作品タイトル不明
1073 脱走神の顛末
俺です。
なんか大変なことがあったらしい。
それを聞いたのは我が農場に押しかけてきたハデス神から。
本当に唐突にたかりにくるから大変だ。
ハデス神はガーリックチャーハンを掻き込みがなら、ここを訪ねるまでにあったことを話す。
『いやー、ゼウスのヤツが逃げ出したと報せが来た時はヒヤッとしたが、セ○ムがついていて助かった。異常があれば余かポセイドスにすぐ伝わるようになっていてな。さすがヘパイストスの作った封印神殿はケアが行き届いておるわ』
なんか邪神が復活したらしい。
そりゃたしかに大変だ。
場合によっては折角平和になった世界がまた荒れ狂うことになる。
しかしながら今回は世界を守らんとする正しい神様たちによって危機は回避されたようだった。
まあ本来神様ってそういうものだから、きちんと働いてくれて有難いものだけどな。
緊急信号を受け取ったハデス神は、慌てて現場に急行。
ゼウス神は封印空間から脱出した瞬間から GPS(ゴッド・ポジショニング・サーチ) システムで追えるようになっていたので、すぐに見つかったという。
幸い同じ仕組みで追ってきたポセイドス神とも合流し、さらに運のいいことにその時一緒にスマ○ラしていたクロノス神もいて、同行してくれたらしい。
仲最悪の兄弟神に加えて、ガチで戦争し合った父神に包囲されて逃げ場なしのゼウス神。
さらに驚くべきことに、最終的に手を下したのは兄弟神でも父神でもなかったという。
『菅原道真公が……手を下してな』
えッ? なんであの神が?
クロノス神とマブダチみたいな間柄にはなったけれども、結局は余所のシマのことなんだし、そう気軽に手を出していいの?
『あの方が是非にというのでな。この世界に学問を担当する神がいないのがよっぽど腹に据えかねたらしい。その責任を、主神であるゼウスに問うたわけだ』
もちろんゼウス神がまともに取り合うこともせず、戦闘に発展。
『戦闘モードに入った道真公はマジで怖かったぞ。ゼウスはなすすべもなく一方的にボコボコにされるし。同じ雷光の使い手だというのにまるで相手にならなかった』
かくして身動き取れなくなるまで痛めつけられたゼウス神はお縄となり、拘束されたまま封印の中に戻されたとのこと。
『まったく大人しくして反省した素振りだけでも見せておけば十万年ぐらいで解放してやろうと思ったのになあ。ああして逃げ出されては誠意を無下にされたと思っても仕方ないから懲役一千万年というところかなあ。残念だなあ、脱走さえしなければなあ』
ハデス神は残念そうに言うが、言うほど残念そうにも聞こえなかった。
きっと、ゼウス神が真実真面目に刑に服したとしてもなんやかんや言って一億年は外に出さないつもりなんだろうな。
『聖者くーん、ビールお代わり』
はーい。
その証拠に無事ゼウス神をプリズンへ収監したハデス神は、心底ご機嫌に酒を飲んでいるから。
祝杯と言わんばかりに。
でもそんな浮かれるばかりでいいの?
ゼウス神が脱走を成功させたってことは、閉じ込めたのにそれを無効化させる手段があったってことでしょう?
原因を究明しないと、また同じことが起こるんじゃないです?
『その点は大丈夫だ。原因はもう解明されているのでな』
ほう。
『今回のゼウス脱走は、天界の同族神アテナの仕業だ。アイツは手元にエリクトニオスというヘパイストスの子どもを養っていてな。封印を手掛けたヘパイストスと同じ遺伝子情報を梃子に、何とか封印に綻びを作り上げたらしい』
女神アテナ。
犯人はアイツだったか!
