには俺たちと協力して新国建設どころの話じゃなくなる。
このままではいけない。
フォローだ、フォローしてこの荒みきった空気を何とかしなければ。
「注目ーッ!!」
俺はあえて大声を出して、周囲の視線を集めた。
幸い混とんとした状況だったせいか、彷徨っていたいくつもの視線は容易に俺の下へと吸い寄せられていく。
さて、こうして注意が集まったところで俺は何をすべきだろうか?
俺は、両腕を高く掲げ、まるで天を支えるかのごときポーズをとると、その手先を右と左に合わせ、鋭い頂点を作った。
その形はさながら……
「……モミの木!」
「「「「?」」」」
よし、掴みはオーケー。
ここから俺のトーク力をもって、この重苦しい空気を吹っ飛ばす。
「えー、……はい」
ん゛、う゛ぅん!
咳ばらいを一つ。
「魔国の大臣の皆さん。本日はお日柄もよく、大変ショッキングなことであったと思います。自分たちの力で勝利したとばかり思っていた人間国との戦争、実は俺の協力があってこその勝利だったと。自分たちが地上最強とイキッている中で唐突に、自分たちを遥かに超える最強の存在を知らされる……」
こんなショックはなかなかないことでしょう。
「ちょっと聖者様!! その発言、傷口に塩塗り込みまくっていますよ!!」
「聖者くん、追い込みがキツいねー。痺れるぅー」
傍から飛んでくるマモルさんの注意に俺は驚く。
そんなッ! 場を和ませるためにまずは状況確確認と思ったのに!?
よ、よい、このまま続けるぞ。ちゃんと巻き返しの準備はしてあるんだ!
「しかし、だからと言って魔族の皆さんがしてきたことが、まったく無意味というわけではありません。魔族たちは魔族たちで、みずからの平和を勝ち取るために一生懸命戦いました」
俺が少し手心を加えたからと言って、すべてが俺の手柄になるわけではない。
「重要なのは協力。そう皆で力を合わせて進むことこそ重要なんです。一人一人の力は小さいものでも、それらを掛け合わせることで強大な力となり、どんなことでもやってのけることができる。それが一番大事なんです」
「ご主人様の言う通りなのだー」
『一個の力ができることなど、たかが知れておりますからのう』
ヴィールと先生も同意してくれている!
頼もしい!!
「世界で一番説得力のない連中なんだが」
よし、ここでとどめの逸話攻勢だ!
この状況にもっとも相応しい過去話を披露することで、俺の知識に引き出しの多さをアピールしつつ、普通に話すよりもより心に響きやすくするんだ。
協力!
一致団結!
それらを主張するのにもっともマッチする逸話は……アレだ。
「ここに一本の矢があります」
どこから出した?
という疑問は抜きにして、とにかくこの一本の矢を元に話を進めます。
「この一本の矢は……」
ベキリ。
「このように簡単にへし折ることができます。そして今度は、ここに三本の矢があります」
ベキベキベキリ。
「たった一本ならば簡単に折れてしまう矢も、三本束ねれば決して折れることはありません! 人間もまた同様、一人一人は弱くても寄り添い助け合えばけっして折れることはない!!」
「今折れたよな……?」「思いっきり折れたな?」「一本の時と同じくらいのスムーズさでまとめて折れたよな?」
なんかドリフのコントみたくなってきたぞ?
三本なら折れないと思いきり力を込めたんだけれども見事にベキベキいってどういうこった?
ちょっとこの逸話の元になった人に『実際はどうだったんですか?』と問い合わせたいんだが、どちらに電話したらいいですかね?
「ご主人様には負けないのだ! おりゃー! おれは五百本へし折ったぞ!」
『ワシもたまにはハッスルしてみるかのう。ホイと六七八本じゃ』
ヴィールと先生気軽に記録に挑戦しないで!
今現在その矢は一人の人間になぞらえられてるんです!
話としてはいい感じにまとまるはずだったのに、現物を用意してしまったおかげでまったく上手くまとまらない!
ここから同軌道修正していけばいいかと焦るばかりのところ……。
「感動したぁーーーーーッッ!!」
いきなり場に切り込む大声が!?
これは……魔国宰相であるルキフ・フォカレさんの声!?
「これほど強大な力を持つ聖者様でも、協力と団結の心を忘れない! その姿勢こそが素晴らしいと思わぬか! 我々も大いに見倣わねばならん! 人は一人一人では何の力もない! まとまってこそ大いなる能力を発揮できるのだ!!」
「そうです! 魔族だけに限らず人族、人魚族とも協力し、より大きなことのできる世の中となっているのです! さらにそこへ聖者様までもが協力してくれる! これ以上よいことはありません!」
便乗して四天王のマモルさんも捲し立てる。
そうか、あの二人もこの崩壊寸前の空気を察して何とかしようと焦っていたところ、俺の話に望みを懸けて何が何でも乗っかろうとしているんだ!
多少の綻びがあったとしてもゴリ押しで乗っかる!
何故ならそれができなければ俺と魔族が決裂してしまうから!!
苦労人の二人だからこそわかる呼吸なのだ!!
それを聞いて暗黒顔の大臣たちも……。
「そうだな……、これほど強力な聖者様ですら協力と団結を第一に考えておられるのだ……」
「矮小なる我々こそが、力を合わせなくてなんとしよう!」
「これまでの我々が傲慢すぎたのだ! 今一度初心に帰ってみなと力を合わせて進む道を模索していかねば!!」
よかった。
上手いこと持ち直してくれた!
紆余曲折あったが、さすがは俺のトーク力!
見事、状況を取りまとめてくれた!!
後ろでルキフ・フォカレさんとマモルさんが安堵のため息をついていた。