軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

コミカライズ開始記念SS「ウェルフィンの思い出」

珍しく二日ほど大雨が続いた、次の日の朝のことだった。

「わ〜、雨でびしょびしょだわ」

雨は明け方まで続いていて、朝日とともにやんだばかり。

朝が来るのを待っていたのだ、とばかりにポルカは寝床から飛び出して、芝生の上にできた水たまりをじっと覗き込んでいる。

その様子はまるで「水鏡に映る私って、なんて美しいのかしら」とでも思っているみたい。

「ポルカ、おはよう」

そう声をかけながら近づくと、ポルカはちらりと私を見た。けれどすぐに水鏡へと視線を戻してしまった。

「……無視ね?」

ポルカは答えない。じりじりと彼女に近づいていく。ポルカはこちらを見ない。

もう一歩近づいたその時──。

バシャッ!!

「きゃっ!」

ポルカがいきなり前足を振り上げ、水を思い切り跳ね上げた。

反射的に後ろへ後ずさったおかげでギリギリ助かった。

……今のは、完全に、狙っていた。

「もう、ポルカ、やったわね!」

ほんの少しでも遅れていたら、私はずぶ濡れになっていただろう。

「ぎゅ〜」

「そんな心配そうな声を出しても、駄目」

だってポルカはいたずらっ子だから、このかわいいところまでが作戦なのだ。

「水たまりがあるとすぐに水をかけてくる」とマーガス様に聞いていなかったら危なかったけれど。

今だってちらちらとこちらを誘うような素振りをして、私に後ろをついてきてほしそうだけれど、その先には芝生がない。騎竜は草原でも岩場でも水辺でも活動できるから、できる限り外の生活を忘れない様に、ブラウニング邸の庭にはむき出しの地面になっている箇所がある。

つまりは水たまりどころじゃない、どろどろの場所があるのだ。

「ぎっ!」

ポルカは「つまんない女ね!」とでも言いたげな目をしてから、すぐに楽しそうに「ぎゃっ!」と鳴き、跳ねるように泥の中へと突っ込んでいった。

バシャッ! バシャッ!

ポルカは嬉しそうに泥の中を跳び回り、ドロドロになっていく。

「……あーあ」

ポルカは楽しそうにはしゃいでいる。楽しいのは結構なのだけれど……これはもう、洗わなきゃダメね。

「ポルカ、遊ぶのが終わったらお風呂だからね!」

私の声が聞こえたのか聞こえていないのか、ポルカは砂風呂ならぬ泥風呂よ、と言わんばかりに泥の中に飛び込んだ。

「ああ~」

せっかくの毛艶が台無しだ。

「朝から元気だな」

騒ぎを聞きつけたらしいマーガス様がやってきた。

「水をかけられたか?」

「はい。でも、避けました」

「それは良かった」

「でも、汚れるのを止められませんでした」

ここからでも、綺麗な漆黒の羽が茶色になってしまったのが見える。

「それにしたって、ウェルフィンよりはましだ。銀は本当に、汚れが目立つから」

マーガス様は昔を思い出したのか、少し笑った。

「確かにそうですね。砂埃が舞うだけで、なんだかくすんじゃって。でも……ウェルフィンって……ウェルフィンも、泥でイタズラしませんでしたか?」

ウェルフィンは温厚でとても賢い騎竜だったけれど、たまに人をからかって遊ぶことがあった。

「そう。わざわざ泥に足をつけて、石畳や床の上に、こう……」

靴の裏をそっと水たまりにつけて、石畳に足跡をつけていくマーガス様の仕草はウェルフィンにそっくりだった。

「似てます! それ、よくお散歩の途中に、事務所の前を通ったときにわざわざ……!」

ウェルフィンは「ここは儂の領地じゃぞ~」と言わんばかりに、足跡をつけていくのが癖だった。

私たちが盛り上がっているのを聞きつけてか、どろどろになったポルカがこちらに向かってまっすぐ駆け寄ってきた。

「ぎゅーっ!」

多分、喋ってるんだったら私に構いなさいよ、とかそういう感じなのだと思う。

「ポルカが真似をすると困るから、これ以上はやめておこう」

マーガス様がウェルフィンの真似をするのをもうちょっと見ていたかったけれど、ポルカに真似されたら本当に困るから、ポルカに追及されても、私も知らないフリをしなくては。……できるかしら?