作品タイトル不明
それから
その日のうちにリリーはローゼンフィルへと帰っていった。お母様はリリーと一緒に帰らず、部屋に籠っていたが、私はお母様に構うことなく結婚式の準備に忙しく過ごしていた。お母様から接触してくることもなく、そのまま結婚式当日を迎えた。
結婚式は天気に恵まれ、青空の下行われた。辺境の小さなチャペルの扉が開くと、深いブルーの正装をしたルカルディ様が微笑んでいる。私は青緑から濃紺へとグラデーションになっているドレスを纏い、フレッドにエスコートされていた。お父様の代わりにどうしてもフレッドにエスコートして欲しいと、恐縮するフレッドを説き伏せたのだった。
フレッドの手からルカルディ様の手を取ると、私のつけているシャルフラワーの香りと、ルカルディ様のつけているミラフラワーの香りがふわりと混じり合う。
「綺麗だ、オルデア」
「ありがとう、あなたも素敵よルカルディ」
夫婦になるのだからお互い呼び捨てにしようと決めたけれど、慣れずに妙にくすぐったい。
神に誓い、私達は夫婦になった。
その日私は幸せすぎて、頬が筋肉痛になるほど1日中笑顔だった。
チャペルを出たらサプライズで辺境の領民達がフラワーシャワーを用意してくれていた。
ローゼンフィルからリュシュもフィーリアも来てくれて、ヨーゼフしじさまとマデリン、サムソンまでワインを持って駆けつけてくれた。その他にもローゼンフィルのお世話になった領民達が何人もお祝いに来てくれたのだ。
ローゼンフィルの領民達の姿や、私の笑顔を見て、傷ついたような顔でこちらを見ていたお母様に気付いてはいたが、私から話しかけることはなく、お母様も遠くから見るだけで決して近寄っては来なかった。
そして結婚式だけを見届けて、お母様はその日にそっとローゼンフィルへと帰っていったらしい。
私は披露宴パーティーに翌日は領地のお祭りにと忙しく、お母様が帰ったことに気づかなかった。
祝の席では第三王女殿下からもお祝いの言葉をもらい、その際に私とルカルディ様の香水は何かと聞かれた。私は新しい香水を紹介し、殿下に贈ることを約束した。
後に殿下の「辺境伯夫婦のような仲睦まじい夫婦になれる願掛けとして、ミラフラワーの香水を婚約者にプレゼントしたの」という言葉から、2つの香水は夫婦仲が良い象徴として人気になり、婚約者同士プレゼントし合うというのも流行り、私の商会はますます大きくなったのだった。
「おかあしゃまー」
「おかしゃまー」
庭の四阿でお茶をしていると、可愛いらしい2つの声が響く。ポテポテ駆け寄ってくる2人の娘を笑顔で迎えれば、2人は私を挟むように席に座る。
「ラーラ、ミーナ、可愛いお花ね?」
2人の手には白い小さな花が握られていた。
「これね、ロイにどぉじょ」
「リックがくれたの」
庭師のリックがくれたお花を、私の腕の中でスヤスヤ寝ている2人の弟であるロイに持ってきてくれたらしい。
「そう、ロイも喜ぶわね」
あれから私は3人の子供に恵まれていた。妊娠が分かった時とても嬉しかったけど、私はもし2人目ができた時に同じぐらい喜べるだろうかと少し不安にもなった。しかしそんな私の不安を吹き飛ばすかのように、私のお腹には2つの命が宿っていた。
一応姉ラーラ、妹ミーナ、ではある双子は仲も良く、私は愛しい子供と過ごしているうちに悩みなんて杞憂だったと確信した。どちらも等しく愛しいと思えた私は、怖がることなく3人目の妊娠を喜んだ。
そして産まれたロイを、ラーラもミーナもとても可愛がっていた。
「オルデア、少し冷えてきたよ」
そう言ってストールをかけながら後ろから私を包み込むルカルディ。
「そうね、そろそろ部屋に戻るわ」
「とーしゃま」
「ととしゃま」
「「だっこ!!」」
声を揃えて抱っこをねだる2人を軽々両手に抱えたルカルディと並んでサロンへと戻る。
「そういえば、ローゼンフィルのお祖母様から荷物が届いていたよ。ロイへのお祝いと、ラーラとミーナにも何か届いていたよ」
それを聞いた双子は、ジタバタと暴れルカルディ様の腕から降りると部屋へ向かって駆け出していった。
「走るとあぶないわよ」
そう声をかけたが、まだ幼い2人の耳に届くことはない。
庭からすぐそこのサロンへ入ると自分達の荷物であろう箱を無造作に開け、中に入っていた可愛らしいドレスを持ってくるくる回っていた。
「おかしゃまー可愛い!」
「とーしゃまー似合う?」
キャッキャと笑う2人に良かったわねと言えば「おばーしゃまに見せたい」と言う。
「2人が会いたいならいつでも会わせてあげるわ」
「いいのかい?」
ルカルディが心配そうに私を覗き込む。
結婚式のあの日から私はお母様にもリリーにも会っていない。ローゼンフィルへは何度か帰ったが、侯爵家に行くことはなかった。あちらからも手紙一つなかった。
しかし、双子が産まれた後、お母様からお祝いが贈られてきた。それからもお母様は双子へとロイへと荷物だけを送ってくる。それにお礼の手紙だけは書くぐらいの付き合いしかしていない。
「子供達からお祖母様を奪う権利は私にはないわ。だから子供達が会いたいと願うなら、そしてお母様も会いたいと思うのなら会わせる。でも、それだけよ。私はもう会うつもりはないし、私とお母様達の関係は変わらないわ」
「そうか。オルデアが辛くならないならいいんだ」
ルカルディ様はあれからずっと私を愛し大切にしてくれている。その愛があったから私はこんなにも幸せな家族を得ることができた。
私の肩を抱く愛しい旦那様をそっと見上げれば、いつもと変わらず優しく微笑んでくれる。
「愛してるよ、オルデア」
「私も愛してるわ、ルカルディ。あなたと家族になれて良かった」
―――END―――