軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第55話 アンデッド討伐隊【後】

「うおおおおおおおおっ!」

自らを奮い立たせるような雄たけびを上げ、クレソンはゾンビキングに立ち向かっていく。

体中から粘液をぼとぼとこぼしながら、敵はぐるりと首をまわしてクレソンを見下ろした。

ずる、と崩れそうな足を踏み出すと、強烈な腐臭が風に乗って漂ってくる。

直前まで立っていた場所からは、じゅうと煙が上がった。

「< 高位治癒(ハイヒール) >っ!」

クレソンが杖を前に掲げる。

白い光がゾンビキングの腹部を直撃し、ぽっかり風穴が空いた。

「や、やった! ふはははっ、俺の渾身の魔法はどう……んなにぃっ」

しかし、腹の穴はぶよぶよした肉塊ですぐに塞がれ、クレソンは驚愕の声を上げる。

ゴオオオオォ!

ゾンビキングが右手を振り下ろした。

まだ体が馴染んでいないのか動作はやや緩慢であり、クレソンは横っ跳びでそれをかわした。

地面を叩いたアンデッドの腕が砕け、残骸が周囲に飛び散る。

散らばった肉塊がその腕に巻き付き、即座に再生された。

クレソンは再び立ち上がり、今一度ゾンビキングに駆け寄った。

が、敵がまた腕をふるい、クレソンはごろごろと地面を転がって避ける。

そのやり取りが幾度か繰り返された。

土まみれのクレソンは、腰に手を当て、あくまで高笑いを響かせる。

「は、はははっ、見たかぁギャラリー共っ、ここまでは互角以上っ。俺様は指一本触れられてないぞ」

「って言うか、治癒魔法を一発放った後は、周りをちょろちょろしてるだけですけどね。そもそもギャラリーは私達しかいませんし……」

ウミンが呆れた調子でぼやいた。

他の若手達は応援を呼びに行ったため、この場にいるのは他にゼノスとウミンのみ。

隣のウミンは戦況を眺めながら、小さく頷く。

「でも、これでアンデッド大量発生の原因ははっきりしましたね」

「そうなのか?」

「ええ、アンデッドはより強力なアンデッドに引き寄せられる性質があるんです。墓地みたいな死に近い場所では特に」

「なるほど、ゾンビキングが原因だったってことか……」

ゼノスは腕を組んで小さく首をひねった。

「それにしても、あの男は、さっきゴーストやゾンビを一掃したのは自分だって主張してたよな?」

「してましたねぇ」

「その割に戦い方が消極的すぎないか」

「まあ、さっきのは嘘なんでしょうね」

「嘘なのか」

「ええ。でもゼノさんは手助けしないで下さい。ちょっとくらい痛い目を見たほうがいいんです」

「……」

ゼノスはしばらく黙ってから、隣のウミンに言った。

「そう言いながらあいつのこと心配はしてるんだよな」

「え、なんでそう思うんですか」

「他の奴らと一緒に助けを呼びに行かずに、わざわざここに残ったってことはそうかと思ってな」

「まあ……骨くらいは拾ってやろうと思いまして。一応、同期ですし」

「ウミンはいい奴なんだな」

「いえいえ、そんなことないです」

ウミンは慌てて顔の前で手を振り、前線のクレソンの背中を睨んだ。

「ただ、あいつごろごろ転がってるだけでもう全然戦わないですね。助けが来るまで時間稼ぎするつもりですかね」

「……」

ゼノスは腕を組んだまま、眉をひそめた。

「それはよくないな」

「ですよね。大口叩いた手前、格好がつかないですね」

「そうじゃなくて、ゾンビキングは放置するほど腐った体が馴染んで強くなるから、単なる時間稼ぎは悪手だ」

「……っ!」

ウミンが息を呑んだ瞬間、クレソンの呻き声が響いた。

「がはぁっ!」

