作品タイトル不明
1115 神話界のインフレ王
この私、オリュンポスの天界神ヘルメスもタジタジだ。
なんとかしてこの犬神アヌビスを食い止めなくては聖者が将来、博物館の陳列棚に並んでしまう!?
『フフォフォフォフォフォハハ……、魂が肉体に還るとは、奇矯な生死観を持つ神々もいたものよの』
『何ヤツ!?』
進み出たのは顔も真っ赤な厳ついオジサン。
仏界よりお越しになった冥府の神、閻魔大王だ!?
『魂は絶えず流転を繰り返し、肉体から肉体手と渡り歩くもの。そうすることで徳を積み、カルマを積み、最終的には苦界からの解脱を果たしてあらゆる苦しみから自由となることこそが魂の目的。それを一度解き放たれた肉体に戻ってなんとする? 輪廻の逆行でしかないではないか!?』
閻魔さん!?
ここで宗教戦争に発展しそうな話題はおやめになって!
互いの価値観を尊重しましょう!!
『そして、一生を終えた魂の功罪を計り、新たな輪廻の道を示すことがこの閻魔大王の務め。特にこの世界に住まう聖者は、その心住まいといい行いといい、まれにみる徳の高さの持ち主だ。この聖者を正しく輪廻の輪に送り出すためにも、この私が直接の見守り役になるべしと思い馳せ参じた』
登場の動機説明ありがとうございます!
しかし!
アヌビス神にしても聖者の死後については心配御無用!
まだ気が早いというのもあるが、我らオリュンポス界でも死者の扱いにはしっかりと法整備がしてありますので!!
福利厚生も行き届いております!
ねッ、冥界の王であるハデス伯父さん!?
『お、おう……!?』
あれッ?
なんか歯切れが悪いな……!?
大丈夫ですよねハデス伯父さん!?
『そらそうよ……! 余はこの世界が始まってからずっと冥界の王で通しておるんだぞ? 毎日やってくる死者をどのようにより分けていくかもしっかりシステム化されてますよ? 冥界は第一獄から第八獄まで階層分けされていて、最下層のコキュートスにはもっとも罪深いカシウスとブルータスとユダを、サタンが甘噛みして……アレ? なんでサタンいるの?』
ハデス伯父さん、その冥界観ダンテ製じゃないですか?
もしくは車田○美製。
『うっさいなあ! 何事も大らかなことがオリュンポス神界のいいところなんだよ! 竪琴の音色で感動したら死者も黄泉返らせるよ!!』
大らかすぎて神が地上で乱行しまくりなのもどうかと。
特に神々の下半身事情が大らかすぎる。
そんな我が家のお恥ずかしいところを見て閻魔大王が鼻で笑い……。
『フハハハハハハ……、まあ大抵の冥界はそうであろうよ。下手に設定詰め込んでも後々矛盾が生じたら全体破綻するしな』
メタなこと言うな。
『しかし我らが仏界の生死観は数多くの覚者たちによって構成され、一部の隙も無い哲学構造をなしておる! 八大地獄は、刑罰の軽いものから等活地獄、黒縄地獄、衆合地獄、叫喚地獄、大叫喚地獄に焦熱地獄、大焦熱地獄に無間地獄。そのそれぞれに十六処の小地獄がありて、その名や適用される罪や刑罰の内容が細かく決められている』
『でも八寒地獄の方は設定甘くない?』
『煩い!』
地獄が八層に分かれているのはダンテ……もといハデス伯父さんとこの冥界と同じだけど一層一層がさらに十六に細分化されてるって細かすぎだろう。
設定詰め込みすぎだって。
『さらにいえば、八大地獄の中でもっとも罪深き者が堕ちる無間地獄……別名阿鼻地獄は広さは八万由旬にして七重の城壁、七層の鉄網に囲まれさらにそのうちに十八の隔壁がある。一つ一つの隔壁の間には八万四千の大蛇が蠢き毒を吐き散らす。また五百億匹の虫が八万四千の嘴でもって亡者を苦しめる。無間地獄で味わう苦しみに比べれば、それ以下の地獄などすべて合わせて一つにしても千分の一に満たぬという』
待って待って待って。
数が多い。
なんでそんな雑に大きな数字ばっかり並べまくるの?
数の大きさで強さを示そうとするな竜の玉の漫画か?
しかもなんださっきから地獄の説明ばかりして!
まさかウチの大事な聖者くんを死後地獄に堕とそうというつもりじゃあるまいな!?
『とんでもない、あのように徳を積んだ聖者ならば地獄道どころかもっとも尊い天道へと入ることも可能であろう。しかも欲界の最上層、他化自在天へ一気に登り詰めることもできる。他化自在天は六つの天界における最上位で、あらゆる快楽を自由にすることができるという。この天界に生れ落ちた者の寿命は一万六千歳で、しかも自在天における一日は下界の千六百年に相当する』
また無茶苦茶な数字の付け方をして。
『生前の徳の高さより聖者は、この他化自在天に昇る資格を有する。この世界で雑に冥界の門をくぐるよりもずっと意義あることと思うが?』
ぬぐぐぐぐ……!?
