作品タイトル不明
1119 そして伝説が
私は魔国の重臣アーミガ。
ただ今絶賛我が主君によって召喚中。
で、なんで呼び出されたかっていうと何だっけ?
せいじゃ?
せいじゃとはなんだ?
正邪か?
正しいか悪いかと問われれば、我々は正しい方にいると胸を張って言えるが?
そうじゃない?
だったら生者か、ってこと?
そりゃ我らはみんな生きている、生きているからヤバいんだ!!
そうやって私が混乱していると我々家臣団の中からおずおずと手が挙がり……。
「あの……魔王様? よろしいでしょうか?」
「うむ、発言を許す」
「聖者というと、昨今巷の噂となっている、あの……!?」
なんだ重臣たちの中にも知ってる者がいるってことか?
「この世界のどこかにいるという、偉大な知恵と強大な力を持ち、その気になれば世界を七度焼き払うことができるともいう……!?」
「んなことしませんがッ!?」
突然色めき立ったのは、あのぼんやりとした異種族の男だった。
一体なんだ? とこちら側が聞き返すよりも前にルキフ・フォカレ卿に引っ張られて座り直されたので、それ以上追及できなかった。
……で、聖者って何なん?
周りの同格重臣たちにこっそり聞いてみたら……。
「うむ、巷間に飛び交っている根も葉もない噂話の一つでな。この世界のどこか……誰も知らない聖域に住まう超越者がいるとのことなのだ」
ほへー。
それが聖者?
「聖者の力は絶大で、人の常識に収まり切れぬほどであるらしい。この世界でもっとも恐ろしいドラゴンとノーライフキング……いわゆる二大災厄ですら聖者に逆らわずに従属しているという」
「聖者がその気になれば世界を滅ぼすことすら容易いと。しかしそうしないのは聖者が慈悲深く、大らかな性格で、この世の生きとし生けるものを憐れみ愛してくださるからなのだとか」
なんと、そんな荒唐無稽な輩が実在するものなのか?
「所詮は民草がさえずる噂で、事実とは関わりがないと思っていたのだがな。ズムリムベラカムとか、ギポポブロンコとかみたいに」
え?
そっちはそっちで何?
「しかしいつぞや、戦場に乱入してきたドラゴンが聖者の名を語ったり、人間国の王都の電撃占領で戦争終結したのがその直後だったりと上層部の間でも興味ある噂として飛び交っていた……」
「もしや、我ら魔族が戦勝したのは聖者の援けによるものではないかと」
「実際、真聖剣でしか壊せないはずの人族の神聖障壁を、どうやって破壊したかは今もって謎だからな」
へー。
戦地ではそんな噂が流れていたのか?
なんで私はそれ知らないの?
いや……私は内政に全力を傾けていたから。
とにかく、そんな実在も定かでない聖者が、本当に存在していたというのか!?
だからこそ魔王様が公開しようと仰られるのであろう!
魔王様は我ら魔族の頂点に立つ御方。
その御方が言うことであれば無条件に真実に違いないのであるからして!!
「では紹介しよう! こちらが聖者殿、この世界でもっとも聖なる人であり我が友である!」
「いやー、どうもどうも」
と言って立ち上がり、魔王様の方へ寄っていく者……。
あのぼんやり野郎だッッ!?
薄々気になってはいたが、やっぱりあやつが聖者だったのかッ!?
そうでないとアイツがいるのがあまりに意味不明だからな!
しかし……アレが聖者?
この世界でもっとも偉大で、もっとも聖なる存在なのでは?
世界二大災厄すら従属させ、世界を滅ぼすことすらたやすいと?
そんな前評判から出てくるイメージは、神々しく光り輝いてあまたを照らし、何となく高いところに浮いていて、杖とか持ってそうかな、と思っていたのだが?
しかし実際に現れたのは、どこにでもいそうな平凡な男。
顔つきもとりわけ美しいわけではなく、体つきも標準的……というかどちらかというと細身だ。
常に愛想笑いを浮かべた顔は威厳とは程遠いし、そんな佇まいで、逆に覇気に満ちた魔王様と並ぶから違いが明確すぎる。
アレが本当に伝説となるほどの存在、聖者なのか?
「あの~、魔王様?」
「何だ?」
「本当にその御仁が名高い聖者なのでしょうか? どうも巷間に伝わる噂から来るイメージとは違うような……!?」
「この魔王が虚言を弄しているとでも?」
「いえいえいえいえいえいえッッ!?」
魔王様のお言葉を否定するのかと言われたら、そりゃ否定できないですよね!
