作品タイトル不明
1015 魔王子vs魔王女?
魔王女マリネ、覚醒。
変な語尾まで追加。
そのあまりに王族として立派なたたずまいに、俺も思わず平伏してしまいそうだった。
ははぁー。
本当に平伏しておりますやん。
「マリネは……異母妹はいつの間にあのような、王族としての威厳を備えるようになったんだ!?」
ゴティアくんはひたすらに戸惑うばかり。
それもそうだろう。女で年下、同じ魔王の血を引くといえども様々な条件でライバルになりえないと思った妹が、これほど大きな王器を示したんだから。
畏怖するとともに自分の立場の危うさを感じ取った違いない。
「そもそもなんでマリネは農場に来ているんだ!? ボクだって、農場学校への入学が決まって初めて足を踏み入れたというのに!!」
正確には物心つく前に何回か来たことがあるんですがね。
それでも記憶がしっかりしてくるようになったゴティアくんに農場訪問を控えさせたのは魔王さんの意向で、それによると常識の尺度を狂わせたくなかったとのこと。
どういうことだ?
農場にいると常識が狂うのか? と思ったが改めて思い返してみるとたしかに狂う。
本来人類の天敵であるノーライフキングやドラゴンと普通にお話したり、一騎で国を滅ぼせるオークやゴブリンが数多くいたり。
その他最高級の食材や設備が溢れ返っている農場と他の土地を同列に置いたら、国が亡ぶ。
そんな価値観を身に着けてしまった為政者の場合な。
だからこそ、後継者としての地位が確立しているゴティアくんを農場に入り浸らせるのは危ういと思ったんだろう魔王さんは。
ある程度自分で判断できるだけの知識と分別が見についてから、農場の異常さに衝撃を受けようという話だった。
「なのにマリネのヤツは、今こうして普通に農場にいるというのはどういう了見なんだ!? ボクと同様の扱いをされれば、少なくともあと一~二年は農場に踏み入ったらダメだろう!?」
「マリネちゃんにはそういう制限なかったよ」
「えッッ!?」
驚くゴティアくん、さもありなん。
「ゴティアくんはあくまで跡取りとして慎重に育てなきゃだから、農場に連れてくるにも段階を踏んだんじゃないの? 逆にマリネちゃんはそこまで神経質に育てられなかったんじゃないかなと思う」
なんやかんやいうて、魔王になることはまずないと思われるお姫様だからな。
「なので割かし放任主義で、農場にも度々来ていたよ前々から」
「何だって!? ズルい! このボクがつい最近まで存在すら知らなかった農場に、マリネは一歩も二歩も先んじて足跡を残していたというのか!!」
「さらには自分で転移魔法まで覚えて、一人で遊びに来てしまう始末」
「転移魔法だって!?」
そこに驚くの?
「だってボク……転移魔法なんて使えないぞ? ここに通うのだって毎回ベレナに送り迎えしてもらっているのに……!?」
「え? そうなの?」
もしやマリネちゃん、王族としての気概だけでなく能力的にも異母兄をリードしている?
あ、そう言えばマリネちゃんは筋力も割と凄い。
元四天王であるグラシャラさんの血を受け継いでいるのか、もっと小さい頃に小舟を軽々持ち上げるのを目撃したことがあった。
「ゴティアくん、マリネちゃんと腕相撲してみる?」
「は? 何を仰っている? いくらなんでも腕力で妹に敗けるはずが……!?」
ギュルギュルギュル! ドンッ!
腕相撲で敗けてこんな音、鳴る?
レディ、ゴーと言った途端にゴティアくん、手の甲をテーブルに叩きつけられた挙句、それでも勢い収まらずに空中で二~三回転はした。
「ぎゃああああああッ! 腕が! 腕があああああああッ!?」
まあそうなるよな。
ゴティアくん手首から肘関節がエライことになってるんじゃないかと思ったが、幸い俺はプラティから預かっている魔法薬を持ち歩いているので、それを振りかけてあげたら痛みは即引いた。
何でも腕が引きちぎれても生え変わるレベルの万能薬なんだそうな。
しかし、よりにもよって年下の女性に敗けたということで抉られた心の傷までは魔法薬で治らない……。
「こッ、こんな……心持ち、魔力、腕力、すべてにおいて妹に敵わないなんて……!」
「しっかりするんだゴティアくん! 気をたしかに持て!!」
大体キミらの年頃だと往々にして女の子の方が強かったりするんだよ!
成長速度の違いというかね。
女性の方が早熟で骨格も早めに完成するから、まだまだ成長途上の男子が下手にぶつかると容易に吹っ飛ばされる。
そうして何人の男子小学生が泣かされてきたことか!
