作品タイトル不明
『傭兵ボルグと錆びついた旗』 - 6
石橋の上に、静寂が戻ってきた。
ボルグは肩で荒い息を繰り返しながら、ゆっくりとテオドールの亡骸を見下ろした。
その顔に勝利の高揚感はなかった。
ただ長い長い悪夢から、ようやく覚めたような深い疲労感があるだけだった。
仲間たちの仇は討った。だがそれで彼らが帰ってくるわけではない。
その時だった。
街の方から、複数の足音が響いてくる。
ボルグは残った力を振り絞り、短剣を構え直した。
「ボルグさん!」
だが現れたのは敵ではなかった。
アリサが数人の衛兵と、そして威厳のある初老の貴族と共に駆け寄ってくる。
「……グラン卿」
アリサの言葉に、その貴族は頷いた。
「……君がボルグ殿か。アリサ嬢から全て聞いた。……間に合わず、すまなかった。そして亡き友との約束を果たしてくれて、……本当にありがとう」
グラン卿はボルグに深々と頭を下げた。
アリサが届けた証拠によってテオドールたちの悪行は全て白日の下に晒されるだろう。そして『白銀のグリフォン』の汚された名誉もきっと……。
ボルグは何も答えなかった。
ただその場でゆっくりと膝から崩れ落ちた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
数週間後、東門に一人の傭兵が帰ってきた。
その肩にはまだ生々しい傷跡が残っている。だがその顔は驚くほど晴れやかだった。
「おかえり、旅の方」
ボルグはヨハンの顔を見ると、悪戯っぽく笑った。
「ただいま、爺さん。……ああ、あんたの言う通りだった。見つかったぜ、俺が守るべきものがな」
その笑顔にはもう何の皮肉もなかった。
「そうか。そいつは何よりだ」
ボルグはそれだけを聞くと満足そうに頷き、王都の春の光の中へと消えていった。
その後ろ姿を見送りながら、ヨハンの脳裏に静かな声が響いた。
《ピーン! スキル【見送る者】のレベルが46に上がりました》
《新たな能力『見送った傭兵の剣の鞘が、ほんの少しだけ抜けやすくなる』を【獲得】しました》
ヨハンは青く澄んだ春の空を見上げた。
一度は信じることをやめた男が再び自らの旗を掲げた。
人生という旅のなんと遠回りで、そして愛おしいことか。
彼はそう、静かに思った。