軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第27話 再会

——あの野郎、やっと見つけたぜ。

アストンは、ガイルと目を合わせ、駆け出した。

ゼノスはまだこちらに気づいていないようだ。

エルフと思われる可憐な少女が、ちょこまかと足を動かして隣に寄り添っている。

「リリ、こっちだぞ」

「うんっ。リリ、なかなか道を覚えられない……」

「貧民街は、道が入り組んでるからな」

「ゼノスはよくわかるね、やっぱり昔住んでたから?」

「俺が住んでたのはもっと奥だけど、この辺りも来ることはあったしな。リリも貧民街の路上で生活してたんじゃないのか」

「そ、そうだけど…‥」

「おい、ゼノスっ!」

全く気がつく様子がないため、アストンはしびれを切らして呼びかけた。

ゼノスはその場で立ち止まり、目を細めた後、少しだけ驚いた顔で言った。

「……あれ? まさか、アストン……とガイルか?」

「くっくっく、その通りだ。しぶとく生きてやがったようだな、ゼノス」

「なんでこんなところにいるんだ」

「くはははっ、なんでだろうなぁ? お前にわかるか?」

「いや。じゃあ、俺は忙しいから」

「ちょ、ちょっと待てやあぁぁぁぁぁっ!」

そのまま通りを横切ろうとするゼノスを、アストンは必死に呼び止める。

「お前だよ、お前っ!」

「……え?」

「お前を探してたんだよっ。この俺がじきじきに会いに来てやったというのに、立ち去ろうとするとはいい度胸じゃねえか」

「俺を探していた? ……なんで?」

素で尋ねるゼノスに苛々しながらも、アストンは居丈高に腕を組んだ。

「喜べ。お前を【 鋼鉄(アイアン) の 不死鳥(フェニックス) 】に戻してやる」

ゼノスはぽかんとした顔で、一言答えた。

「断る」

「ははは、そうだろ。俺の慈悲に感謝しろ。嬉しさのあまり泣くんじゃ……はぁぁぁぁぁぁあぁあっ!?」

アストンは絶叫して、ゼノスに詰め寄った。

「俺の聞き違いか? まさか断ると言ったのか?」

「言ったけど」

「なぜ……なぜだっ」

「なぜもなにも、不当な扱い受けるし、報酬ないし、俺のメリットゼロだし、普通断るだろ」

「そっ、そういうことじゃねえ。この俺が誘ってるんだぞ」

ゼノスは面倒臭そうに、ぼりぼりと頭をかいた。

「まあ、どうしてもって言うなら、暇な時にクエストに一回同行するくらいなら考えてやらんでもないが、ちゃんと金は払えるんだろうな」

「……は?」

「俺はただ働きはやめることにしたんだ。一回の回復ごとに数万ウェン。重傷の場合は百万ウェン。防護魔法と能力強化を使う場合は三倍で。言い値で払ってもらうぞ」

「な……なんだとぉっ」

アストンは奥歯を噛み締める。

今の自分達にそんな金がある訳がない。

「お、お前ごときが調子に乗るなっ。どうせここに居場所なんてねえだろ」

貧民街にはたまたま同じ名前のすごい人物がいて、亜人達に随分慕われているようだが、目の前の男はそれとは別だ。

こいつが傷を一瞬で治す特級レベルの治癒師で、更に別系統の防護や能力強化魔法を使っていたなど信じられるはずがない。

睨みつけていると、何人かの亜人がそばを通り過ぎた。

「あ、ゼノス先生、こんにちわっす」

「おう、足はどうだ」

「おかげさまで調子いいっす。先生の治療であっという間に傷がよくなりました」

「褒めても何も出ないぞ。夜中まで働くのもいいが、あんまり無理すんなよ」

「ちっす。ゼノスさん、この前は治療ありがとうございました。上等な肉が入ったんで今度持っていきますよ」

「ありがとうな。前のも美味かったよ」

「……え?」

アストンとガイルは顔を見合わせた。

通りがかった亜人達が、次々とゼノスに挨拶している。

貧民街には亜人に慕われるすごいゼノスさんがいるらしい。

だけど、目の前のこいつは……

「な……なあ、アストン。やっぱり、ゼノスって、このゼノスじゃ……」

「……」

ガイルの言葉に、アストンはすぐに返答できなかった。

だが、亜人達は、傷がすぐによくなったと、感謝の言葉を口にしていた気がする。

じゃあ…………何か?