さらに体格だけでなく精神も早熟な女子小学生は容赦なく口撃もしてくる!!
男子小学生を論破なんて実に簡単だ。
力でも、理屈でも屈服させてくる女子小学生とは、世界一恐ろしい生き物に違いない!!
そんな女子小学生と同じぐらいのマリネちゃんに心身まとめてギタギタにされるゴティアくん!
同じ男として同情を禁じえぬ。
「にぃにぃも発展途上なんなー。元気出すのん」
しかし真っ先に慰めに来るのが叩きのめした本人という。
益々魔王子のプライドがへし折られる。
「にぃにぃがポンコツになってしまっては魔国の未来は暗いのんな。こういう時に主君を支えることこそ王族の役目。この魔王女マリネの出番なん!!」
マリネちゃん、やる気出すのはいいけれど、王子の意気消沈を招いたのはキミだからね!
人間、心がへし折れるとそう簡単に元には戻らないものよ! そのためにも接待プレイという概念があるんだ!!
「にぃにぃを支えるためにも、いっぱい勉強して知識と教養を蓄えるん! 自分磨きなん!」
「今からその段階!?」
そんな今日の料理は、苗を植えるところから始めます、のような。
それにゴティアくん消沈の原因はマリネちゃんの有能さだから、キミが成長すればするほど逆効果なんですが!!
「そもそも今日農場に来たのもそのためなん。農場でこそもっとも効率的に有用なことを学べるん。礼儀作法やダンスとか家庭教師が教えてくれるのと両立すれば、立派な制覇系淑女になれるん」
制覇系淑女って何!?
そんな世紀末覇者の親戚みたいな肩書きが!
「というわけで、今日はこの教師から教わろうと思うのん。入場どうぞなのんー」
そんなトーク番組の意ゲストを呼ぶみたいなノリで出てきたのは……。
……レタスレート?
何故お前が?
「レタスレートおばちゃんの経歴は判明しているのん。旧人間国の王女様。我が生まれる前に集結した人魔戦争が終結するまでチャッキチャキのお姫様だったのん」
「誰がおばさんよッ!!」
どこからツッコんでいいやら。
レタスレートが出てきたことも意図不明だし、レタスレートの経歴をそんなマリネちゃんが把握していることも驚きだし。
そしてレタスレートもそろそろオバサン言われてくるような歳でもあろう。
目の前にいる子は、旧人間国が滅びた時には生まれていなかったんだぞ。
……お互い歳をとったものだなあ。
「つまり、レタスレートおばちゃんはまごうことなきお姫様だったのん! これは参考になるのんな! 何故なら我もお姫様であることから!」
何言ってんだこの子?
と思ったけど字面だけ見れば理屈は通っているような気もする。
レタスレートはたしかにかつて王女だった。
旧人間国の。
それこそ数十世代も継続した歴史ある王国の末裔で、それに伴い気品も備わっている、はず。
魔王女であるマリネちゃんが参考とするにはもってこいのサンプル……。
……と思うじゃん?
しかし冷静になって考えて見よ。
意外とそんなこともない。
何故なら旧人間国は、滅んだ国だからだ。
さらにそれがどういうことかといえば、滅ぶべくして滅んだ国だから。
つまりろくでもない国だった。
長く続いだ国だからこそ内部から腐敗は進み、官吏、神官、そして王族もみずからの義務を忘れて享楽に耽るようになっていった。
当然ながら国は疲弊し、人心は荒んでいった。
それが人魔戦争に敗北した人間国の、辿るべき末路だったのだろう。
そんな旧人間国のお姫様レタスレートといえば、それはもう大層な世間知らずのアホ王女であったことよ。
今でこそ大分更生しているが、農場へやってきた当初は連日のように泣きわめいてはプラティに殴られて大変だった。
あの当時を思うとよくここまで持ち直したものだと感涙を流しそうだが、今はそういう話じゃない。
「待つんだマリネちゃん! レタスレートは王女様としてはまったく参考にならないヤツだぞ!! 豆研究家としてはいいかもしらんが……!!」
「フフフ……甘いわねセージャ。柔軟な思考を持たず、一つの視点からでしかモノが見れないからそういう発言になるのよ」
コイツに諭されるとムカつく。
一つの視点? どういう意味だ?
「ヒトにものを教えるのは教師! その教師にも色々なタイプがある! たしかに私は王女として手本にはなれないけれど、私にもある方法で優れた教師になることができるのよ」
「うそだー」
「本当よ! 私が務める容姿の名は……反面教師よ!!」
威張って言うことか。