軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1090 動き出す膿・人族編

ワシは人族ラワジプータ。

長年人王に仕えてきた由緒ある家系の末裔じゃ。

我が祖先は代々大臣や宰相を輩出し、いわば人間国きっての名家と言っても過言ではないの。

それゆえに長い年月で培ってきた権力財力……それに人脈の力は相当なもので、仮に役職を得ていなかったにしても、その気になれば王を挿げ替えることぐらいは容易いものよ。

言ってしまえば人王など、我らが家系が裏から糸ひく操り人形。

人間国の歴史は、我らの家系が陰で作り上げていったと言えば言いすぎであろうか? いやない。

我が家の影響力は凄まじく、かつて人族を占領した魔王軍どもも、王族は皆殺して根絶やしにしたが我が家にはついに手を出すことがなかった。

我が家を敵に回せば厄介なことになるとわかっていたからじゃ。

戦争の勝利者であるはずの魔王軍ですら、占領統治下にある我が家を避けて通った。

『真の勝者が誰か?』ということが如実にわかる出来事よ。ファッファファファファファファファファ!!

しかし、名目上占領者として魔王軍が居座っていた時代、我らもそこそこやりづらかったのは事実じゃ。

何しろ政治には一切タッチさせてもらえぬし、裏で培ってきた人脈コネも活用しようがなかったからのう。

当時、魔王軍の連中に『協力してやろうか?』と打診したものじゃが、何度かやったがその全部すげなく断られた。

要領の悪い連中じゃ。見知らぬ余所の土地へ来たからには、現地の住民ともちつもたれつでやっていくのが効率一番だとわからんのか?

とにかく魔王軍占領時代の人間国は、我らにとっても好きに動くことができない苦難の時代であった。

それがついに終わりを告げた!!

魔王軍が撤退し、人間国の主権が我ら人族へと返ってきたのだ!

やったぜ!

これで我が世の春が再来じゃ!

とは言っても我々はけっして表には出ず、裏から支配者を操る家系。

新体制でも傀儡を祭り上げ、不満や非難からの盾としながら安全に権力の蜜をすするとしよう。

そうしてスタートした新体制。

その代表の座に就いたのはリテセウスとか言う若僧であった。

あんなモノ知らずの子どもであれば丸め込んで自由に操るなど朝飯前じゃ。

王族ですら生き残ることができなかった新時代でも我が家だけは安泰じゃのう!

……そう思って高笑いしていたのが遥か昔のことのように今では感じる。

実際にスタートしてみた新体制であったが、若くして王座に就いたリテセウスの小僧は、我らの想像以上に手強い相手じゃった。

所詮平民出身で学のない若僧。

何も知らぬじゃろうから政を行うにも、我々が手取り足取り助けてやらねば何もできぬに違いない。

さすれば人間国の政治は実質ワシらのほしいまま!

目先の道楽にばかりかまけて国政を丸投げしていた旧王族と何ら変わりない!

世の中は依然としてワシの思い通りじゃ!

……と思っていたのに、予想に反してリテセウスの若僧は様々な知識に精通しておった。

ワシらが何か口出しするより早く、ヤツは一方的に指示を飛ばしてくるんじゃ。

「全国土へ農地の調査を行ってください。課税は単純な領地の広さではなく、その中に分布する農地の割合、それに生産量を加味して事細かに決める必要があります」

「法こそが国家運営の要です。正しい法が厳密に執行されているか否かで国の健全さが決まります。人間共和国に移行したからには法律も、現状に即した新しいものに改正していきます」

「外交は平和維持のために必要不可欠です。これまで争っていた魔国ともこれからは協調路線で進めていきます。またあくまで対等な関係を維持するためにも人魚国との交流も重要になっていくでしょう」

「仁を失った者は賊、義を失った者は残、さすれば仁義を失った者を残賊といい、残賊に君主たる資格がなし。即ちただの凡夫である」

「本日のダウ平均株価は……」

何を言っているのかさっぱりわからなかった。

くッ、この小僧。

一体どこでここまで高度な知識を得たのか?

お陰でヤツの施政には付け入る隙がなく、裏から操るどころかこちらが頭ごなしに指示されて使い回される始末。

当初はワシと同じような目的のヤツらも複数いたが、今ではその多くがリテセウスの手腕に舌を巻き、諦めて去っていくか惚れ込んで心底からヤツの下僕と成り果てていった。

しかしワシはまだ諦めん!

