軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第57話 呼び出し

「ニュースがあります、ゼノス……いや、ゼノ君」

週が明け、再び特別研修生として王立治療院に戻ったゼノスに、ベッカーがにこにこした顔で言った。

相変わらず雑然とした研究室で、山と積まれた資料はいまにも雪崩を起こしそうだ。

「ニュース?」

「ええ、ゴルドラン研究室からの呼び出しがありました」

「おお、まじか」

「わっ、すごいです。ゼノさん」

後ろに立っているウミンが、拍手をする。

ベッカーは寝癖のついた頭をすりすりと撫でた。

「いやぁ、さすがですね。私もこんなに早いとは思っていませんでした」

「でも、なんでだろうな」

「どうやらアンデッド退治での活躍がゴルドラン研究室の目に留まったようですが」

「へえ……」

「意外ですか?」

「あれは表向きにはクレソンという男がやったことになってた気がするんだが」

「私も詳しいことはわかりませんが、いずれにせよ呼び出しがあったのは確かです」

ゼノスは椅子に腰を下ろして、ほっと肩の力を抜いた。

「とりあえず、第一関門は突破ってことか」

「まあ、スタート地点に立ったというところですね」

ベッカーは柔和な笑顔のまま、顔の前で手を合わせる。

「ゴルドラン教授には複数の秘書がいるのですが、おそらくそのうちの誰かがゼノ君を推薦したという状況でしょう」

「ということは……」

「残念ながら、まだ教授自身による面接が残っています」

「まだあるのか。ただ話を聞くだけでも大変だな。もっと気軽に話しに行けないのか?」

「ゴルドラン教授は王立治療院では最大規模の派閥を束ねる長ですからね。そうそう簡単に会える相手ではないのですよ」

「組織ってのはややこしいな。俺には向いてなさそうだ」

ゼノスは腕を組んで嘆息した。

「ウミンからは少し聞いたけど、あんたから見てゴルドラン教授ってのはどんな人物なんだ?」

「治癒師としての業績も勿論あるにはありますが、目立つのは政治やお金集めのうまさですね。財政面で王立治療院に多大な貢献をしたことと、七大貴族の一角と懇意にしていて、貴族の強力なバックアップを受けて特級治癒師になったという噂もあります」

ハーゼス王国は厳然たる階級に支配された国家だ。

貴族というだけで大きな富と力を持っているが、中でも七大貴族の財力と権力は突出しており、それこそ黒いものを白に変えるくらいの力を有すると聞く。

ゴルドラン教授はそんな勢力と近しい間柄らしい。

「ふーん……特級治癒師って治癒能力だけでなれる訳じゃないんだな」

「残念ですか?」

「まあ、俺には関係ないけど」

「ふふ。創薬で認められた私と、財政面で評価されたゴルドラン教授が特殊なだけで、あとの特級は基本的には腕利きばかりですよ。機会があれば紹介したいですが、なにぶん忙しくて捕まらない者や、かなりの変わり者が多いので」

「興味はあるが、あまり長居するつもりはないからなぁ」

なんせこちとら無免許の違法ヒーラーである。

一方、ここは正規の治癒師の総本山。

だらだらと居座れば、いずれボロが出るかもしれない。

「ま、とりあえず、その呼び出しとやらに行ってくるよ」

「ええ、健闘を祈ります」

「ゼノさん、頑張って下さい」

ベッカーとウミンに送り出され、ゼノスは部屋を後にした。

「ベッカー先生、ゼノスさんなら大丈夫ですよね」

残されたウミンが言うと、ベッカーは少し黙った後、ゆっくり頷いた。

「そうですねぇ……」

「なんか歯切れが悪いですね」

「ゼノス君の実力は心配していませんが、ゴルドラン教授はああ見えて慎重で猜疑心が強い性格ですからね。その点だけが懸念です」

「ゼノスさんの素性が疑われてしまう、ということですか?」

「ばれた時のために夜逃げの準備をしておかなければなりませんねぇ。ふふふふ」

「笑いごとじゃないですよ、先生」

慌てるウミンを見て、ベッカーはどこか楽しそうに言った。

「まあ、僕らは彼に賭けたのですから、信じて待ちましょう」

+++

「入りたまえ」

研究棟の最上階一つ手前の階。

応接室のドアをノックしたゼノスに、低い声で返事があった。

中に入ると、二人の男が奥の長机で待ち構えていた。

端に座る狐のような顔立ちの男は、おそらくベッカーが言っていた秘書だろう。

「君が特別研修生のゼノ君か」

中央に坐した男が、声を発した。

白髪混じりの髪をオールバックにしており、黒々した口ひげを蓄えている。

この人物が、ゴルドラン教授だろう。以前、食堂で見かけた時は遠目からだったが、近くで見ると眼光が鋭く、独特の威圧感がある。

「どうも、ゼノです」

緊張感の漂う室内で、ゼノスは一瞬だけマスクを下げて挨拶した。

用意された席に腰を下ろすと、最初に秘書が口を開いた。

「ようこそ、ゼノ君。私は教授の第二秘書をしている者だ。珍しい魔法陣を描いたり、多数のアンデッドを片付けたり、君は随分と活躍をしているらしいね」

「ええ、まあ」

アンデッドの件はどうやら伝わっているらしい。

とりあえず、ゼノスは素直に頷くことにした。

「今日来てもらったのは他でもない。王立治療院でも最大規模を誇るゴルドラン研究室を是非体験してみないかと思ってね。特別研修生では滅多にできない経験だ。素晴らしいだろう?」

「できるものなら是非」

懐に入り込むためには、そう答えるのがいいだろう。

秘書は満足そうに頷くと、役目は終えたとばかりに教授に目を向けた。

ゴルドラン教授の鋭い視線が、ゼノスにひたと据えられた。

「――では、ワシから質問させてもらおう」