軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7お仕事開始(後)

「きゅっ」

マーガス様がやってくると、ポルカは足をだんだんと踏みならすのをやめた。丸い瞳が喜びのせいか、はたまた日光の加減なのか、より一層きらきらして、可愛らしく見える。

「ポルカ。アルジェリータがお前の口を見てくれるそうだ。噛むなよ」

いつ私がそんな野蛮なことをしたのでしょうか? と言いたげに、ポルカは小首をかしげた。その様子を見ていると、飼い主であるマーガス様が言わない限り、ポルカがそんなに凶暴だなんて普通は思わないだろう。

ポルカがマーガス様の指示に従って口を開けると、確かに、口の中には小さな傷ができていた。木をかじっていて木くずが刺さったのだろうと考えられる。

分厚い筋肉とかたい皮膚、そしてふわふわの毛でおおわれているけれど、口の中の皮膚は無防備だ。

「確かにな。夜のうちに悪さをしたんだろう……軟膏を塗れば、自然治癒するはずだ」

口の中をケガした騎竜は軟膏を塗られて、そのあと口を大きく開けなくなるように専用の器具でとめる。次の食事の時間までそうなるので、嫌がる子はものすごく多い。

実際、ポルカもマーガス様が手綱をしっかり握っていなければ、後ろにすっ飛んでいくだろう。「ぎぃ~っ」と嫌そうな声を出しながら、あんなに信頼していた様子のマーガス様から逃れようとしている。

「咬み癖があるお前が悪いんだぞ。この機会に改めろ」

マーガス様は私に「軟膏を持ってきてくれ」と言った。騎竜が暴れているのに、彼の体幹は全くブレる事がない。

「……待ってください。私に……考えがあります」

ケガとしては軽度のものだ。軟膏を塗らなくても、一日か二日で自然と良くなるだろう。不快感が軽減されて、ポルカの機嫌が良くなればそれでいい。

──何を?

マーガス様の瞳はそう問いかけていたけれど、言葉にしない代わりに、小さく頷いた。

念のために分厚い皮の手袋をはめて、魔力を込める。

ぽわっとした、綿毛のようなかすかな魔力。これが私の精一杯だ。

けれど──。

ポルカは不快感がなくなったのか、尻尾や足を地面に叩き付けるのをやめて、大人しくなった。

「良かったな」

マーガス様が手綱を放すとポルカは静かに私達から離れて餌桶のほうへ向かっていった。

どうやらうまくいったようで、ほっとする。

「ありがとう。すっかり機嫌がよくなったようだ」

「いえ……」

なんとかお役に立つ事ができたようだ。お世話係としては上々の滑り出しだろうか。

「ところで……君には癒やしの力がないと聞いていたが」

ふとした問いかけに、羞恥で顔が赤くなった。

いつまで経っても自分が不適格だと人に知られている──出来損ないだと突きつけられるのは苦しい。

「すまない。その件に関してはどうこうと言うつもりはない」

マーガス様は私が黙りこんでしまったのを、気にかけてくれたようだ。

「実はほんのちょっとだけ、あるのです」

魔力がまったく無い訳ではない。けれど、痛みを和らげたり、不快感を抑える程度で精一杯で、外傷を治せるような目に見える成果はない。

「力を隠していたのか?」

子供の頃はほとんど使えなかった。私がようやく治癒のまねごとをできるようになったのは、騎竜の里にやって来てからだ。

病に苦しむ騎竜達をなんとかなだめようと四苦八苦しているうちに、徐々に使いこなせるようになった。

「直接的な解決にはなりませんから……」

「きゅっ!」

ポルカのかわいらしい鳴き声が会話を遮った。餌をもっとよこせ、のおねだりだ。追加で餌を入れたけれど、どうやらご所望はこれではなかったらしい。

「待っててね。食料庫で騎竜が食べられるものを探してくるから」

騎竜は雑食だ。何かしら与えてもいいものが見つかるだろう。

「その前に自分の食事をなんとかしてはどうだ」

マーガス様にそう言われて、急にお腹が空いてきた。

考えてみれば、昨日の夜は緊張で食事が喉を通らず、今朝も急いで出てきてパン一つ口にしていない。

「あ、そ、そう……ですね……」

「ぎゅっ!」

ポルカは早く何か持ってこいと私を急かす。

「……ポルカが待っているのでその後で」

「ふっ……ははっ……」

──突然、マーガス様が、笑った。

そんなにおかしな事を言っただろうか? 身分の高い方の笑いのツボはよく分からない。

「自分の事よりポルカを優先するなんて、おかしな奴だ、と」

──それって、マーガス様も一緒ではないですか? と思わず言い返しそうになったが、私は口をつぐんだ。