旧人間国の時代も人王を丸め込み、栄華を極めた我が家だ!

次代が変わったなどと言って、我らの栄光ある歴史まで塗り替えられてなるものか!

なんとしてでもあの小賢しいリテセウスの隙を突き、ヤツが絶対服従して逆らえなくなるような弱みを握ってみせる!!

そんな大望を胸に秘めて表向き、新人王の忠実な犬として耐え忍ぶこと数年……。

やっとチャンスが巡ってきたぞ!!

開拓事業!

新しく人の住める土地を広げようという重要政策だ!

近頃の急激な人口増加は誰の目から見ても深刻な問題。それに無事対処できたなら評価も上がるだろうが、逆に対応を誤れば非難囂々、これまで培ってきた信頼も地に落ちることだろう!

開拓事業に失敗すればリテセウスの若僧も窮地に立たされ、老練なる我らに頼る以外に道はない!

そうなればこっちのもの! 高い貸しにしてくれるわ!!

となれば我らも水面下で動かねばな!

相手から倒れるのをのんびり待っているだけでは二流よ!

誰も気づかぬ、眼に見えないところで暗躍し、ごく自然な形で計画失敗するよう密かに仕向ける。

そういうことができてこその黒幕。

まずは実行前、議題にかけられた段階で反対意見を出し、事案そのものへの不安をあおっておく!!

案の定リテセウスめは『絶対必要だ!!』と反対を押し切った。

さすれば失敗したとき全責任がヤツにかぶさってくるからな!

目先のことだけでなく、遥か先のことも見据えて布石を打っておくことも陰謀家の嗜みよ!

もちろんリテセウスが確実に失敗するように仕組んでおくことも肝心ぞ!

計画の具体的内容を精査していくうちに、失敗へともつれこませそうなおあつらえの要素を見つけた。

魔族との共同作業というところだ。

リテセウスめ、常日頃から友好だ平和だなどと綺麗言ばかりほざいておるが、理想をそのまま現実に持ち込んだらしいな。

その愚かさこそが貴様の躓きよ!!

人族と魔族は敵同士!

憎み合い恨み合い殺し合う、それ以外にないのだ!!

だから開拓地で双方が出会ったのならば、必ずや摩擦を生んで最終的には崩壊するに違いない!!

さすればリテセウスの立場も、その夢見がちな理想と共におしまいだ!!

ワシはこの崩壊が確実に起こるよう、ちょっとした細工も怠らなかった。

現場責任者に魔族に関することは一切伝えず送り出したのだ。

そうすれば、なんの前情報もなしに目前へ現れた魔族どもは、正体不明の外敵だろうからな!

精々暴発してくれるがよいわ!

その暴発こそリテセウスの没落、そして我ら全盛の花火となるのよ!

あ、そうそう。

この事実がリテセウスに伝わらないようにしっかり情報遮断もしておかねばな!

関係各所に口止めを徹底。

賄賂を贈って、それで折れないヤツは家族を人質にしろ!!

さらに別の部署で問題を起こして解決をリテセウスに丸投げだ!

これで他のことに気が回る余裕もあるまい!

ここまで細かく配慮の行き届いた陰謀を巡らせられるとはさすがワシ!

やっぱり世界を裏で牛耳る影の支配者にはワシこそふさわしい!!

さ、あとはどんな脅し文句でネチネチとリテセウスの若僧を屈服させるかな? というのが目下のワシの考え事となった。

何しろこれまで散々思い通りになってくれなかった故な。

これから従順で出来のよい操り人形となるよう、しっかり躾けて心を折っておかねば。

だがすべては開拓地で魔族と人族が争って、すべてが崩壊してからよ。

早くやってこないかな、その時が……!

そう思っているうちに、ついに報告が来た。

現地に潜伏させている密偵から。

もちろん吉報であろう!

何も知らずに開拓地で鉢合わせした魔族と人族は、戦い合ったのか!?

一体どれだけ死んだ!?

死傷者が多ければ多いほどリテセウスを責める口実がデカくなるからな!

いっそ数万人ぐらい派手に死んでほしいものよ!

ワーハッハッハッハッハッハ!!

……。

え?

何? 一人も死んでいないと?

それどころか開拓地での小競り合いは未然に収束されたらしい。

そして今では仲よく一緒に開拓を進めているそうなのだ。

なんで!?

一体どうしてそうなった!?

ワシの思惑通りになってないじゃないか全然!?

……?

なんだと?

農場の聖者が現れた?