軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1027 焼肉割拠

焼肉パーティは始まったばかり。

準備にここまで手間暇かけたんだ。本番の様子もじっくり丹念に見守っていきたい。

「うりゃああああッッ!! ここからここまでのお肉はアタシのもんじゃああああッ! 掠め取っていくヤツは誰であろうと殺す!」

「誰がそんなこと決めた!? 網の上は皆の公共エリアだ! 圧政は砕かれるべし!」

そして肉の奪い合いに発展している。

一番派手で目に付くのは、ウチの妻プラティと人魚王妃パッファの激突だ。

あれで兄嫁小姑という因縁の深い間柄だが、それに加えてそもそも互いの性格からぶつかることの多い二人である。

双方引くことを知らないから。

「あーらパッファってば人魚王妃様になった今でも圧政反対なんてアウトローが身から抜け切れてないのね? そんなんで兄さんの治世は大丈夫かしら?」

「うっせえ! ウチの旦那様はそもそも悪政なんか敷かないから問題ないんだよ! 臣民が反抗する場合はすべからく臣民の方が悪い!」

パッファも嫁入り前までは、この農場で働いていたのでプラティとも気心知れた間柄だ。

だからこそ衝突し合っても遠慮がないと言うか、肉の奪い合いが激化する。

「プラティ様! それにパッファ妃いけません! 人魚国の王族として二人とも民の見本にならなければな立場ですのよ! それが騒がしく卓を揺らして……!!」

二人を止めようとするのは、同じく身重のカープさん。

人魚国の有名学校の教員らしいが妊娠してから率先して教壇に立つようになったという。

普通逆じゃね?

オメデタなんだから体調を気遣って休みを増やすもんじゃね? と思ったのだが、どうやらそれ以前から新婚で腑抜けていたのが仇になったらしく、それまで溜めてきたツケを支払うかのように教職に打ち込んでいた。

今日が久々の休暇であった模様。

ここ最近ホントに脳内ピンク新婚さんだったからなあ。

現場に戻って少しは矜持を取り戻したのか、ああやって諫める側に回るのを見るのは久々だ。

「そもそもこっちの肉は私のものです! ゴブ吉様の立派な赤ちゃんを産むために譲ることはできません!!」

すぐ化けの皮が剥がれる。

カープさんはもう家庭一筋。余所様のお子などかまってられるか自分の子が一番大事じゃ、という考えに溢れている。

だから肉の一定量確保はかかさないようだ。

そういう堅実にしっかりしたところだけは真面目教師のままか。

そして……。

それ以外は思ったほど騒がしくないのが意外だった

プラティやパッファの他にも肉を巡って争い合うぐらいしそうなキャラクターが何名かいそうだが、ビックリするほど大人しく割かし静かに肉を焼いておる。

彼女らも母親になって落ち着きを得たということなのか!?

たとえばプラティたちと同じ人魚族のランプアイなど一言も発さずある種の緊張感をもって、肉と向き合っている。

「……この焼肉という料理、わたくしにとってシンパシーが高いと言えますね」

「良し悪しを左右するのは、あくまで焼き加減のみ。どれだけの火勢で、どれだけの時間焼くか。火がすべてを決める料理、それが焼肉……!」

一人でブツブツ喋っておる。

孤独のグルメみたいだな?

「ならばかつて『獄炎の魔女』と呼ばれたわたくしの、これ以上ないおあつらえ向きの舞台……! 人魚族の魔法薬を駆使し、千変の炎を精密に操ったわたくしなら最高の焼肉を作り上げることも難しくない!……フフ、久々に血が滾りますね」

そう言ってランプアイ、七輪に何かしらの液体を振りかける。

アレは独り言から察するに、火炎に関わる魔法薬か?

困りますお客さん!

独自の燃料の使用は困ります!

結婚してさらにヤバくなったのはプラティよりパッファより、ランプアイなのかもしれない。

人魚サイドはこんな感じだが、それとは別の魔族サイド。

アスタレスさんとグラシャラさんのことが気になった。

二人はどちらも魔王さんの妃。

魔族の長にして地上の覇者たる魔王さん。

そりゃ一夫多妻は当たり前だもの。

同じく魔王さんからの寵を賜る二人としては、互いに一歩も引けない立場。

いがみ合い度で言えばプラティ&パッファ以上だ。

実際これまでも競い合いぶつかり合いの場面は多く、こんな肉という奪い合いの対象があればますます熾烈になるかと思っていたが……。

「「…………」」

あれッ?

意外にも二人とも大人しい?

どういうことだ、焼肉ともなればテンプレ展開で肉の奪いとなり、戦争勃発の口火は彼女らが切るものとばかり思っていたが。

「……そっち、もう焼けてるぞ……!」

「どうも……!」

大人しい!

