軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

トラウマ

目を覚ますと、もう見慣れた天井が見える。辺境伯邸で用意された私の部屋だ。

「オルデアお嬢様、気分はいかがですか?」

その声に視線をやれば、心配そうにこちらを覗き込むライナが見える。

「ライナ……私気を失ったのね。ええ、気分は大丈夫よ。ええっと私どのぐらい寝ていたのかしら?」

「ほんの数十分程でございます。今メイドがシュルベスト辺境伯様にお嬢様のお目覚めを報告に行きました。とても心配してすぐ近くでお待ちのはずです。お会いできますか?」

「ええ、お会いできるわ。支度を整えないと」

ベットから出ようとする私をライナが押しとどめる。

「まだ安静にしていてください」

体を起こして、よりかかれるように背中にクッションが差し込まれた。

「もう元気よ。ベットの上のままでは失礼よ」

「そんなことで怒るようなお方ではないでしょう。それより起き上がっていたら心配されますよ」

そのままライナが手早く髪を整えてくれた頃、ノックの音がする。

ライナが扉を開ければ心配そうな顔のルカルディ様が飛び込んで来た。

「ルカルディ様……ご心配おかけしてすみません」

少し体を浮かすと、ルカルディ様はそれを手で制した。

「そのままで。大丈夫かい?すまなかった、私もついていれば良かった」

「いいえ、私も倒れるとは思いませんでしたもの」

「今医者を呼んでいる。安静にしててくれ」

「まぁお医者様まで…」

しばらくしてお医者が来てくれた。診察の間は部屋を出ていたルカルディ様は、お医者が帰ってすぐ私の元へと来てくれる。

「あの、お医者様から話は?」

「ああ、聞いたよ。強い心労がかかったのではないかと。結婚前で思い悩むことも多いのだろうと。安心させてやるようにと言われてしまったよ」

「違います!ルカルディ様との結婚で思い悩むことなどありません」

「大丈夫、分かってるよオルデア嬢。もうあなたを守れない立場ではない。私も一緒に話を聞くべきだったのに、1人にしてすまなかった」

「いいえ。私が弱いのですわ。お母様を前にしたら言いたいことが言えなくて。でももう今までのように気持ちを押し殺すこともできなくて。体の中を言葉や感情がぐるぐる掛け巡るような感覚で、気付いたら気を失ってましたわ」

「あなたは優しく強い人だよ。だからこそ自分1人で全て抱えてしまう。でもこれからは私も一緒に抱えるから。私はあなたの心も守りたい」

お母様を前にして、私はローゼンフィルにいた頃の私に戻っていたのかもしれない。

「…………私、もう母と二人では話し合いたくないのです。でも、母と話さなければなりません。母は……ルカルディ様との結婚をやめなさいと……私がいないと不便だから。私が結婚することで家族が不幸になると言われて」

悔しさと恥ずかしさで涙が出る。お母様の前では決して流せなかった涙は、ルカルディ様の前では素直に流れ出た。

「まさかここにきて結婚をやめろとは驚いた」

ハンカチで私の涙を優しく拭いながら、ルカルディ様は少し呆れた声で言った。

「非常識で申し訳ございません。もちろん私は結婚をやめるつもりなどありません」

「もちろんだよ。大丈夫、私だってあなたとの結婚を諦める気などない。それにしても理由が酷いな」

「ええ、お母様は私の幸せなど考えてくれないのだと思い知らされましたわ」

「オルデア嬢……辛い思いをしたね」

「お母様と話をします。でも1人は怖いので、一緒にいてくださいますか?」

「もちろんだよ。オルデア嬢、あなたが良ければ私だけが話してこよう。あなたがこれ以上傷つけられるのは耐えられない」

「……いいえ、私もきちんと話がしたいです。言いたい事をちゃんと言いたいのです」

ルカルディ様は私の瞳を見てしばし逡巡した後、頷いてくれた。

「そうか……わかった、明日話し合う時間を設けよう。今はとにかくもう少し休んだ方がいい。明日体調が良ければ一緒にお母上と話そう。でも、嫌だと思ったら絶対に無理せず、私に任せて退室すること。約束してくれるかい?」

「はい、ありがとうございますルカルディ様」

ルカルディ様はライナに一度目配せした後、私の頬をひとなでして名残惜しそうに部屋から出ていった。

ライナによって休みやすいようナイトウェアに着替えさせられたせいか、知らず疲れが出ていたのか、私は夕食にも目を覚まさず朝まで眠ってしまった。