軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1036 伊勢守のように

ワシ、挫折の真っただ中。

まさかノーライフキングという存在が邪魔をして、市井の人々と交流がとれぬとは。

時々思い出すが、ワシって恐怖の象徴みたいな存在なんだよなあ。

「いや片時も忘れるなよ。泣く子も黙るノーライフキングだろ」

ヴィールが全身で呆れを表現しておる。

お前はいいのう。

そうして人間に変身すれば誰からも警戒されず、街にも村にも溶け込むことができるんじゃから。

「羨ましいんだったらテメーも変身すればいいのだ。ノーライフキングの魔力と術ならちょれーだろ、それぐらい」

もちろんドラゴンにできてノーライフキングにできないこともないではないがそう多くない。

変身術とてその気になれば呪い師でも見破れるほどのクオリティを出すことだってできる。

しかし、それではいかんと思うのだ。

ワシは市井の人々と交わり、その中で生きる真実を見せてもらわねばならぬ。

だというのに自身は偽りの殻を被り、本当の自分を見せずに接するなど、それこそ不誠実ではないか。

「また面倒なことに拘るヤツなのだー。じゃあどうすんだ? 諦めて帰るか?」

いや、せっかくやってきたというのに簡単に諦めては……。

日夜指導している生徒たちにも示しがつかない。

「そうは言っても、これ以上街の軒先でしょんぼりしているわけにはいかないのだ。お前がここにいる限り街の緊張マックスなのだー」

うぬぅ、そうか。

気づけばずっと向こうの方で、何人かチラチラこちらを窺っておる。

装束から見て街の衛兵か。

警戒されている以外の何者でもないのう。

「ノーライフキングをどうにかするには、あまりにも頼りなすぎる戦力だがなあ。しかしあれがこの街のふり絞れる全力だと思うと憐れなのだ」

まあ、それにヴィールのドラゴン力まで加わればさらに絶望じゃからのう。

ノーライフキングは普段本拠であるダンジョンから出ないが、もし出ることがあるとしたらちょっとした気晴らしで人間の集落を粉砕するためとかじゃからのう。

そりゃ驚天動地じゃない。

「存亡の岐路に立たされてるぞ、この街」

これ以上街の平和を脅かすわけにもいかんからのう。

仕方ない、ここはキッパリ諦めて一時撤退とするか。

「気を落とすなよジジイこのおれが帰りにラーメンでも奢ってやるのだ」

お前が奢るラーメン言ったらドラゴンスープのヤツであろう?

もうどんだけ消費に協力してやったと思ってるんじゃ。ワシはもうドラゴンエキス含んでるのは一滴たりとも飲まんぞ。

「大変だ! 大変だぁあああッッ!?」

何事じゃ?

急に騒がしくなったが、街の中心部の方か?

「なーにを不思議がってるのだ? 大変の化身みたいなヤツが?」

いやいや、たしかにワシらのおかげでこの街緊急事態じゃけれども。

それでももう訪れていくらか時間は経っとるわけじゃし、それで今さら『大変』と騒ぎ出すのも不自然であろう。

しかも声がしてくる方向もおかしい。

ワシらを見て大変というのであれば、少なくともワシらの近辺から声がしなければ。

しかしあの声は、同じ街の中とはいえずっと離れたところからしてきた模様。

どう考えても何か他に変事が起こったとみて間違いない!

「仮にそうだとしてもおめーより大変なことはねーのだからジッとしとけ」

いいや!

目の前で起こった事件でもしワシが見過ごし、罪なき一般人に被害など出ようものなら後悔してもしきれん!

ワシは行くぞ!

助けを求める、その声ある限り!

「てめーが介入することでより混乱する事態は想定できねえのか!? あッ、こらちょっと待てー!」

街の中心部へ駆けつけてみると、思った以上に深刻な状況になっていた。

何やらガラの悪そうな男が一人、刃物を突き付けておるではないか!?