女神アテナと言えば、ここ農場で非常識なことを喚き散らし、怒りの限界に達した勇者モモコさんによって世界の果てまで吹き飛ばされたのも記憶に新しい。
そのアテナがゼウス復活に動いていたなんて。農場での出来事と無関係とも思えなかった。
自分の考えを却下されて吹っ飛ばされた仕返しとでも思ったのかな。
『再発防止の手立ては簡単だ。アテナも一緒に封印空間に放り込んだ』
わお。
すると今、天界の封印の中にはゼウスとアテナの二神きり。
『押し込まれる間際のアテナの泣きわめきは見ものだったぞ。「こんなスケベオヤジと二人きりなんて貞操確実死よぉおおおッ!」とか言ってな!!』
ハデス神は心底嬉しそうに言っていた。
永遠に孤立の空間に処女神と、浮気を司る大神。何も起きないはずはなく……。
『さすがのゼウスとて自分の娘に手を出したことはないのにな。そこまで信用ないものかとゼウス傷付いた顔しとったぞ。アイツに傷付く権利などないのにな!!』
とついにこらえきれずに大爆笑するハデス神だった。
『まあこの世界、戦争についてはベラスアレスくんが担当しているから、アテナがいなくなっても困ること何にもないしな。むしろアイツがいることで困ることがあるから今回の同時封印はいいこと尽くめよ!』
ああ、やっぱそんな評価だったんですね。
『問題は、何故かあのゼウスにぞっこんのヘラだけがな。まあ巡り合わせがいいというか調度その同時期にケーキバイキングに行ってたらしくて、帰ってきた時に事件を知って金切り声を上げたらしい』
――『はぁッ!? ゼウス様仮釈放されたの!? どうして言ってくれないの!?』
――『そしてアテナも一緒にまた封印されたって!? なんて厚かましい!!』
――『結局、泥棒猫の娘も泥棒猫なのね!!』
『……とか何とか騒ぎ立てて、仕舞いには自分もゼウスと一緒の空間に封印されるとか言いだして大騒ぎだったらしい。ベラスアレスくんがなだめて大変だったそうだよ』
それは……。
また大事になって。
でもあのヘラ女神でしょう?
止める必要あったんですか?
むしろまとめて封印されてくれたら世界的にも万々歳というか……。
『ベラスアレスくんにとっては、あれでもれっきとした生母だからな。彼の性格上見捨てることもできんのだよ。もう一人の実子であるヘパイストスくんとの関係性が壊滅的であることを考えたら特にな……!』
ベラスアレスさん……!
立派なご人格だというのにあんな性格最悪な母親を持ってしまったばかりに。
彼からも苦労人の匂いが香ってくるな……。
いや、苦労神か?
『ヘラ自身もあれはあれで、天母神としての役割が重要かつ替えが利かないからなあ。戦争の神とか、神の長とか、案が得替えの利く役職と違って迂闊に排除できんのが困りものだ。ホント扱いの厄介さでは神界一だよなー』
とぼやいているハデス神だった。
とはいえ、これでやたらと世界に戦乱をもたらそうとするアテナ女神も封印されて、世界はより平和へと向かっていくことになったんだなあ。
さらに言うとアテナ女神は、俺たち異世界人が召喚された際にスキルを与える役目を持った神でもあった。
俺だけはたまたま女神の不在時に代役を務めたヘパイストス神にギフトを頂いたんだが。
しかしアテナ女神は、訪れる異世界召喚者たちにスキルだけ与えて戦争に放り込み、力尽きるまで戦わせるという鉄砲玉のような扱いをしてきた。
そう考えると、今回の封印は極めて妥当な結果なのかなと思う。
「色々と決着がついていくわね」
そういうのは、勇者モモコさんだった。
先日初来訪して以来まだ農場に留まっている。
「農場を見つけてから、どんどん私の中で蟠っていたことに整理がついていく気がするのよね。魔王を倒して勇者の務めも果たせたし、私始め色んな人たちを断りなく呼び寄せてきた女神にも天誅が下ったわ」
天の神が天誅くらうってまた数奇な状況だけれどもな。
しかし、モモコさんも自分がここまで歩んできた道筋に思うところがあったのだろう。
勇者として祭り上げられ、魔族と戦うのが正義だと信じ、それらの正義を一切否定されてから自分の生きる道を探し求めて今日まで来た。
同じ異世界人でも俺とはまったく違う、異世界人の悲哀をスタンダードで被ってきた。
そんな彼女のすったもんだが、一様の決着を迎えたのだ。
感慨深げにもなるだろう。
『ふむぅ……そう考えると、天界の神どもがしたこととはいえ同じ神として責任は感じるな』
と呟いたのはハデス神だった。
なんかもう勇者と神が同じ空間で普通に雑談している状況どうなの?
『異世界召喚者たちは、彼らの意思に関わりなく異世界に呼ばれた被害者だ。それを呼びっぱなしで終わり、諸悪の根源は滅びましためでたしめでたし……で済ませていいものか』
と一人呟くハデス神。
『よし、決めたぞ』
え? 何を?
『天界神どものやらかしに責任を持つのは同じ神たる我らの務め。異世界召喚された者たちへのケアを、冥界神の方で色々考えてみよう!!』