作品タイトル不明
1082 先駆者と後継者の会話
オレはS級冒険者のシルバーウルフだ!
……いやいやいやいや。
やっぱりオレがシルバーウルフを名乗るのは違和感ビンビン過ぎる。
正確に言うと二代目シルバーウルフのコーリーだ。
ギルドマスターとなった先代シルバーウルフさんから襲名はしたものの、まだまだオレたちの意識の中ではシルバーウルフさんこそがシルバーウルフ!
昇格試験も成長の期待込みでギリ合格できたオレに、その名前はまだ全然早い。
早すぎる!!
ということで周囲もオレ自身も、オレのことはS級冒険者コーリーで通している。
オレのすぐあとにS級昇格したムルシェラが二代目ゴールデンバットを襲名したけど、あっちなんかまだ先代がバリバリの現役だからな。
あっちの方が戸惑いハンパない。
とにかくオレの方は一日も早くたくさんの成果を上げて、名実ともに二代目シルバーウルフとして自他ともに認められたいものだ。
だからこそオレが求めるのは経験、試練、そして成長、成果!!
二代目シルバーウルフに相応しい実力と実績を養うために天よ!
オレに艱難辛苦を与えよ!
そう思ってとりあえずはアレキサンダー様のダンジョン高層で格闘していた。
そんなオレにある時、ギルドマスターこと先代シルバーウルフさんからお呼びがかかった。
もちろんあの人に呼ばれたら、オレはすぐさま駆けつける!
どこにいようと関係ない!!
ということでオレはアレキサンダー様のダンジョン、アレキサンダー様の間目の前からクルリと回れ右して引き返した。
* * *
「それってクリア寸前だったってことじゃないか」
待ち受けていたシルバーウルフさん。
オレの直前までのクエスト状況を報告すると、なんかわかりやすく鼻頭にしわを寄せた。
「そこまで行ったんならきっちりクリアすればよかったのに。冒険者にとってクエストクリアの手柄が何より大事だろう。ギルドマスターに呼ばれたぐらいでムザムザ見逃すとは……」
「いいえ! オレにとってはシルバーウルフさんからの呼び出しに応えるのが何より大事です!!」
「そ、そうか……!?」
シルバーウルフさんは一瞬困惑気味の表情を見せたが、すぐまた咳払いして表情を直すと。
「コーリーくん、いや二代目シルバーウルフよ。キミにS級冒険者として特別なクエストを頼みたい」
「はい! やります!!」
「いや内容を聞いて、しっかり吟味検討してからな?」
いえいえ大丈夫です!
オレにとってシルバーウルフさんからの命令こそ絶対! まさしく神の声!
そのお言葉に従うことこそがオレの冒険者人生のすべてです!!
躊躇など一瞬だろうとあってはなりません!!
「それもどうかと思うのだがな……慕ってもらえるのは嬉しいが……まあそれよりだ」
シルバーウルフさんは無理矢理にも話題を転換した。
「キミにやってもらいたいクエストなんだが……開拓作業だ」
「開拓作業?」
聞いたことのないクエストだな?
人の手が入っていない未踏地帯の探索は、たしかに冒険者の仕事には入る。
しかしながら、それらの本意はあくまで探索にあり、もっと言えば未発見ダンジョンを発見することが究極的な目的だ。
冒険者の興味は常にダンジョンに集約するからだ。
探索ではなく開拓……ってことはただ調べるんじゃなくて、木を伐ったり地面を慣らしたりして、より住みよい環境に作り替えていけってことだよね? 人の手で?
こう言ったら叱られるかもだけれど、そんなの冒険者の仕事ではないというか……。
「まあゴールデンバットあたりなら間違いなく言うだろうな。『そんなものは三流がやるべきことで一流冒険者を煩わすことではない!』とかなんとか」
うええええ……!
あのゴールデンバットと考えが同じとか言われると途端に生理的嫌悪が……!
「私の考えは異なる。今でこそ盛んではなくなったが、一時期は魔族との戦争よりも人間国周辺の開拓が盛んだった時期があってな。それこそ何百年か前に」
へええ。
人間国にもそんな時期が?
「人王の中では珍しい名君が現れた時代の話だ。その当時は我々冒険者も積極的に開拓作業に協力してな。主に開拓者、開拓村の護衛が任務であったが、開拓作業そのものにも従事した」
シルバーウルフさんは朗々と語る。
オオカミだけに朗々?
「今まで誰も踏み込んだことのない土地に突入し、自然の驚異に耐えながら土地を押し広げ、自分たちの領域を確保する。その挑戦的な事業に、冒険者たちも自分たちと同類のスピリッツを見出していったのだろう。私もまた、開拓も立派な冒険の一種であると思っている」
シルバーウルフさんが言われるならオレもまた!!