ゾンビキングの突き出した右腕が、遂にクレソンを捉えた。

その体が派手に吹き飛び、墓石に激突する。

「< 治癒(ヒール) >っ」

自らに回復魔法をかけたクレソンは、這うようにして敵から距離を取った。

「ちっ、油断しちまったぜ。だが、この程度はかすり傷だ」

強がってはいるが、足にきているようで膝が震えている。

「さあ、勝負はこれか――」

しかし、そう宣言した瞬間には、ゾンビキングの拳がクレソンに炸裂していた。

「ごぶあっ」

跳ね飛ばされたクレソンは、大地をごろごろと転がる。

「< 治癒(ヒール) >、げふっ」

「治……があっ」

「げぼああっ」

回復が間に合わない。ゾンビキングの素早さは時間を追うごとに増している。

嵐のような乱打に、クレソンは木の葉のごとく翻弄されていた。

遂にはゾンビキングに両手で掴まれ、クレソンは高く持ち上げられる。

「ぎゃああっ、は、離せっ、離せっ」

「あ、わわわ」

ウミンが慌てた声を漏らした横で、ゼノスはさっきからなんとも言えない違和感を覚えていた。

一体、何が気になっているのだろうか。

ウミンとの会話の中で、なんとなく居心地の悪さを覚えたような――

「……あ!」

ゼノスが思わず口を開いた直後、クレソンが悲鳴を上げた。

「ひいぃぃぃっ、た、助けてくれぇぇっ!」

ぐぱぁと大口を開けたゾンビキングが、クレソンの頭部にかぶりつこうとする。

杭のような歪な牙が、若き治癒師の命を刈り取ろうと間近に迫った。

その瞬間――

「< 超高位治癒(メガヒール) >!」

ゼノスの詠唱の言葉が響き、白い光が津波のようにゾンビキングに襲い掛かった。

聖なる濁流にのまれたアンデッドは、オオオと咆哮し、骨だけになって崩れ落ちる。

全てが静寂に還った後、クレソンは尻もちをついたまま荒い息を吐いた。

しかし、強がりだけは忘れない。

「だ、誰が助けろと言った……!」

「いや、思いっきり言ってたじゃないですか」

ウミンが突っ込むと、クレソンは立ち上がって声を張り上げる。

「い、言ってねえ」

「言ってましたよ。べそかきながら、助けてくれぇぇぇって」

「やめろぉぉ」

同期の二人がやり取りをしている横で、ゼノスは額の汗を拭うと、申し訳なさそうに言った。

「いや……むしろなんかすまん……」

「……?」

気になっていたことが、ようやくわかった。

アンデッドは、より強力なアンデッドに引き寄せられる性質がある――

ゾンビキングは確かにゾンビ系上位の魔物ではあるが、こいつはまだ生まれたてであり、本来の力には遠い状態だった。

それなのにあれだけたくさんのアンデッドが周りに集まるだろうか。

実は他にもっと強力なアンデッドがいるのではないか。

そして、思いついた。

確かにいたのだ。ここからほど近い場所に、アンデッド最上位クラスの魔物が――

+++

「へぷしゅっ」

墓地からほど近い王立治療院の寮にて、レイスが派手にくしゃみをした。

「カーミラさん、大丈夫? 風邪?」

リリに心配そうにのぞき込まれたカーミラは、ふわりと浮いて足を組んだ。

「くくく……死霊王と呼ばれるわらわが風邪とは面白い冗談じゃ」

「違うならいいけど、大きなくしゃみだったから」

「そうじゃのう……誰かがわらわのことを考えているのかもしれんのぅ」

「わぁ、人気者だね、カーミラさん」

「くくく……このおだて上手め。シチューもなかなかの美味であったぞ」

「えへへ、カーミラさんも褒め上手だね」

「くくく……」

「うふふ……」

ゼノスの部屋では、のんびりした空気の中、アンデッド大量発生事件の元凶が、すこぶるのんきな会話を繰り広げているのであった。