傍らには小さな子どもを抱き、その子を人質としているようだ。

周囲は大勢の人々が取り囲んで逃げ道を塞いでおるが、子どもの安全を気遣ってそれ以上は何もできない様子。

「動くなぁー! これ以上近づいたらガキぶっ殺すぞぉー!」

男の粗暴な発言で、すべての推測が事実となった。

人ごみの外では、母親らしき女性が泣き崩れながら、複数の人々に守られるように抱きすくめられている。

『これは一体どういうことじゃ!? 何があった!?』

「ひええええええッ!? ノーライフキング!!」

街の守備兵らしい男を捕まえて状況を問いただすも、ワシの姿にビビり上げて要領を得ぬ。

『ええいい一大事であろうが! 街の平和を守る職に就く者がそんな肝っ玉でどうする! しゃっきりせい!!』

「肝っ玉粉砕してくる張本人から言われてもなー」

ワシの剣幕に押されたのか、兵士がぼつぼつ状況を語っていく。

まとめるとこんな風であった。

まずあそこで子どもを人質に取り、刃物を振りかざしておるのは盗賊らしい。

指名手配された盗賊団のメンバーということであった。

ヤツは人知れず街に潜りこんでいたようだ。

兵士にも住人にも気づかれず溶け込んでいたところ、俄かに街が混乱に陥った。

「死体モドキのジジイが来たからだな」

ヴィールよ、まだ話の途中じゃぞ。

全部話し終わるまで黙っておくんじゃ。

……すぐ避難勧告が出され、街中の人間が移動することになった。

それが盗賊にとっての不幸だったんじゃな。

皆でまとまって避難しようという段になってどこの所属でもない侵入者が浮かび上がってしまった。

誰だ? コイツ誰だ? と追いつめられる盗賊。

ついに進退窮まって手近にいた子どもを人質に取り、立てこもるという顛末に。

『なるほどのう……つまりこの凶行は、混乱を持ち込んだワシに原因があったのか!?』

「そういうことなのだー」

なんということだ!

ワシのせいで罪なき人が、しかもいたいけな子どもが傷付くなど断じてあってはならん!

街の人々よ、願わくばこの一件ワシに委ねてくれぬか!?

必ずや人質になっている子どもを、傷一つ負わせることなく救い出して見せようぞ!!

「はあ……はあ?」

「ほら突拍子もない事態に混乱しているのだー」

大丈夫じゃよ。

きっとこのように小さな街では事件が起きたこともなく、長らく平和であったのだろう。

それがこのように非常事態に陥って、どう対処していいかわからないに違いない。

「大混乱の原因そのものが『混乱を収めます!』って提案してきてるのが究極の大混乱じゃねーか? そりゃわけわからなすぎて思考も停止すんだろ」

控えるのじゃヴィール。

それでは準備するとしよう人質救出のためのな。

見たところ盗賊は追いつめられて気が立っておる。

少しの刺激を与えても激発し、そうなれば人質の子どもの安全は保障できぬであろう。

「ではどうするのだ?」

「どうするんです?」

ヴィールと街の守備兵が異口同音に尋ねてきたわホッホッホ。

見ておれ、このノーライフキングの先生に妙案ありじゃ。

まずワシは周囲を見回し、役立つものがないか探ってみた。

するとちょうどいいものがあるではないか。

『そこの職人よ』

「へ、へいッ!?」

ビクついているが大丈夫じゃ、ワシは誰にも危害は加えぬ。

それよりも……。

『お前が使っておるこのペンキは、黒じゃな?』

「左様で……!?」

よし、好都合じゃ。

ワシはみずから身を包む法衣を一旦脱ぐ。

愛用の法衣は一点の曇りもない純白。

その純白法衣をそのまま黒ペンキに付け込んだ!

「えええッ!?」

「何をやっているのだあの死体モドキ!? 意味不明なのだ!?」

ヴィールですらわからんかワシの作戦が。

よし、法衣はすっかり黒に染まったな。

では改めて法衣を着直すと見よ!

ワシはどこからどう見ても、何の変哲もない牧師!

「そうか! 他の者なら盗賊を刺激するかもしれんが、神の使いである牧師なら盗賊も気を許してしまう!」

「なんて冷静で的確な判断力なんだ!」

フフフ、街の住人の中にはワシの意図を察する者もいるようじゃの。

安心するのじゃ皆、このノーライフキングたるワシが命に代えても子どもを救出してみせるぞ!

「……いや、死体モドキジジイが着てたのって、生前の大司教時代から着てた法衣だろ? 同じ聖職者の衣服ならわざわざ変える必要なんてなかったんじゃねーか?」