言われてますよハデス伯父さん! なんか言い返さなくていいんですか!?
ダメだ反論が何も出なくて縮こまっておる。
アヌビス神もそうで完全に打ちのめされた表情をなさっておる!
ぐぬぬぬぬぬ、このままでは!?
何か? このインフレ数字がちがちの神話形態に対抗する糸口はないのか?
そうだオーディン!
ここにはまだもう一神、位階より来訪せし神がいるじゃないか!
おいオーディンさん貴様から何かないのか!?
お前だって聖者の守護者になりたくてわざわざ別世界からお越しになったんだろう!?
ここで何か少しでもアピールポイントを出しておかないと、このままじゃあの閻魔に入札を制されてしまうぞ!
なんかないのか!?
お前を守護神にすると何かいいことありますよっていう利点が!?
『ん? 別に?』
何ですと!?
なんだそのお前のやる気のなさ!?
じゃあお前何のために今日ここまで来たんだよ!?
『それはもちろん聖者を誘うためだ。我が冥界ヴァルハラに』
コイツも冥界神だったそう言えば。
『私は強き力を持つ魂のコレクターなのだ。生前多くの敵を屠り、屍の山の頂点に立つような英霊を一人でも多く我が下へ招きたい。いずれ始まる神々の最終戦争ラグナロクに備えてな』
『聖者は平和主義ですけど? 戦いの修羅どもがたむろするヴァルハラには合わないんじゃ?』
『戦いの坩堝に放り込めば自然戦闘本能も目覚めるだろう。それにヤツを慕い従う者たちもなかなかに強豪の粒ぞろい。たれらをまとめてヴァルハラに招くためにもまず、頭目の聖者を抑えておかないと思ってな』
コイツ、ヤベェな……。
ここに集まっている同界異界すべての神々が一様に共通してそう思った。
そう、オーディンってそういう世界の神だった。
戦いがすべてで強さのみが共有価値。
欲しいものは奪え、死を恐れるな、戦って勝つことが正義。
今回の聖者の国守護権の争いに関してもそうで、相手側の利益など何も考えていないのだ。
自分の欲求がすべて。
襲って奪い取る相手のことを気にかけて何になろう?
オリュンポス神族の我々でもドン引きするレベル。
『さすがはヴァイキングやベルセルクが崇める神……!?』
『主神が死神を兼ねることからして正気じゃないんだよ、あっちの神は……!』
とアヌビス神や道真公もドン引いておる。
それを見て慌てて弁解するオーディン。
今さら弁解の余地ある?
『いやいやいやいや待て待て! ヒトのことを蛮神のように見おって失礼だぞ! 私だってその気になれば等価交換ぐらい普通にできるわい! たとえばこの目! 何故私には片目しかないか知っているか!?』
知らんし知りたくない(二回目)。
もう話の入りからして不穏なんよね。
『この目は、かつてミーミルの泉に溶け込んだ知恵と知識を得るために代償としてささげたものだ! どうだ!? この逸話を知れば私にだって等価交換ができるとわかってくれるだろう!?』
絶対等価じゃねえとわかるわ。
普段から交換取引に慣れてないからそうやってコスパを見誤る。
『楽して知識を得ようとするな! 知恵知識は日々のたゆまぬ勉強によって得ていくものだ! それが学問だ!!』
菅原道真公もお怒りだった。
『聖者の魂に関してもこれを得るために、残ったもう片方の目を代償に差し出そう。これで文句はなかろう?』
いらねえよ! むしろ文句しかねえよ!!
残り一つしかない目をそう簡単にベットするな!
聖者だってそんなの差し出されても困惑しかねえだろうよ!!
『ぬう……だったらやっぱり略奪するしか……!』
やめろ!!
とんでもない、やっぱコイツこの中で一番ヤバい神だ。
『しかしこのままではどこまで言っても平行線。既にアピール合戦では決着がつかないところを見ると別の方法で白黒つけるしかなかろう』
となると……やっぱり勝負?
しかしながら荒事は各所に迷惑が掛かるのでなかなか……!?
『大丈夫だ!』
そこへ声を上げるクロノスおじいさん?
『平和的に物事を決める方法はいくらでもある! たとえば……これだ!』
桃太郎○鉄!?
なるほどこれなら直接切ったり殴ったりしないで勝ち負けをハッキリ決めることができる!
友情が深刻に崩壊するかもしれないけれど!
『いいだろう受けて立つ!』
『オシリス様をブチキレさせて三ヶ月も口をきいてくれなかった我が手管思い知るがいいわ!』
他の神々も乗り気だ!
ではプレイ開始だ! さて何年プレイで勝負しようか?
『三億年』
おい!?
誰だ滅茶苦茶なプレイ年数設定したのは!?
閻魔大王!?
ダメだろ神話界きってのインフレ大王に年数設定任せたら!?
『何を言うのか、三億年など等活地獄での寿命一兆六六五三億年より断然短いではないか。三億年なんてすぐ終わるすぐ終わる』
うおおおおおおッッ!? この勝負長くなるぞ!
覚悟はいいか!?
うおりゃあああああああッッ!!