軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18アルジェリータとポルカ

……調子に乗ってしゃべりすぎただろうか……。

マーガスさまはそれきり書斎に戻ってこなかったので、私はポルカの夕飯のお世話をしている。

「……はあ……」

騎竜のこととなると、喋りすぎてしまう。唯一の共通点で、私とマーガスさまをつなぐほぼ唯一で、明確なもの。

──それに、すがりすぎた。

「げっげっげっ!」

ポルカは私とマーガスさまが一緒にいないせいか、ご機嫌に高笑いをしている。彼女にとって私は愛するご主人と自分の間に挟まる邪魔者でしかないのだ。

「あなたったら、憎たらしい子よね」

不満を漏らすと、ポルカが楽し気に足踏みをした。……まるで喜びの舞を踊るみたいに。

「もう、本当に。あなたみたいな子、性悪っていうのよ」

「ぎゃっぎゃっ!」

私をからかうように、ポルカはより一層飛び跳ねた。

「ちょっと……大分可愛いからって、調子に乗って。そんな意地悪をするなら、私だって仕返しをするわよ。……おやつを減らすとか、ね」

「俺の教育が悪かったようで申し訳ない。姫扱いをして猫かわいがりしたせいだ」

おもわず口から飛び出た八つ当たりの言葉に、反応があった。

「あ……」

いつの間にか、マーガスさまが私のすぐ背後に立っていたのだ。

……気まずい。

「も、申し訳ありません、今のは……その……じゃれ合っていただけで、本当にポルカの事を憎たらしいと思っている訳ではなくって。あの、私……話し相手がいないので、よくこうやって騎竜に勝手に性格付けをして、話かけてしまう癖がありまして……その、本当に、ポルカの事を憎らしいと思っているわけでは……意地悪なんて、そんな……」

しどろもどろになりながら、言い訳をする。返事がない。……大事なポルカが不当な扱いを受けているかもしれないのだ、怒るのは当然だろう。昨日の今日で、解雇を言い渡されてもおかしくない。

「その……」

顔を上げると、マーガスさまは困った様な顔をしていた。

「……今のは、冗談のつもりだった」

「冗談……ですか」

「ポルカがおとなしくやられっぱなしになるわけがないし、本当に憎たらしいと思われていたらそれこそポルカに問題がある」

すとんと肩の荷が落ちて、全身の力が一気に抜ける。

「申し訳ない。場を和まそうとして、失敗したようだ」

マーガスさまの冗談に乗ることができなくて、私の方こそ申し訳ない……と思うけれど、ここで謝り合戦をすることは、なんだか時間が勿体ない気がする。

──ここは、多分……笑うところ、かしら。

ぎこちないながらも、にっこりと笑みを作ってみると。マーガスさまはほっとしたようだ。

段々、少しずつだけれどマーガスさまの事がわかってきた。いや、調子に乗って失敗したのだった。

「さきほどはその……恥ずかしい話だが、君の話を聞いているうちに昔飼っていた騎竜の事を思い出してしまって」

騎竜が戦場に立てる時間は限られている。騎士の家系ともなれば、騎竜との別れも多く経験しているだろう。

「俺は……彼の最期を看取ってやれなかったんだ。よい最後が遅れていればよかったな、とか住み慣れた家から引き離されて俺の事を恨んでいたかもしれないな、などと感傷的な気分になってしまった」

「マーガスさまにそう思っていただけて、騎竜もきっと幸せに思っていると思いますよ」

人間には色々いるから、騎竜の事をただの家畜として扱っている人も少なからず存在する。法律で面倒を見ることを定められているから邪険には出来ないが、危険な重労働──騎竜の世話を人任せにしたい、と言う人たちの事を、私は騎竜の里で沢山見てきた。

けれど、彼は違うと、少しの時間しか一緒に居なくてもわかる。

マーガスさまは変な顔をした。慰めは不要だったかもしれない。

「すみません、差し出がましい事を」

「いや……そんなことはない。ありがとう。それで……」

それで、の後が続かなくて、妙な沈黙があった。急かすのもおかしいので、黙って次の言葉を待っている。

「明日、何か用事があるか」

「ありません」

「では、市街地へ……」

「はいっ。どこへ向かえばよろしいでしょうか」

何かお遣いの用事かと思ったが、どうやらそうではないらしく、マーガスさまは口ごもった。

「どこへ行けばよろしいかと言うよりは……一緒にどこか行かないか、と」

どこかって、どこだろう。心当たりがあまりなかったし、どこかという事はつまり、マーガスさまにも明確な目的地はないのだ。

「ポルカの世話がありますから」

何となく、断らなければ、いけない気がした。

「若くて健康な騎竜は半日放っておいても平気だと、君も知っている筈だが」

「いえ、私の仕事はポルカのお世話です!」

「君の仕事は別にもあったはずだが」

妻としての仕事があるだろう、とマーガスさまは言いたいのだ。

「わ、わかりました。何をすればいいでしょうか」

「その……服をだな」

そう言われて、さっと血の気が引いていく。

服を買えと言われたにもかかわらず、私はまだ服を買っていない。

今着ているのは使用人用の服──洗い替えも貰ったし、これの着心地が良くてすっかり満足してしまっていたのだった。

その姿がみすぼらしいから、俺に恥をかかせるな、と暗に言われているのかもしれない。

「申し訳ありませんでした」

「謝る必要は無い」

「欲しい服がないのか?」

「必要性を感じませんし……」

「必要性を。感じない?」

衣装部屋には大量の服が詰まっているが、服の数を数えると、私は一月のあいだ、毎日違う服を着ることになってしまう。それこそ体型が変わらなければ一生分あるのではないか? と思ってしまう。

確かに子供の頃は、確かに美しいドレスを着たい願望があった。けれど、今の生活にはそぐわないし、素敵なドレスを着て出かけるあてもない。

「それに……たとえ私がどんなに着飾ったとしても、服を着ていない騎竜の方がよっぽど美しいし、なんて……」

「はっ?」

マーガスさまは私が何を言い出したのかと、切れ長の瞳が大きく見開かれた。その瞳の中に、間抜けな顔の私が映っていて、恥ずかしくなってきた。

「今の発言は忘れてください……」

「いや。確かにポルカは……と言うよりは、騎竜は美しいからな。ポルカはいっとう美形だ。まあ、人間の美醜の価値観なんて騎竜には何ら関係の無いことではあるが……」

「はい」

ポルカは褒められた事を理解しているらしく「きゅ?」などと可愛い声で小首をかしげたりしている。私の前では絶対に、そんなにきゅるきゅるした瞳をしないのに。

「しかし、それとこれとは別だな? 騎竜がどんなに美しかろうと、君は人間だ。毛皮がない」

「はい、仰る通りです」

マーガスさまのお気持ちは一向に不明のままだけれど、雇い主の意向には従わねばならない。最近失敗続きだ。変な事を言わないように、挽回しなければいけない。

「先ほど服には興味が無いと言った。それはつまり、俺の気に入った服を着せても良いと言うことか?」

「はい。マーガスさまが用意してくださるものなら、なんでも」

マーガスさまが突飛な衣類を用意してくるとは考えにくい。質実剛健を絵に描いたような彼の事だ、きっと丈夫で実用的な服を用意してくれるだろう。