パーティを助けていると言ったこいつの言葉は、全て本当だったのか。

【 鋼鉄(アイアン) の 不死鳥(フェニックス) 】が無傷のパーティでいられたのは、全てゼノスのおかげだったということか。

ガイルが慌てた様子で口を開いた。

「おい、アストン。お前がゼノスを追放するって言ったんだぞ、どうするんだよ」

「う、うるせえっ。お前らも喜んで同意したじゃねえかっ」

アストンとガイルが掴み合いを始めた。

「このおじさん達、なんだかうるさいね、ゼノス」

「おじさんじゃねえぇっ!」

「そうだな。じゃあ俺達は行くか、リリ」

「って、お前もそのまま立ち去ろうとするんじゃねえよぉぉぉ、ゼノスっ」

「なんだよ、まだ何かあるのか?」

アストンは肩で息をしながら、ゼノスを睨みつける。

「お前、本当に戻ってくる気はねえのか……?」

「だから、ないって言っただろ。俺はここで結構楽しくやってるし」

「この俺が頼んでるんだぞっ」

「悪いな、アストン」

——もう遅いんだ。

そう言って、ゼノスはアストンに背を向けた。

可憐なエルフの少女が隣を歩き、ゼノスを慕う亜人達が、周りをわいわいと取り囲んでいる。

ぽつんと残されたアストンは、遠ざかる背中を見つめながら、握りしめた拳を震わせた。

「俺を、無視するな……。底辺の住民にちょっと慕われているくらいでいい気になりやがって。俺はいずれ貴族になる男だぞ……」

腰の剣をゆっくりと抜き、アストンは駆け出した。

「許さねえ……許さねえぞ、ゼノ——」

ボグァァアン!

「げぼはあああっ!」

脇腹に強烈な衝撃を受けて、アストンは地面を転がった。

なんとか顔を上げると、金髪に青い瞳をした美しい女が、魔法銃を手に冷ややかに見下ろしている。

「公道で他人に襲いかかるとは大胆だな。さすがに近衛師団として見逃せんぞ」

「こ……近衛師団?」

王都の治安維持を一手に担う一大部隊だ。

前を歩いていたゼノスが振り返った。

「あれ、クリシュナ、どうしてここにいるんだ」

「貴公に会いに来たのだ。指先をすりむいたからな」

「それくらい唾つけときゃ治るが」

「い、いいではないか。治療代は払うのだし」

「まあいいけど、たまたま往診に来てただけで、俺の家はこの辺りじゃないぞ」

「ふっ、迷ったのだ」

「相変わらずだな」

「しかし、結局出会えたのだから、私の方向音痴に感謝だな」

「完全に開き直ったな」

クリシュナ、という名前には聞き覚えがある。

確か、史上最年少で近衛師団の副師団長に上り詰め、貴族の絡んだ大事件でも大きな功績を上げたという噂の凄腕だ。

そんな人物がゼノスと親しげに会話している。

貧民街の顔役に慕われ、近衛師団の幹部と近しい仲。

「……ゼノス……て、てめえは一体何だ……何なんだよ……」

脇腹を押さえながら身を起こすと、そばにクリシュナが近づいてきた。

「さあ、ついでだったが、暴行未遂犯として近くの詰所に引き渡させてもらうぞ」

アストンは咄嗟に後ろにいたガイルを指さした。

「違うんだっ。俺は嫌だったのに、あいつに無理やりやらされて……」

「は? アストンお前何を……?」

驚くガイルにクリシュナの視線が向いた瞬間、アストンはその場を駆け出した。

背中を撃たれないよう細道に飛び込み、がむしゃらに走る。

——許さねえ、許さねえぞ……。

腹の底に、言い知れぬ感情が渦巻いていた。