大人しいぞ!?

一体どういうことなんだと困惑するしかない。

まさか二人とも、遅まきながら魔王妃としての自覚を芽生えさせて、無用な衝突は控えるようになったのか!?

本当に遅まきだが……!

母親になって心境の変化があった?

しかしそれなら両妃すでに一人目を生んでいることだし、アスタレスさんに至っては二児の母。

出産が会心のタイミングとしてはいささか疑問が残るが……。

「こっち、焼けたのーん」

……は?

よく見たら二人の間に、小さな女の子が割って入っているではないか?

あまりに幼女だったために二妃の陰になって気づきにくかったのか。

見覚えがあるあの幼女は……。

魔王女のマリネちゃん。

「お妃さま同士仲よくしないといけないのん。会食の時こそ仲よし絶好のアピールなのん。二人の仲睦まじさを内外に見せつけて、魔王さんのご家庭には不安分子は一切ないということを見せつけるのーん」

「はい……!」「そうですね……!」

「聖者さんからのご厚意を余さず受け取るのん。心から美味しそうに食べて感謝を表すのが施される側の返礼なのーん」

幼女から正論を叩きつけられては押し黙るしかない大人たち。

魔王さんとこの複雑なご家庭は、マリネちゃんという潤滑油で緩衝材が現れたことにより上手く行っているようだ。

アスタレスさんたちも子どもから諭されては聞き入れないわけにもいかないので、いつもなら売り言葉から買い言葉で鉄拳応酬というパターンにもならずに、静かな食卓となっていた。

……魔王さんですら持て余す二人の魔王妃を、完璧に大人しくさせるとは。

やはりマリネちゃんは大器なのかもしれない。

「聖者様! 聖者様聖者様!!」

一方テンションを上げまくりなのは、かつての農場の仲間バティだった。

パッファやランプアイ以上に長く農場で働いてくれていたのでまだまだ農場の住人という意識が抜けないな。

「それで何をはしゃいでるんだい?」

キミはそこまで美味しいものでテンションを上げるキャラではなかったと記憶しているが?

どちらかと言うと彼女の本職に関わることの方が興奮しやすいというか……?

「はい! この焼肉、美味しいのは当然ですが、食べる時に難儀するかな、というか……!」

何?

詳しく話を聞こうじゃないか?

「はい、お肉を焼くときどうしても油が跳ねたりします。お気に入りのドレスに付いたりすると選択しても落ちずに気分がどん底になってしまうかと……」

まずドレスで焼肉を食う光景が想像できないんだが。

この異世界に焼肉を持ち込んだ時点で文化的にミスマッチなのだろう。

「そこで考えました! 食事中に簡易エプロンをつけることで油をシャットアウト! これで安心してお肉が食べられます! エプロンは紙製にすることで使い捨てとし、どなたにも安心して使ってもらえる上に重さもないから食事中も気にならない! より焼肉を楽しめると思います!」

こんな時にも職人魂が燃え上がるバティよ。

焼肉で商売するかどうかもまだ決まっていないので、今は食べることだけに意識を集中なさい。

キミも立派な赤ちゃんを生まないとね。嫁ぎ先、跡取り問題とかやかましいだろう?

その他はブラックキャットさんなどが……。

「うにゃーん、熱いにゃん。フーフーするにゃん!」

……やはり猫舌か。

旦那さんのシルバーウルフさんにお肉を覚ましてもらい、手ずから口に運んでもらうのだった。

肉は冷めてもアツアツの二人だった。

新婚かよ。新婚です。

焼肉は概ね皆さんに気に入ってもらえたようでよかった。

高タンパク高カロリーで、赤ちゃんを育てるのに不足しがちなエネルギーを補給してください!!

「旦那様が作ってくれる料理はやっぱり美味しいわね! 焼肉サイコー!」

おやプラティ。

パッファとの醜い争いもそこそこに上機嫌で焼肉を堪能したか?

「アタシ大発見したのよ! 焼肉ってもちろん美味しいけれど、同じ味じゃ飽きるし濃い味だから、白ごはんと一緒に食べると凄く美味しいのよ! 食感も変化が生まれるし、何より焼肉のタレと脂が絡んだ白飯の美味さといったらもう!!」

さすがプラティ。

焼肉と白飯のマリアージュをもう発見したか。

人魚族屈指の天才と言われるだけはある。

「さらにこれにビールが加われば……ッかーッ! 想像するだけで美味しそう! 誰か! 誰かビールを持って来なさい!」

いやダメだろう。

妊娠中にビールはご法度ですぞ。

たしかに焼肉とビールもマリアージュだけども、今は控えて。