しかし凄いな、現在だけでなく冒険者たちの過去の歴史についてもそんなに詳しいなんて!
さすがはS級冒険者を経てギルドマスターにまでのし上がったシルバーウルフさん!!
「現代に甦った開拓事業は、新人間国が魔国と共同で行うものだ。こないだ何故か一度に大量に子どもが生まれた時期があったろう。 ベビーブームっていうのか?」
はい。
そう言えばシルバーウルフさんとブラックキャットさんご夫妻にも子宝が授かりましたよね。
ご出産おめでとうございます!!
「う、うんキミからの祝辞はもう何百回目だからもういいかな。それよりもそうして子どもがたくさん生まれたってことは人口が爆発的に増加したってことでもあるので、お上は対応にてんてこ舞いしている有り様だ。その対策の一つとして打ち出されたのが開拓だ」
なるほど。
人口が増えて、これまでの街や村が狭くなったのなら、その分広くすればいいってことか。
あるいは新しい村落を作るか。
そのための開拓事業というわけか!!
「新人間国の政府は、開拓団を組織して開拓候補地に送り込むことにしたが、そこで我ら冒険者ギルドにも声がかかってきた。開拓団の構成者の大半を冒険者から募りたいそうだ」
大半ッ!?
いいんですかそんなに?
それってほとんど開拓そのものを冒険者ギルドに依頼しているってことなんじゃ?
「政府の中で色々揉めているようだ。旧人間国から為政者の側にいる古狸どもは保身のことしか考えていなくてな。開拓で土地が広がるに伴い、自分たちに従わない新勢力が起こることを危惧しているようだ」
何やってるんですかお国は……!?
「今この国を率いているリテセウス大統領は、才能もあるし能力も高いが如何せんまだまだ若い。自分の数倍長く、ただ自己保身のためだけに生き抜いてきた老害ども数十人を御しきれというのは酷だろう」
はあ、そんな……?
オレは政治のこととかはよくわかんないが、今の王様はリテセウスという名前なのか?
今知った。
「冒険者の頂点に立つなら世界情勢にもしっかり目を向けていけ。S級冒険者も立派に権力がすり寄ってくる対象だからな。何も考えずにのほほん生きてると欲の亡者どもに押し寄せられて身動きがとれなくなるぞ」
ううッ、そういうものなのか。
さすがシルバーウルフさん、教訓にも重みがある!
「リテセウスくんも積極的にフレッシュな人材を取り入れてはいるものの。のさばる老害どもとの入れ替えが済むのに十年はかかるだろう。変化とは正しいものほどゆっくり進む。ただ目の前の問題は、ゆっくり状況の改善を待ってはくれないということだ」
うッ、はい。
「実は私は、リテセウスくんが今の立場になる前から親交があってな。私の冒険者としての培ったことをいくらか仕込んだが、彼は実に覚えのいい生徒で受け答えも爽やかだった。彼が苦労して国をよくしていきたいというのなら私も協力していきたくなってくる」
なんですって!?
シルバーウルフさんがオレ以外の後輩を評価するだと!?
絶対に許せねえ!
「対抗心を燃やすな」
でもでも!
シルバーウルフさんのあとを担うのはオレだけで充分なのに!!
「彼からの依頼も、我々冒険者ギルドの利益に合致する。戦争が終わって、職にあぶれた傭兵がいくらかこっちの業界に流れてきたことがあったろう? そのうちの何割かがクエスト失敗を連続していてな」
えッ? どういうことです?
「傭兵と冒険者は似たような職……と言って転向した者が多いのだが、実際にはやはり多少の違いがあったようだ。適応して冒険者としても活躍できる者と、そうでないものが明確に分かれた。ということで傭兵からの転向組のうちで結構な割合が、E級D級辺りで燻っている」
そういう人たちを開拓作業へ送り込もうと?
たしかに冒険者として適性がなかったとしても開拓で何らかの才能が花開くかもしれないしな。
さらなる人員整理にも打ってつけってことか。
「そこでやっと……キミをここに呼んだ用件を切り出せるんだが……」
そうだった。
オレはシルバーウルフさんとお喋りできるだけでも充分有意義ですが。
「女子かッ!?……つまりはその開拓団の指揮役……リーダーをキミに勤めてもらいたい、ということだ」
「わかりました!!」
「即答!? いやもうちょい考えて! キミまた私からの依頼だから無条件で引き受けたって感じだろう!? S級冒険者として、お願いだから金輪際そういうのはやめなさい!!」
そりゃもうシルバーウルフ様のお言葉なら何でも全肯定ですよ!
シルバーウルフさんが考えろと仰るなら、オレもう少し考えます!
……考えました、引き受けます!
だってシルバーウルフさんからの指示ならば従わない理由がない!!