軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1095 農場の逆襲

俺です。

ファイエル(撃て)!

戦いを始める時の掛け声はそうと決まっているらしい。

俺の号令に従ってヴィールはドラゴンの姿で炎を吐き出した。

とは言っても射角を上向きにして、地表に直接当たらないようにする。

いくら敵対勢力と言っても殲滅するわけにはいかないからな道義的に。

と言ってもドラゴンブレスだから直火でなくても余熱で充分あぶり焼きにされそうだけど。

『ぐわーっはっはっはっは! ご主人様に逆らいし愚か者どもめ! いつぞやの約束通り我がドラゴンブレスをお見舞いしてやるのだー!』

ヴィールもノリノリで暴れていらっしゃる。

暴虐、猛威、災害級というドラゴン本来の振舞いが久々にできるというのでヴィールも気合いが入っているようだ。

最近は子育てを手伝ってくれたりラーメン開発に勤しんだりツッコミ役にまで回ったりして割と常識的だからな。

『誰もが怖れ! 混乱する! そうだこれこそニンゲンどものドラゴンに対する真っ当な反応なのだ! オラオラ逃げ惑え! 虫のようにプチッと潰すぞー!!』

存分に悪役を楽しむヴィールであった。

最初に応援を頼んだ時には『スープ鍋を見ておかなきゃいけない』とか『ジュニアたちのお昼寝を見張らないと』とか文句ブーブーだったのだが……。

ホント、アイツ滑り出したら止まらないな。

「ぎゃあああああああああッッ!? ひぐぅうううううううううッッ!!」

「逃げろ逃げろ逃げろ! 殺される!」

「命あっての物種だ! ドラゴンと戦うなんて聞いてない! 最初から聞いていたらこんな仕事引き受けなかった!!」

「そうだ! これは必要な情報伝達を怠った雇い主が悪いのであって、オレたちが敵前逃亡してもまったく悪くない!!」

敵側の方々もいい感じで慌てふためいておる。

大わらわよ、大わらわ。

相手側の軍勢は五千ほどと聞き及んでいるが、その統率力は驚くほど低く、ヴィールのドラゴン姿を一目見ただけで壊乱し、クモの子を散らすように逃げ惑っておる。

……いや、アレはもう逃げることすらせず、パニックになってその場を駆け回っているだけだな。

本来訓練を受けた軍隊なら、逃げるにしても隊列を組んで整然と逃げるべきところ、それすらまともにできていないのは連中が寄せ集めの非正規団体に過ぎないから?

元々王命を偽って、自分勝手に動いているヤツらだからな。

正規兵を動かすわけにもいかず、お金で私兵でも雇ったのだろう。

「それだけじゃなく、雇われ兵どももとんでもなく質の悪いだよ!」

「実際に戦場を駆けずり回ったオラたちだからわかるべさあ。アイツら精々街で用心棒でもしておるようなチンピラだよ。街中のケンカと戦場での殺し合いの区別もつかねえガキどもだべ!!」

こちら側についていてくれる開拓者さんたちが言う。

この人たちの前職は傭兵とのことで、実体験を伴う彼らなら、相手側のハリボテぶりなどあからさまなことであろう。

ヴィールの炎にサッと焙られて、生きながら死を実感している彼ら。

もはやただドラゴンに嬲られているだけだった。

「待て待て! ズルいぞ卑怯だぞ!」

敵側からそんな鳴き声みたいなのが上がる。

「これは人類同士の争いだ! その中に超越種であるドラゴンが介入するなど筋違いだ! そちらも人類同士に争いに人類だけで正々堂々戦うべきだ!!」

『はあ? 何言ってんだコイツら?』

空中で聞いているヴィールも若干呆れ気味。

それはそうだろう、よくわからない身勝手な理屈でヴィールを戦場から締め出そうとしているんだから。

そんなことしたってお前らが有利になるだけじゃないか?

『戯言をほざくな。戦いとは己の持つものすべての奪い合いだからこそ、使えるものならすべて投入するのが常道なのだ。つまらん理由で制限する謂れなどないのだー』

まあまあヴィール。

ちょっと待ってちょっと待って。

せっかくだから彼らの言い分を聞いてあげようじゃないか。

『はあ? 頭トンコツスープになったのかご主人様? こんなヤツのイカれた主張を聞いて、こっちに何の得があるのだ?』

得になることと言えば……強いて言うならな。

相手にさらなる絶望を与えられるとか?

