軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1099 世界の謎の後ろ側

前回から引き続きの若きS級コーリーだ。

聖者様とは、実際に話してみれば想像よりもずっと気さくな方だということがわかる。

今日も、こちらからの不躾ともいえる質問に快く答えてくださる。

「海に船? そんなことあったかな? うーん?」

もっとも返答そのものはちっとも明快でなかったが。

「うーん? ちょっと待ってね今思い出すから。うーん? そんなことがあったような? なかったような?」

「いやいやいや! あったでしょうちゃんと!? 思い出してくださいよ!」

なんだか怪しい聖者様の記憶に、驚き焦るのがラッチャ・レオネスさん。

「あの凪の海でアナタに出会ったことが記憶違いなら、オレのあれからの探検家活動すべてがウソになってしまうんですけど! そんなのないでしょうねえ!?」

でも追い求めたものが最後は幻だったってわかるのは冒険者業界でもよくあることで……。

「やめろ! フォローのようで何のフォローにもなってない助言やめろ!!」

これは可哀想かと思ったのか、聖者様も一層気合いを込めて記憶のドブさらいを続けた。

そしてやっと思い当たったことがあったようだ。

「ん! あーあーあーあー!! あれね! 思い出した思い出した! ちょっとした度忘れであって脳の老化とかでは一切ないよ一切!」

何故か賢明な予防線を張る聖者様。

「アレは……俺がとある冬の過ごし方として自力推進の鋼鉄船を建造して、その試運転をしているときのことだった……!」

自力推進?

鋼鉄船?

何か恐ろしい響きの言葉が聞こえたような?

「遭難中の船を見つけたものだから、善意と人としての義務から救助したんだよね。……そうか、あの船にいたのがラッチャ・レオネスさんだったか。今こうして元気な姿を見ると、あの時頑張って助けた甲斐があったなあ」

しみじみと語る聖者様。

ではラッチャ・レオネスさんの体験談は真実だったってことだな。

帆のない船とか総金属製とか、俄かに信じがたい話もすべて真実だったってことか……。

「せっかくだから難破しない……沈みにくい船を作ろうと思ってね。だって嫌じゃん、せっかく作った船が沈むなんて」

ええ……。

そりゃまあ皆そう思うことでしょうが。

「だから金属製にしたら船底に穴も開きにくいし、自力推進できれば天候にも左右されないでしょう?」

それはそうですが……。

しかしそもそもの話として、金属の船が浮かぶものなんですか海に?

普通沈むものでは……?

「それはよく言われるんだけども浮力っていうのがあってね……? 詳しいことは省くけれど、それを上手いこと計算できれば金属でも水に浮かぶんだよ。まあ、とにかく試行錯誤を重ねて完成させた自信作だったけれど、最近はあんまり乗ってないなー」

「ええ!? 何故ですか!? そんなに素晴らしい船ならば、世界中どこにでも行き放題じゃないですか!?」

ラッチャ・レオネスさんが意外そうに言う。

彼のメインフィールドは海だから、絶対沈まないで自力で走る船なんて理想そのものなんだろうな。

「あの船はねー、当初は漁船として作ったんだけど……」

「漁船!?」

「そうそう、農場のオークたちが漁をやりたいって言いだしてね。そのたくさん獲れるようにって大きめに作ったんだけど外装がシンプルすぎると思ってドワーフさんにお願いしたんだ」

そうしたら……と聖者様、黄昏た表情になって……。

「ドワーフさんたちメチャクチャ凝って、どこぞの豪華客船かって感じになっちゃったんだよね……。頼んでないのに内装まで超豪華になって、ホテル並みの客室はもちろん遊技場にダンスホールにプールまで……!」

そう言って益々黄昏るのは、当時の感情を思い出したからなのか。

「とても漁船としては使えない状態になってしまって……今じゃ妻の実家に訪問する時ぐらいしか使ってないよねえ」

「里帰り限定!?」

ラッチャ・レオネスさんが衝撃を受けている。

ちなみにオークさんたち用の漁船はその後、新たにやや小ぶりなものを作り直したという。

もちろん総金属製で。

「しかし、やはりそんな素晴らしい船を持ってるなんて羨ましいですよ! どこにだって行けるじゃないですか!!」

ラッチャ・レオネスさんが目をキラキラさせながら言う。

やはり海洋を主に活躍していた探検家だけあって、船への執着は格別だ。

「うーん、それがそうでも。やっぱりガワが大きいと動かすのも大変だからねえ。人手もかかるし手間もかかる。準備もしなけりゃいけないとなれば何より面倒くさい」

「そんな!?」

面倒くさいのが何より嫌いそうな聖者様。

「そうなればちょっとした用事で言って帰ってくるだけなら、このドラゴン馬のサカモトに乗ってくほうが全然コスパがいい。わかるコスパ? コイズミスパイスの略ね」

違うと思いますが。

しかし今はドラゴン馬のサカモトとかいう存在に興味がある。

それはもしや、今あっちで草を食んでいる聖者様の愛馬のこと?