しかしここに集った多くの重臣たちも思いは同じ。
ルキフ・フォカレ宰相は?
……なんか濃厚なため息をついておられる。
「聖者殿は、我が人生を救ってくれた大切な友だ」
滔々と語り出す魔王様。
なんと……全魔族の頂点に立つ魔王様に対等な友人など……。
「同世代で肝胆相照らすほどの友人と言えるのは、この聖者と人魚国のアロワナ王ぐらいであろう。王者として孤高であるがゆえの悩みを、この二人とだけは共有することができた」
「え? アロワナさんはともかくなんで、俺も?」
おお、頂点であるがゆえの孤独……!
それを共有できる者がいるとしても、それこそ世界に数えるほどしかいないに違いない。
大海の君主、人魚王アロワナであればそうであろうが、聖者もまたそれに比肩する存在だというのか……。
「魔王である我を救ってくれたということは、この魔族全体を救ってくれたともいえる。我が一人目の妻アスタレスとの仲を取り持ってくれたのは、他ならぬ聖者殿なのだから……!」
なんと!?
若くして魔王になられたゼダン様は、当時妃がおられなかった。
だからこそ魔王様に見初められれば次世代の権力構造のトップに立てる。
そう思った志卑しき者たちはこぞって、自分の娘や妹を魔王様に近づけたものだ。
そしてそういう者たちは邪魔者の排除も忘れない。
魔王様の幼馴染として憎からぬ仲であった四天王アスタレス嬢(当時)は、権力の亡者からすれば何より目障りな相手であっただろう。
何かしらの口実があればすぐさま除籍追放したいほど。
そして実際にアスタレス嬢(当時)が策謀によって陥れられ、都落ちした直後に魔王様までも行方知れずとなった。
あの時の騒ぎと、留守を預かったルキフ・フォカレ卿の消耗ぶりは、今でもハッキリ思い出せるほどだった。
「あの当時、アスタレスを庇護してくださったのが他ならぬ聖者殿であった。慕い合う我らの意を汲んで、冥神ハデスを神降ろしして誓いの場を整えてくださったのも聖者殿だ」
なんとなんとなんとッ!?
魔王様がアスタレス妃を伴っって戻られた際、神の祝福が施されて何事かと騒がれたが、それも聖者の仕業だったということですか!?
冥神は、世界でもっとも強大な三神の一角に並びながらも立った一神の妃しか娶らぬ愛妻家。
それゆえに冥神の祝福を受けた者も生涯一人の妻しか娶ることができず『祝福というよりは呪いじゃね?』と言われる始末だった。
しかしながらも魔王妃の席を狙う腐り者には即死級の衝撃であった。
妃の座を掻っ攫われていっただけでなく、第二妃……愛人となる望みさえ冥神の呪い……ではなく祝福によってご破算となってしまったのだから。
あのあと、魔王妃の座を狙った権力亡者どもは大半が粛清の対象になり、失脚なり左遷の憂き目となった。
思えばアレが魔王ゼダン様による大改革の幕開けであったな……。
その歴史的事件の陰に聖者があったというなら、なるほどその働きは重大なものだったと言えよう。
魔族の恩人と言っても差し支えないほどに。
「それだけではないぞ。その後グラシャラを第二妃として娶る際にも聖者殿は大いに力をお貸しくださった。本来ならば二人以上の妻を迎えること叶わぬのが冥神との約束。それを上手く取り計らってくれたことこそ聖者殿の奇跡だ」
なんとなんとなんと水鳥拳!?
神からの祝福を曲げることができるなど聖者は神と対等であるということか!?
「神との約束を一部お目溢しいただく代わりに、神に捧げるべき大いなる成果を求められた。それこそ魔族勝利による戦争終結! 聖者殿はそのために力添えをいただいた!」
戦争の終結に!?
では、魔国始まって以来の偉業とされる戦勝の陰に聖者がいたと?
「聖者殿は、折れて力を失った四天王の聖剣を打ち直し、真なる力を発揮する真聖剣として甦らせた。その力でもって人間国の神聖障壁を打ち破り、彼らの王都への強襲を可能としたのだ!」
魔王ゼダンの奇跡と謳われた人間国制圧の陰にそんな理由が……!?
折れて力を失った聖剣を甦らせるなど、まさに神の所業ではないか。
さすれば長かった人魔戦争を打ち切り、平和をもたらした功労者は間違いなく聖者。
魔族は全員、聖者に感謝してもし足りないほどではないか!?