『ああ、わかったのだ』

ヴィールはふわりと離れると変身し、人の姿になって俺の隣に着地した。

「ご主人様もなかなか悪いことを考えるのだー。でもおれは嫌いじゃないぞ。充分殴ったヤツをさらに殴るような行為を」

さすが長い付き合いで、ヴィールも俺の考えを悟ったようだ。

対して何も悟っていない相手側は、ドラゴンが下がったことで息を吹き返し……。

「わはははははは! 墓穴を掘ったなバカめ! ドラゴンさえいなくなれば我らが勝ったも同然! 一挙に押し潰してくれるわ!」

ヴィールが下がっただけで勝ちを確信できる浅はかさよ。

たしかにドラゴンであるところのヴィールは農場最高戦力の一つで、彼女が出てきたら大抵のことは解決。

向かうところ敵なしとなろう。

しかし、あくまで最高戦力の“一つ”。

唯一の戦力だと言った覚えは一度もない。

「さあ皆の者、形勢逆転だ! 最高速であの聖者のところまで攻め寄せろ! 再びドラゴンを出してくる前に捕らえて人質にするのだ!!」

相手も何も考えていないわけではなく、ヴィール=ドラゴン対策もしっかり講じているらしい。

しかし考えるならもっと別のことに考えを巡らせるべきじゃないのか?

どうして俺がアッサリとヴィールを下がらせたのか? とかな……。

その答えが、もうお前たちのすぐ後ろまで迫っているぞ?

「うぐ……なんだ?」

「体が重い、動かない? なんでだ? まさか魔法によるバインド!?」

気づいた時にはもう遅い。

彼らはクモの巣に引っかかった蝶のごとく、身動き封じられてあとは餌食となるだけだった。

人の理を越えた、最恐最悪たる存在の餌食に……。

『やれやれ、見苦しい連中ですのう』

「ひゃああああああああいいいいいいいいッッ!? ノーライフキング!?」

そう、さらに現れたのはミイラのように干からびて、それでいてちゃんと生きているかのように瑞々しく動く不死者だった。

その正体はノーライフキング。

みずからの生命と引き換えに無限の時間と、それに伴う知識や魔力を手に入れた超越存在だった。

その能力に比肩するのは地上でドラゴン以外になく、この最強二種をまとめて世界二大災厄と呼ぶ。

つまり今の状況、世界二大災厄の一方が引っ込んだと思ったら、もう一方がバトンタッチで出てきたという。

絶望に絶望のミルフィーユ掛けみたいな状況なのだ!

「ぐぇえええええええええッ!? ノーライフキング!? 世界最悪の死者の王がこんなところに!?」

『お前たちのような狼藉者から聖者様を守るために決まっておろう』

というのはノーライフキングの先生。

農場設立時代からお世話になっている、最高の隣人でもある。

『少しは想像力を働かせたらどうじゃ? ドラゴンを従える聖者様が、ノーライフキングをも配下に加えている可能性は充分あるじゃろうに。想像力は知性そのもの、その想像力が欠けているなら人である甲斐もないぞ?』

いや、先生はあくまでよき隣人友人というスタンスで、配下というわけでは……!?

そんな間も先生の秘術によって金縛りにされている彼らは泣きわめいて……。

「ひ、卑怯卑怯! ドラゴンもノーライフキングも、人の理外にある超越種であることは変わりないだろうが!」

『ワシらは禁術によってアンデッドと化した元々人よ。人々のいさかいに首を突っ込む権利はあるのではないか?』

「そんな理屈うううううううううッッ!?」

聞き入れがたいが反論もできずに唸るばかり。

そこで俺は先生に目配せして、次のフェイズに移ることを知らせる。

先生も察しがよく……。

『まあよかろう、そこまで言うならワシも引き下がってやろうではないか』

「ホントに!? やったぜ今度こそワシらの勝ちだ!」

『二度あることは三度ある、ということを知らんかのう。自分勝手な者ほど経験から学ばぬものじゃ』

先生はため息をつきながら術を解き、ヤツらの自由を返してやった。

彼らの行状に余程呆れているのか先生の表情は重い。教育者としてのサガなのだろう。

「さあ今度こそ我らの一方的勝利だ! 聖者をつるし上げろ!!」

行け、俺のオークゴブリン軍団。

「「「「ぎゃばうぇあさああああああああああああッッ!?」」」」

我が農場に住んでいるオークとゴブリンたちは、直接農場警護に当たっている頼りになる者どもだ。

種族的に変異して、通常種の数十倍の能力を誇る。

寄せ集めのチンピラ軍団など耐え凌ぐこともできない。

木っ端落ち葉のように蹴散らされて吹き飛ばされるのみだ。

「勝利! さすが俺のオークゴブリンたち!」

「だーかーらー! 人類同士の戦いに別種族を割り込ませるなと言ってるだろう! 何度言ったらわかるんだ!?」

そっちこそ何度引き下がったら満足してくれるんですかね?

仕方ない。オーダーは純粋な人類同士の戦いだな。

だったらこの人たちに出てもらうとしよう。

「魔王ゼダンと、魔王軍の精鋭約一万」

「人間大統領リテセウス。新人族軍一万を率いて参戦」

「さらに人魚王アロワナが、虎の子の地上遠征軍から選りすぐりの一万を伴ってきた!」

「「「合わせて三万、これより聖者のお味方としてその敵を殲滅する」」」

現れたのは魔王さんとリテセウスくん、さらには人魚王のアロワナさんまで。

さあご希望の純人類だぞ。

これで文句はあるまい。キミたちの望んだ争いをしようじゃないか。