聖者様、毎朝あの馬に乗って開拓地に飛来してきては、毎夕あの馬に乗って飛び去っていく。

問題はあの馬が、空を飛んでいるってことだ。

馬って飛ぶの!?

伝説にあるペガサスなのかって思ったけれど、あの馬には翼もないし、空中を駆けるように飛んでいる!?

どういうこった?

「サカモトは、ゾス・サイラが生み出したホムンクルス馬だからなー。ヴィールから分けてもらったドラゴンの遺伝子を含んでるんだよ。だから空中を駆けることもできるし、メチャクチャ超スピードで飛べる」

ドラゴンの……何!?

はあ、要するにドラゴンと馬のあいの子みたいなもの?

「大体農場の外へ出る時は、この子に頼ってるなー。やっぱ楽だし。ただ日頃の世話は大変だけれどねコイツ、ヴィールの遺伝子を貰ってるせいか我がままだから」

「ではもしや……各所で目撃される飛行馬の正体は・・・・・・聖者様の愛馬?」

「飛行馬?」

急に出てきたワードに、ラッチャ・レオネスさんが解説を加える。

「探検家の中で広まっている噂です。世界のどこかに空飛ぶ馬がいて、各地で目撃されている。鳥かドラゴンを見間違えたという説が有力ですが、この謎を解こうと取り組む探検家もけっこうおりまして……!!」

プロが挑戦するテーマになっていたというのか!?

しかし真実は聖者様が駆ける愛馬!

「うわぁやっぱ色んな人に見られてたのかー。極力目撃されないように気遣ったつもりではあったんだけど、都市伝説みたいになってしまって恥ずかしい!」

聖者様ほど超越の力をお持ちならば、こうして何気なくしていることも余人から見れば謎の超常現象に映ってしまうんだろうなあ。

案外、世界で謎になっていることのほとんどは聖者様が裏で関わってるんじゃないだろうか?

「いやいやいや……そんなまさか。どんなに聖者様が偉大だろうとも、世界の謎すべてに関わっていたら我ら探検家たちも判断に困ってしまうわ」

やっぱりそうなります?

そうですよねえ、すべての世界の謎が聖者様に集約したら、世の中全部聖者様でできているみたいになっちゃいますよねえ?

「謎と言ってもくだらないものもあるしな。シーウォーカーの噂とか……」

シーウォーカー?

何ですそれ?

「読んで字のごとく、海の上を歩く人を目撃したという、そんなくだらない噂だ。大方人魚が海面で変な動きをでもしてたんだろう」

「あー、それも俺かも」

えッ?

やっぱりすべての謎は聖者様に帰結するんですか!?

「一時期ダイエットしてた時期があって……。まあ一番ダイエットに聞くのはウォーキングなんだよねやっぱ。まあでも地上を歩くとサカモトが『何でオレに乗らないの?』って顔してくるから仕方なく海の上を歩いたと……」

海の上を歩くって何ですか!?

そもそもそんなことが可能なんですか!?

「さっき言った浮力だよ! 水がモノを浮かせようとする力を『至高の担い手』で最大限以上に引き出せば、海の上に立つこともできる!!」

何言ってるかサッパリわかりません!!

たった一つわかったのは、シーウォーカーの噂の正体が聖者様だったってこと。

「じゃあじゃあ、あれは!?『飛梅』の噂!」

「んッ?」

早速、聖者様が反応した。

「世界各地で美しい花を咲かせる樹木がいつの間にか生えていて、しかもそれが名を聞いたら『飛梅だ』と答えるっていう……!」

「ゴメンちょっと急用ができた。今日は早めにはけるね」

聖者様はすぐさま帰り支度を始めた。

それと同時に関係者へと声をかける。

「ねえプラティ! 今日は先生ダンジョンにいる!? 帰って道真公を召喚してもらわないと!……なんでって問い詰めるためだよ! なんで勝手に梅の木をこっちの世界に分布させてんだ!? 生態系に影響出るだろうが!!」

詳細は不明だが、やっぱり花の噂にも聖者様が関わっているのは間違いないだろう。

やっぱりこの世界の不思議の九割以上は……聖者様が創り出していたってことか!!